85話
流輝と琉生が王宮で魔術師、騎士として勤めるようになってから少し経った頃、各地だけでなく無主地にも出していたらしい偵察隊から報告が入った。とある森で魔獣だけでなく魔族の出入りが頻繁になってきたという。
ヴァルドレストの森と呼ばれているその森は、流輝たちが学生の頃から魔獣が他よりも多く、魔族が潜んでいるだけでなく活動拠点である可能性があるとされていた森らしい。そのため元々他の地域よりも監視の目は厳しくしていたようだ。
とはいえ以前に比べて出入りが増えているとしか現在もわかっていない。ただ他の国でも同じような判断がされているようで、他国の偵察隊と鉢合わせになることもあるらしい。基本的に偵察の際あからさまに姿を現しているわけでもないだけに、鉢合わせとなるとよほど他国も気にしているということになる。文書でのやり取りを行った結果、四国連合では共同戦線ではないが、協力し合って監視することとなった。その上で森から出て他の地を襲う魔獣に関しては魔道騎士団や剣聖騎士団が討伐に出る。流輝や琉生もヴァルドレストの森周辺の地域へ何度も出向いた。
従魔術師だった頃にソリアから教わりながら討伐に出ていた流輝は魔獣ですら倒した後モヤついたりしていた。生き物を殺すという行為に慣れそうになかった。
だが人間は、やはりどうしたって慣れていくもののようだ。今でもさすがに殺すことを楽しむなんて域には到底達することはできないが、わりと普通に倒している気はする。それは琉生も同じようで、この間「この調子で殺すことが当たり前になったらどうしよう」などと笑顔で言ってきた。
「当たり前にはならねえだろさすがに。とりあえず笑顔で言うのやめろ。こぇぇから」
「深刻な顔して言ったら兄さんに心配かけるかなって思って」
「いや……」
そう言われて深刻な、真剣な顔で「殺すことが当たり前に」と発する琉生を想像してみたが確かにそれはそれでちょっと心配になる。だが多分琉生が思う心配とは違う意味の心配だ。根本は変わっていないと思ってはいるが、昔のすぐに泣いてしまう琉生を今の琉生に重ねることはさすがに流輝ですら困難になっている。そのため深刻な顔をされても笑顔で言うのと少々似た怖さを感じそう、という心配なのだが言っても詮無きことだろう。
「いや、あの、まあ、あれだ。俺もお前も当たり前にはならないよ」
「だよね」
「というかそう願いたい」
「誰に?」
「はは」
琉生の剣技はすでに相当な域に達していた。かなりレベルの高そうな魔獣ですら、琉生が剣を振るえばあっという間に倒される。あのいつも淡々としていたフランですら以前、感嘆したように「俺が教えることなどもう何一つありません」と言っていた。
流輝が見ても恰好がいいなと思う。流輝が見ても、というのは身内だからというよりは、一見同じ顔らしいから、だ。さすがにお互いまったく同じ顔をしているなどとは思っていないが、実際一卵性双生児だし昔から元の世界でもこの世界でも身内や仲のいい知人以外からは見分けがつかないほど同じだと言われてきたため、一般論として把握している。その見分けがつかないほど同じ顔らしい相手を「恰好がいい」と思ったり言ったりするのは何というか、まるでナルシストみたいで少々抵抗がある。だがそれ以上に琉生が剣を振るう姿が様になっているのだから仕方がない。
とにかく、生き物を殺すことが当たり前にはなりたくないが、だが負けてられないなと流輝は思う。
二十歳に行う光の神殿での儀式を全うするまでに、当日かそれともそれまでにか、多分魔族の妨害は間違いなく入るだろう。ディルアン事件の際に出会った魔族の内、一人は流輝が倒したものの、もう一人はその一人よりさらに強い力を持っていた。そんな魔族が他にもどれだけいるかわからない状況だ。力をつけていくに越したことはない。
今も襲ってくる相当大きな魔獣を火魔法を使って二回ほどの攻撃で倒した流輝は自分の手のひらを握ったり広げたりしながら考えていた。
「リキ様。考えごとなど余裕ですね」
「ソリア。いや、余裕じゃねーよ。今もさ、攻撃を二回もしなければ倒せなかったから、どうやったら一発でいけたかなって自分の中で反省会してたとこ」
「勉強熱心なのは感心ですが」
ソリアが話しているところへ魔獣がまた襲ってきたため、ソリアも流輝もお互い交差するようにしてそれぞれ別の魔獣を倒す。
「先ほどの魔獣をむしろ一度で倒すなんてそれこそ魔王か光の救世主様くらいじゃないです?」
「いや、一応俺も救世主だろ……そりゃ正確にはルイだけどさ」
また襲ってきたため、指を軽くはじきながら流輝は何匹かの魔獣を倒した。ワンドを使うまでもない。ソリアは先ほども今も一応ワンドを振って別の魔獣を倒したが、以前「魔術師らしいでしょ、振ってるほうが」などとふざけたことを言っていたので多分今も形だけじゃないだろうかと流輝は内心苦笑する。
「何をおっしゃいますやら。もちろんリキ様も救世主様ですよ。今のはものの例えですよ。むしろさっきの魔獣を二度の攻撃で倒すなど、私ですら無理でしょうね」
「うっそだぁ、ソリア、嘘ついてんじゃねーぞ。ソリアが無理なこと、俺ができるわけねーだろ」
「おや、気づいてないんですか?」
さらに魔獣が増えたため、面倒になった流輝は仕方なくワンドを振った。その分四方に魔力が広がり、一気に魔獣が倒れる。それらをニッコリと見てソリアはワンドを腰に戻した。
「リキ様はずいぶん前から私など追い抜いているんですよ」




