77話
義父母は双子をディルアン事件にこれ以上関わらせたくないようで、裁判を傍聴することさえも結局一度もできなかった。だがキャスやフランはその後どうなったか知っておきたいだろうと「あなた方のお父様、お母様には内緒ですよ」と随時起こったことを教えてくれた。
ディルアン親子が拘束されてから、現行犯とはいえしっかりとした調査はなされたらしい。そして改めて、正式に魔族と手を組み光の救世主を殺害しようとした罪に問われることとなった。その際、ラントは最初白を切っていたらしい。だが父親であるドルフがラントを庇うため全ての罪を被ろうとしたと知り、何もかも自白したそうだ。
「ドルフは実際食えないおっさんでしたけどね、家族に対してはちゃんと愛情があったんでしょうね。そしてラントもあんなでも父親を愛していたわけだ」
キャスがしみじみと言っていた。
ドルフは長男の処刑は免れないとわかっていたのだろう。そしてそういう育て方をしてしまった自分に責任を感じ、悔やみ、何もかも背負おうとしたのだと思われる。
魔族に上手くたぶらかされたのだろうとはいえ、魔族と手を組むだけでなく光の救世主を殺害しようとしたことは、世界を危険にさらすことと同じであり、王家に仇なす裏切り者として反逆罪に問われる。また、魔族と手を組み世界に対し剣を向けたこととなり外患誘致罪という、反逆罪とともに重い罪が挙げられた。裁判が開かれた以上は正式に手続きを踏んで進められたものの、ラントは結局即処刑という判決となったらしい。
決まってから、ラントは重罪を犯した貴族が入れられる塔に収容されることとなった。処刑が決まってもここでしばらくの間過ごすこととなるらしい。貴族が入れられるとはいえ、かなり粗末な待遇だと聞いたことがある。気位の高いラントは耐えられないのではないかと流輝は何となく思っていたが、意外にも従順でおとなしく、たまに訪れる司祭とともにアリータ神に祈る日々を過ごしていたようだ。キャスは塔の番人を知る騎士から聞いたと言っていた。
ラントが収容されている間に流輝たちはさらに一年歳を取り、十八歳となった。王宮騎士、魔術師の試験にも合格して学園も無事卒業した。
その後ラントは断頭台にて斬首刑となった。流輝たちが卒業して数日後のことだった。
琉生を殺そうとしたことはやはり許し難かったが、自白し、罪に問われ、それを受け入れたラントを流輝は今ではもう許していた。そのため、死刑執行が行われる日はあらかじめキャスに教えてもらい、自室でラントを思い、祈った。他人に対して祈ったのは初めてだった。
ちなみにドルフは死刑を免れたものの称号は剥奪され、ディルアン家は没落することとなった。それでも生きていればまたどうにかなったのだろうか。しかしそれはもうわからない。ラントをたぶらかした魔族を探ろうとしていたらしいドルフはある日、死体となって発見された。証拠もなければ目撃者もいないが関係者はおそらく魔族の仕業だと踏んでいるようだ。
この事件のせいでルバスとアリアンは王宮や学園でさぞかし肩身の狭い思いをしただろう。一つ年上のルバスは混乱の中無事王宮騎士となっていた。そして幸い辞めさせられることはなかったようだ。一度双子に対して正式に時間を取ってきて頭を下げてきた。流輝はあのルバスが? という思いと、あのルバスだしな、という思いに駆られた。もちろんルバスは何も関係ないからと即頭を上げてもらい、この件に関してこれ以上とらわれないで欲しいと双子は願った。
アリアンに対しても同じように願った。双子に対して思いきり泣きながら詫びてきたアリアンこそ、突然家族を二人も亡くし、身分を剥奪されたわけだ、つらいに違いない。
だが流輝たちと同じ歳のアリアンはあんな性格だったにも関わらず懸命にも中退することなくがんばっていた。それでも中にはあからさまに侮蔑的なことを口にする者もいたが、流輝が耳にした時は躊躇することなく喧嘩を売らせてもらい、そのたびに生徒会役員である琉生から「わかるけどやめて」と言いたくなさそうながらにお叱りを受けた。もちろん相手の生徒は先に口での暴力を振るったとして琉生は見逃さなかった。
生徒会長であるフィンはむしろ何も言わなかった。おそらくあえて流輝の行動に対し見て見ぬ振りをしていたと思われる。
アリアンは無事卒業すると母親リリアノの実家であるザーリット家に引き取られることとなった。公爵令嬢として育ってきたが、これからは伯爵令嬢となる。それでも称号剥奪されたままのディルアン家にいるよりはいいだろうとリリアノが判断したようだ。リリアノもザーリット姓に戻ったようだが今は王宮で働いているため、アリアンは父親と長男の二人と死別した上で母親と次男と離れて暮らすことになった。
ザーリットの家は国の中心から離れたところにある。気軽に行き来できる距離ではなく、アリアンはリリアノやルバスと度々手紙のやり取りをしているようだ。筆不精な流輝の分まで琉生がアリアンと文通友だちとなっており「母親やルバスから王宮の話を教えてもらうのが楽しいんだって」と教えてくれた。
そして今日、双子は叙任式を迎えた。
大きくそびえ建つ王宮の脇にある木陰から、流輝と琉生は空を見上げていた。晴れ渡った空から反射する光が木漏れ日となり二人に注ぐ。
ようやく正式な魔術師、騎士として認められて二人は王宮で働くこととなる。
この世界に来てから九年になるのだろうか。元の世界と同じくらい、この異世界にいたことになる。
今でも元の世界の家族や友人を思う。あのままいれば今頃は高校を卒業していたのだろうかと思いをはせたりもする。
この世界ではたくさんのことがあった。大変な思いを何度もした。だがそれと同じくらい、楽しいこと嬉しいこと、幸せなこともあった。
こうして見上げている空は元の世界の空と何ら変わらない。今も青くて雲が流れており、時折鳥の鳴き声が聞こえてくる。
二人は空から目を離し、お互いを見た。お互い、今日のために支給されたばかりの正装を身に着けている。流輝は術者の正装、琉生は剣士の正装で、手に取った時はお互いようやく一人前として認められるのだと純粋に喜んだ。そして腰にはこちらの世界で親となってくれた人たちから贈られた武器がぶら下がっている。
「ようやくここまで来たな」
「うん、ここまでたどり着いた」
二人は微笑み、そして目を閉じた。




