78話
目を閉じて二人は改めて今までのことを振り返り、思いを馳せていた。そして目を開けると向き合う。
「あーあ、会場に戻らなきゃな」
「兄さんはほんとこういう正式な催し嫌いだよね」
「何で好きになれると思うんだよ?」
叙任式が始まるまで抜け出していた。会場へ戻りながら二人は今朝のことも思い出す。
屋敷を出る前に改まって二人の前に立ち、カルナとモリスはそれぞれワンドと剣を贈ってくれた。二人のために特別に作らせたものだと聞いた。流輝と琉生を守るよう、守護の術が施された文様がそれぞれに彫られている。また魔術の媒体としてかなり高価な水晶が埋め込まれていた。ワンドの持ち手部分と剣の柄には魔法石とともにターナー家、要はベレスフォード大公爵を象徴する花の紋章が彫られていた。花はアマリリスだ。「誇り」を意味する花らしい。魔法石は美しい黄色であり、義父であるモリスが持つ雷の魔力がそこに込められているのがわかる。
また魔術師である流輝のワンドにはさらに魔力の効果を高めてくれる魔術具である青い宝石も埋め込まれていた。
このワンドと剣でいったいいくらしたんだろ……。多分結構な屋敷が何軒か軽く建つだろな。
思わずそんなことを思ってしまうほど、贈られた武器は一見シンプルなデザインでありながら豪華だった。つい引いてしまいそうではあったが、ひたすら持ち主を守護するよう願いが込められているのがわかるこれらと両親の気持ちが嬉しくて、流輝も琉生もとても感動した。さっそく今まで従魔術師、従騎士として使っていた武器を腰から外し、両親から贈られたものに変える。
「きっとそれらの武器が二人を守ってくれるよ」
そう言いながら、カルナとモリスは二人を強く抱きしめてきた。
カルナとモリスはもちろん、二人がこの世界のために召喚された光の救世主だとわかっている。それも二年後の二十歳の時のために。だが例え血が繋がっていなくとも、異世界の光の救世主であっても、我が子に間違いない。とても愛しい二人を危険な目に遭わせたくないという思いは強かった。
カルナが「本当は私、あなたたちを……」と言いかけたが、二人は何を言おうとしているかわかったのでただ首を振った。カルナも言うのをやめてまたぎゅっと抱きしめてくる。
言いたかったのは「魔術師や騎士じゃなく、大公爵家の息子としてこれからも過ごして欲しかった」だろう。息子としてとても愛してくれているからこそ、思ったことだと二人も知っている。
二人はこの九年間で、何のためにこの世界に来たのかを自分たちなりに勉強して理解したつもりだ。最初は「何故」「何故自分たちだったのか」「何故こんな危険な世界に呼ばれなければならないのか」と悲しくてつらくて苦しくてわからなかった。そして本当の両親が恋しかったし、元の世界が恋しかった。
だが無償の愛を惜しみなく注いでくれるカルナとモリス、それにローザリア、またたくさん知り合った人たちがいたから、二人は様々なことを知った上で受け入れられた。そして今こうしてここにいられる。
ニューラウラ国王ノアもずっと二人が帰るための方法を調べてくれていた。結局いまだに見つかっていないものの、それでも王の椅子で高みの見物をすることなく心を配りがんばってくれていたことに二人はとても感謝している。
そんな人々のおかげで、この世界で生きようと思えた。いつか戻れる日まで生きようと思えた。例え戻れなくても、カルナとモリスを「お父さん」「お母さん」と呼んだあの日に二人はこの世界で生きる覚悟を決めた。
だからこそ、魔術師や騎士として戦い、いずれやって来る光の救世主としての役目を果たす。
「俺たちは大丈夫だよ、お母さん」
「俺たちはそのためにこの世界に呼ばれたんだしね」
二人の言葉に、だがカルナとモリスの瞳は悲しげに揺らいだ。流輝は慌てて付け足す。
「光の救世主としての役目を果たしたら、その時こそ本当の意味でお父さんとお母さんの息子になれるだろ」
実際そう思ってもいる。今はまだ二人は光の救世主としてこの地にいる。カルナたちはその間二人を世話するために受け入れてくれた存在でもある。だから役目を果たせば、その時こそ救世主のしがらみもなく普通の「親」と「息子」になれるのだと二人は考えていた。
「本当も何も、あなたたちはすでに私たちの息子ですよ。でもあなたたちがそう考えているのなら、わたしたちは見守り、待ちます。その代わりあなたたちも、本当に大切な息子なのだと私たちが思っていることを忘れず覚えていてちょうだい」
カルナは優しく言うとまた抱きしめてきた。モリスは黙ってそんな三人を見つめていた。
それらを思い出しながら二人はまた改めて「そのためにここに来た」とお互い自分に言い聞かせるように考えた。二年後の二十歳の時のためにだ。そして役目を果たしたら、と二人はモリスとカルナの幸せそうな顔を思い浮かべ、微笑んだ。
そこへローザリアが少し怒ったようにやって来る。
「もう。やっと見つけた。叙任式で抜け出す人、普通いる?」
「今から行こうと思ってたんだよ!」
流輝が言い返す横で琉生が「本当はまだうだうだしてたかっただけだよ兄さんは」とあっさり流輝を裏切ってきた。
「お、お前もだろ!」
「せっかくすごくカッコいい恰好なのに、二人ともほんっといつも通りで台無しね」
ローザリアが苦笑してきた。




