80話
パーティと言えども流輝たちをよく理解してくれる両親には感謝してもいいかもしれない。仕方なかった成人の時のような大規模なものではなく、ほぼ身内ばかりといったこじんまりとしたものだった。それに流輝としてはそこが重要だが、ダンスは任意であり、そしてとても美味しそうな料理がビュッフェ方式で用意されてあった。コース料理といったかしこまったものでない上に、大規模な格式ばったパーティでもないので好きなものを好きな時に好きなだけ食べられる。
ただ、途中で何人もの令嬢に話しかけられてそのたびに至福の時を中断しなければいけないのは少々辟易とした。幸いダンスは断ってもよさそうなので毎回遠慮させてもらった。
キャスやフラン、ソリアもこのパーティには護衛や先生としてではなく、貴族の一員として両親から呼ばれていたようで、いつも以上に気取ったというか、恰好よさげな格好をしていて男女ともどもの視線を集めている。三人からは叙任式の時にも祝いの言葉を言われたが、ここでも流輝と琉生には顔を合わせた瞬間に駆けつけるようにやって来て祝ってくれた。
琉生も何人もの令嬢に話しかけられることに辟易したのか流輝にウインクしてきた後で、わざわざ遠くから祝いのためにやって来てくれたアリアンを伴ってずっと一緒にいる。多分琉生のことだから令嬢避けなのだろうが、アリアンは嬉しそうだし流輝としてもよしとした。あとどうせならそのまま本当に付き合えばいいのになどとほんのり思う。
ちなみにウインクしてきたのはおそらく「兄さんはローザリアといなよ」という意味なのだろう。確かに流輝もローザリアと一緒にいれば他の令嬢たちはきっと今のようにやたらやって来ることはない。
でも何かなー落ち着かねえ気がするんだよな。
身内も同然のローザリアに対して今さら思うことでもないはずなのだが、何となくそんな風につい思ってしまう。だがローザリアを目で探していると他の令息が話しかけているのに気づいた。
やべえ、うかうかしてると他の男に取られる。
思わずそう浮かんだあとに「取られるって何だよ」と自分に微妙になりながらも、流輝はローザリアに近づいた。相手に対し何やら受け答えをしていたローザリアも流輝に気づいて笑いかけてきた。
「リキ」
「お話されているとこ失礼。殿下に用があって。よろしいか?」
「あ、ああ。構いません」
身分を笠に着るつもりは全然なかったが、伯爵令息らしい相手が身分でか今日の主役に敬してか、素直に引いてくれたのでこれ幸いと流輝はローザリアをその場から連れ出した。
「用? って何?」
歩きながらローザリアが笑顔のまま聞いてくる。
「あ、わりぃ。用ってのは嘘」
「何それ。リキってば」
さらにおかしそうに笑いながら「じゃあどうしたの?」とローザリアは聞いてきた。
「んぁー、まあ、その。あれだ。令嬢避けに付き合って」
「……リキ、正直すぎるとこほんっと子どもだよ?」
「悪かったな子どもで」
少々ムスッとして言い返すとまた笑ってくる。
「リキらしくていいんじゃない?」
いくつか料理を皿に取り、流輝とローザリアはテラスへ向かった。飲み物のグラスはローザリアが持ち、いくつかの皿は流輝が持っている。それを見て「器用に持つね!」とおかしがりながらも「あとね、私も何人かの人に話しかけられて疲れてたから助かる」と流輝を見てきた。高いほどではないがローザリアの身長は決して低くない。だから流輝ともおそらくさほど身長差はないだろう上にローザリアはヒールのある靴を履いているから多分ほぼ変わらない。いつもはそんなこと別に気にならないのに、今は何故か妙に気になった。
「って、他にも話しかけられてたのかよ」
空いているテーブルに料理を置き、座りながら流輝は何となく面白くない気分を感じつつローザリアを見た。
「うん。何だろね、私がまだ誰とも婚約してないからかな」
「あー……まぁ、女の子って婚約すんの早い子わりといるもんな」
そういえばローザリアもいずれは誰かと婚約し、結婚するのかと気づいた。成人もしている年齢なので決して早いわけでもないのだが、違和感だろうか、何となくモヤモヤしたものを流輝は感じる。
「でも、あれだ。少なくともお前のその、血筋っての? 気にしない人らってこと、だよな」
「そうでもないよ。私自身を好きになってくれる人も中にはいるんだろうけど、ね。お父様と血が繋がってないことをよく思ってない人たちすらね、まだ相手のいない私をそういう対象に考えるみたいだし」
「は? 何だそれ。つか何だよそれ」
「仕方ないよ。だって私、生まれはどうであれ、この国の第一王女だし。幸いお父様は愛情深い方だからよその国へ嫁に出すとかいった政略結婚なんて考えてないけど」
「……何だよ、それ」
「リキたちもね、大公爵夫妻が愛情深い素敵な方たちだから何も言われないんだろうと思うよ。貴族もね、男の人でも家のためとかで婚約したり結婚したりする人、やっぱり少なくはないと思う」
「俺、子どもでいいわ、やっぱ」
「あはは……」
でも、子どものままだったらローザリアが結局誰かと婚約し、結婚するところをただ見送るしかできない。ふとそう思い、流輝は自分に対して怪訝な気持ちになった。
「どうしたの? 不可解そうな顔して」
「あ? いや、何でもねえ。つか相変わらずお前、甘いものばっか選んでるよな。ちゃんと肉とかも食えよ。太るぞ、あと筋肉つかねえぞ」
「別に筋肉ついて欲しくないわよ……あと太るとか言わないで。気にしてるんだから」
「何で気にするんだよ」
「……ちょっと太った」
「は? どこが太ったって? むしろもっと肉ついてもいいだろ」
何言ってるんだとローザリアに触れようとして、流輝は急に「いやいや触っちゃ駄目だろ」と我に返ったかのように思い、固まった。アリアンの頭などは普通に撫でていたというのに意味がわからなくて、だがわからないまま顔が熱くなるのを感じた。




