96話
翌朝、流輝を含めたモールザ王国メンバーは竜馬で出発した。琉生たち神殿メンバーは大勢でいきなり向かっても対応しにくいと思われたため、数人を監視に回して動きがあったり様子を窺ってやはり全員向かったほうがいいと判断されてもすぐ出発できるよう準備だけはして、一旦ニューラウラ王国で待機することとなっている。
朝の早くに起きるのは苦手な琉生だが、流輝を見送るため今日はがんばって起きていた。流輝は笑顔で旅立っていった。
モールザ王国メンバーたちは王国付近まで竜馬で向かうと一旦留まり、様子を窺いつつ入国する前に再度計画を確認し合う予定だと聞いている。計画というのは最初に偵察のために数名で先に入り、王子たちの場所を確認する。居場所がわかったところで、通信機を使って外で待機している者たちに連絡を取り、魔術師と騎士数名をそこへ残して王子たちと合流するため他の皆で向かう。まずはそれが目標ということだった。
この計画を立てることができたのには昔に琉生と流輝がモールザ王国の王宮内地図を作ったことがあるからだったりもする。もちろん完全に正確な地図ではないし、その後変わっている可能性もあるが、城の構造は少なくとも共有と把握できた。至るところに不明瞭なスペースがある、そこがむしろ怪しいと皆が判断していた。おそらくは牢や地下コロシアムへ続く通路など、公開できないようなスペースだろうと思われた。そういったところに第二王子が拘束されている可能性は低くない。
光の神殿へはまだ向かえないのと各国からの援軍連絡待ちもあり、ただ王宮で待機している琉生は流輝が気になって、心配で、とにかく落ち着かなかった。ここでひたすら心配しても仕方がないとわかってはいるが、大事な流輝が目の届く範囲にいない上に危険な場所へ向かっていると思うと気持ちが急いで仕方がない。
しかし落ち着かない気持ちのまま神殿へ向かうわけにもいかないため、琉生は何とか気を取り直そうと応接室で熱い茶を茶菓子とともに口にしていた。そこへローザリアがやって来る。
「ローザリアもどう?」
「うん、ありがとう」
メイドたちには部屋から出ていて欲しいと頼んでいたため、琉生自らが茶を淹れる。昔はこういったことも何もできなかったが、周りに内緒にしているつもりである琉生はこっそり甘いものを堪能したいがため、茶の淹れ方も勉強していた。ちなみに今も「茶菓子もついでに置いてあるけど俺はどうでもいいんだ」といった顔でニコニコとローザリアに勧めた。
「メイドが茶と一緒に置いていったんだ。せっかくだから一つは口にしたけど、よかったら後はあなたがどうぞ」
するとローザリアがおかしそうに笑ってきた。何故笑われたのだろうと怪訝に思いつつも琉生は何でもない風を装い、ローザリアの前に焼き菓子がたくさん乗ったスタンドごと、淹れた茶とともに置いた。
「ありがとう、ルイ。……落ち着かない?」
「……まあ、ね。今まで別々になったことないから余計かな」
「そっか。……うん、でもリキだよ? あんなに魔力強くてどんな魔法でも使える人だよ。ソリアですらリキにはもう敵わないって言ってた。そんなリキだから絶対大丈夫だよ」
多分ローザリアは自分にも言い聞かせつつ、琉生を励ましてくれたのだろう。それがわかり、琉生は微笑んだ。少し落ち着きも取り戻せたように思う。
「だよね。そうそう、それに兄さんがローザリアを悲しませるようなこと、するわけないもんね」
そしてニッコリと微笑み、わざとからかうように追加する。すると案の定、ローザリアは真っ赤になってきた。
昨夜、流輝が部屋にやって来た時にはもう琉生はベッドに横たわっていた。
自分たちの屋敷では今や別々の部屋で眠っている二人だが、ここではノアが昔の感覚のままだったからか、たまたまか、同じ部屋が準備されていた。一応流輝を待ってはいたしそれほど遅い時間でもなかったが、特にすることもない上に色々ありすぎて何だか疲れたのもあった。多分流輝もそうだろうと思っていたが、部屋に入ってきた流輝はやたら気分が向上しているような様子だった。
「お帰り、兄さん。どうしたの、ここへ来る途中焼肉でも転がってたの」
「お前は俺をなんだと思ってんだよ。ちげぇ。聞いてくれよルイ! 俺、ローザリアが恋愛対象として好きだった!」
「うん」
「ほら、びっくりだ……、ん? なんだよ、全然驚いてねーのな」
「……いやだって兄さんがローザリアのこと好きなの、多分結構前からだよ……」
「え」
「気づいてないの兄さんくらいじゃないかな」
「え」
唖然とした後、さすがに少し赤くなった流輝は気を取り直したようだ。
「クソ。何で自分だけわかってねーんだよ俺。……まあいい」
いいんだ? さすがおおらかで明るくて、適当で大雑把な兄さん。
ニコニコと琉生が流輝を見ると「なんとローザリアも俺が好きみたいなんだ。両思いだったなんてすごくないか?」と少し興奮気味に言ってくる。琉生は笑みを浮かべたまま頷いた。
「だね」
「……おい。まさかローザリアの気持ちも知ってたとか……」
「ごめんね。でもローザリアの気持ちを勝手に俺が兄さんに言うわけにもいかないでしょ」
「確かに。でも、マジか……」
「おめでとう、兄さん。子どもは何人作るの?」
「ありがとう。あと気が早すぎんだろ……」
「キスはした?」
「まさか」
「何がまさかなの? この期に及んでヘタレたの?」
「ちげーわ。さすがに今回の遠出は楽勝ってわけでもないからな。無事戻ってくるまで手なんか出すかよ」
「律儀だねえ」
「うるせぇ」
そんなやり取りを思い出しながらのからかいだった。




