89話
流輝と琉生が十九歳となり、年も明けてしばらく経った頃、どこから漏れたのか光の魔法石に関する情報が魔族の耳に入っているかもしれないと王ノアから二人は聞かされた。
「ですが、あの時誓約書に全員がサインしています。その上で漏らしたとなると漏らした本人は……」
「それを承知の上で自発的に漏らしたか、命令されて漏らしたか、もしくは操られて漏らしたか。いくつかの可能性があるだろうが、魔族の動きを思うとおそらく漏れていると考えて間違いないだろう」
ノアは重苦しいため息をついていた。それも仕方がないのかもしれない。ここのところベレスフォード邸への侵入者が後を絶たない。ニューラウラ王国でベレスフォード大公爵であるモリスの屋敷へ忍び込もうなどと考える者はごろつきすらいないだろう。それほど身分が高いというのもあるが、モリスを筆頭に剣や魔法に秀でた者しかいない屋敷へ忍び込むのは自殺行為でしかないと誰もがわかっていた。
ただ侵入者を捕まえてもその者たちは自害しているのか魔法をかけられているのか、すぐに毒が回ってこと切れてしまうだけでなく、消滅してしまう。そのため問いただすこともできないどころか、人間か魔族かを調べることすらできずにいた。
とはいえそういった行為の上に高度な魔法をかけられる者といえば間違いなく背後にいるのは魔族だろうと思われる。また流輝や琉生の部屋を目指そうとしているのは明らかで、金目当てというよりはやはり魔法石目当てだと考えられる。
ノアが重苦しいため息をつくのは実の弟の屋敷が狙われていることに心を痛めているのもあるが、流輝と琉生の命を少しでも脅かそうとする行為が以前よりもあからさまになってきているからかもしれない。
ただでさえ幼少であった双子を召喚してしまったことに対し昔から相当自責の念に駆られているだけに、少しでも二人が危険にさらされることをノアは厭う。幼子だった時と違い、今では国で一二を争う勢いの魔法や剣の実力を持つようになり、その上何度も討伐へ出ていてもそれは変わらないようだ。流輝たちが「魔族のせいで俺らは早まって召喚されたし陛下のせいではない」といくら言ってもそればかりはどうしようもないらしい。
「光の魔法石の話はあの時の会議でしか行っていません。それと個人的感情を差し置いたとしても私たちの両親やローザリア殿下が漏らすとは思えない。陛下を除き当時参加していた四国連合国の代表者数名と剣聖騎士団、魔道騎士団の精鋭メンバー、そして私たちの中の誰かの仕業ということになります」
琉生はモリスたちやローザリアを抜いたというのに、丁寧にも流輝たちまで含めてきた。
「そういえば誓約書の効力があるのですから、当時の参加者の中で今現在命を落としているか重傷を負っている者を探し出せば明らかでは?」
「いや、ルイ。そうかもだけど、魔族って確か姿を変えられるんじゃなかったか? だとしたらそいつのふりをしてのうのうと生活している可能性もあるだろ」
「リキの言う通りだ。少なくとも会議に参加していた者の一人がということは、もはやそこの国が漏らしたと判断して間違いない。国の重鎮しか出席していないのだからな。ということは誓約書による魔力負荷を受けた者を国そのものが隠していてもおかしくない」
流輝と琉生は、ノアもローザリアなどからの報告によりもしかしたら同じく思っているかもしれないが、自分たちがモールザ王国を怪しく思っていることをこの時告げた。
「あと……神殿でモールザ王国の兵がよく見かけられるってのも、光の魔法石が狙われてんのと何らかの関係があるかもしれません」
通常見張りさえ置かない場所をうろつく理由がわからない。流輝としては「もしかして神殿を壊そうとか目論んでねえだろな」くらいは思ってもみたが、いくらモールザ王国が怪しくても神殿を壊して得られる利点が浮かばない。万が一魔族と通じていたとしても、神殿がなくなれば魔族や魔獣の力を抑えるものがなくなりモールザ王国にとっても困ることにしかならないはずだ。
二人からモールザ王国が怪しいと言われても、ノアは王だけに決めつけることはしなかった。とはいえ普段からレイクオーツ王国とは他の二国よりも親交が深いのもあり、まずは可能性の低いレイクオーツ王国に対して諜報員を送った。そしてレイクオーツ王国の王ガルアと数名の信頼できる者たちと連絡を取り、密かに話し合いが始まった。
話し合いとはいえ、四国連合会議のような定例の大きな会議ではないため王たちは自国を簡単に離れることもできない。そのため魔法石を使った通信機を利用した。通常の通信機でも接続させるとお互いの姿が映し出され会話ができるが、ここで使用されたのはかなり大きな通信機だった。もちろん秘密裏に会議は行われた。
モールザ王国は魔法石や一般の宝石、炭鉱などがとれる鉱山がある関係で、それらを加工し装飾品や美術品などを作るフェザリア王国とは昔から一番取引をしているのもあり、親交が深い。まだ何も明確な証拠は出ていないのもあり、話し合いの結果とりあえずこの二国ともに警戒し、探ることとなった。
それを聞いて頭を抱えたのはレイクオーツ王国の第一王子ルーベンだった。とはいえ王ガルアたちもフェザリア王国を疑うことには多少困惑はあった。
何故ならいまだにまだ結婚に至っていないらしいとはいえ、フェザリア王国の第一王女エリンはルーベンの思い人だからだ。最近ようやく婚約が成立したと流輝たちはレイクオーツ王国第二王子であり同級生だったフィンから聞いていた。ずっと思い続けてようやくだけに、今回のことは確かに頭を抱えたくなるだろう。
挙句、ルーベンは愛しいエリンの国が疑われている状態に黙っていることができず、婚約者としてではなく仕事の話という表向きの理由を作り、フェザリア王国へ向かったと流輝たちは聞いた。
「愛ってすげーな」
「まあ、うん、そうだね」
とはいえ、悪い話ではない。ルーベンなら実際エリンの婚約者でもある上に仕事の話ならば例えフェザリア王国が黒だったとしても偵察だと疑われる可能性は低いだろうと思われた。




