91話
拘束されたモールザ王ローガンは腐っても王らしく、無様な抵抗は一切しなかった。威厳を留めつつおとなしく案内された部屋へ連れられた。
ただし話を聞きだす際に「わしを問いただすというのにこのような身分の低い者を寄こすとは」と静かに怒りをあらわにしたらしい。
訪れた者は決して身分の低い貴族たちではなかった。会議にも出席していた各国の重鎮たちだ。
「ローガン王は君たちを寄こせと言っているらしい」
ノアに困惑した様子で言われた流輝と琉生は「皆がそれでいいのであれば」と同意した。
「すまない。もし何か危険を感じたらすぐに部屋を離れてくれ。情報も大切だが何より君たちの安全が第一だ。一応部屋の外には精鋭メンバーを数名配置させる」
「ありがとうございます」
二人が出向くとローガンは破顔し、自分の座っているテーブルへ招いて椅子に座るよう命じてきた。
「何故俺らを?」
「わしはモールザ王国の王だ。例え拘束され自白の魔法を使われたとはいえその辺の貴族と同じ扱いを受けるつもりはない。そなたたちは王と同等クラスである上とても希少価値のある存在だ。わしから話を聞きだすのにふさわしい」
俺らは宝石かよ。っていうかそんな威厳ある国の王ならそもそも悪事に手をつけるべきじゃねえだろ。
そう思ったが流輝はなるべく顔にも出さないようにしながら話を聞いた。
ローガンはただ、光の魔法石が欲しかったのだという。
「あなたと密談していた騎士はどういう経緯であなたの護衛騎士となったんですか」
「あやつは先王から仕えている護衛騎士だ。先王の頃から王に忠実だった男だ。信頼しないはずがなかろう」
当然といったローガンに嘘を言っている様子はない。そもそも自白の魔法により、嘘を言うことは不可能なはずだ。ということは正体が魔族であった護衛騎士はそれほど以前からモールザ王国に潜んでいたということになる。これはかなり問題視すべき情報だった。
その上話を聞いているとローガンの思考にところどころ違和感というか不明瞭というか、本人の意思というわりに明確さや一貫性がないように思えた。
もしあの護衛騎士だけでなくローガンの周りには他にも魔族がいるのだとしたら、もしかしたらローガンの思考はすでに干渉され一部操られているのかもしれない。
第一、ローガンが光の魔法石を狙ったのは単に価値があるからだ。自白の魔法を使われた上で本人が言い切るのだから間違いはない。
「陛下。あなたは魔族のことをどう思われますか」
「どう、と言われてもな。魔族は魔族ではないか。忌むべき存在でしかない。消えてしまえばよいと思っておる。だからこそ希少価値があるだけでなく、魔族や魔獣の力を弱らせる力を持つそなたらを歓迎しておる。来年が楽しみではないか」
やはりおかしい、と二人は思った。少なくとも光の救世主を疎んじていないローガンが自国内で兵を集め、光の神殿へ兵を送るといった行動をとるのは矛盾している。
その後もいくつか話を聞いたが、ローガンの口からは一切魔族に関する情報が出ることはなかった。聞かされたのはひたすら財政難についてだ。本人や貴族たちによる散財のせいでしかない財政難を補うために奴隷制度をいまだに実施していることまで聞かされてしまった。とんだ悪政だが、魔族に関する話はほんの少しも出てこなかった。
捕らえた護衛騎士にも話が聞けたらよかったのだが、魔族だと正体がばれたところでその騎士は消滅してしまった。流輝たちの屋敷に忍び込んだ者たちと同じだ。本人が自害したのか、はたまた他の魔族によってそういった魔法をかけられていたのかは不明だが、何か情報を引き出すことはこれで不可能となった。
だが落胆している暇はなかった。ローガンは最後にとんでもないことを言ってきた。
「わしを拘束したことは伝書鳥などで我がモールザ王国へ伝わっておるはずだ。今頃は三国へ戦争を仕向けるための準備がなされているであろう」
「は……? 拘束されたのは光の神殿での儀式を妨害する行為が一番の原因だとわかっておられるのでは? あなたも先ほど来年が楽しみだと……」
「まずは代表する国、ニューラウラ王国だ。だいたいわしが命じたわけではない。このモールザ王を慕う兵たちが自ら行動しているだけにすぎん。それにこの国を手に入れると同時に光の魔法石も手に入るかと思うと楽しみでしかない。そなたたちもわがモールザ王国へ来るとよい。歓迎するぞ」
駄目だ、と二人は思った。思考にとりとめがない。一見落ち着いた様子でまともに話している風だが、内容に一貫性がない。もしかしたらかなり深いところまでローガンは魔族に思考を弄られているのではないだろうか。
とはいえ同情はできない。元々は身勝手で欲深い考えしかなかったがため、魔族につけいられたはずだ。ローガンも、ひょっとしたらそれ以前の王も。
流輝と琉生は部屋を出ると急いでノアに連絡を取り、中断していた会議を再開させた。そして報告し、モールザ王国からの攻撃に備える準備をとりあえず始めようと各自が動きだした時に別途報告が入った。
モールザ王国第一王女だったルビーが駆けつけるようにして訪れてきたのだという。竜馬で急いでやってきたのか、髪は乱れ身なりは崩れ、身分を証明するものがなければ一見元第一王女だったと誰も思えないほどだ。
三年前の十九歳の時にモールザ王国の貴族の元に嫁ぎ、基本的に王宮と接することもなかったルビーだが、父親を心配し駆けつけてきたのかと最初誰もがそう思った。だがそうではなかった。




