70話
キャスにしてみれば流輝と琉生がディルアン家へ招待されて赴くなど、心配過ぎて夜も眠れない勢いだった。
そもそも流輝たちが学園で選択科目をそれぞれ取るようになってから心配が絶えない。もちろん自分の主である流輝がニューラウラ王国では数少ない魔術師を目指してがんばっている姿はとても尊く素晴らしいと心から思ってはいるが、そのための授業が厳しすぎる。
欲を言えばフランのように主を教える立場になりたかった。正直とてつもなく羨ましい。喉から手が出るほどその立場を譲ってほしい。とはいえ琉生はあくまでもフランの主であり、キャスが教え……いや仕えたいのは誰よりも流輝だ。それに流輝が魔術師になりたいと願うならキャスはひたすら自分のできる範囲でサポートするだけだ。例え流輝を教えるのが、あのくせしかないソリアであっても。
そのソリアがどうにも厳しすぎる。ついでにフランも同じく厳しすぎる。
あの双子ならひたすら可能性しかない上に教えれば教えるだけ全てを吸収し、相当な実力をつけていくだろう。それはキャスにもわかる。だがそのためにそこまで厳しくする必要はないのではないかとしか思えない。
「いい加減にしろ。お二人を潰してしまう気か」
「……そんなわけない」
「そうそう。まさか。キャスもわかってるだろう? 私は教え子のリキ様をどれほど気に入っていてどれほど愛しく思っているか」
「大事な方だとわかっているならそこまで厳しくする必要ないだろうが。あと煩いソリア。お前が愛しいとか言うと一見語弊しかないから口を慎め」
幼馴染であるソリアは昔から今も変わらず、一見男か女かわからない容姿をしている。キャスから見ても相当綺麗な顔立ちであるとは思う。ただ性別不明であることは基本どうでもいいし、それによって騙される男がいくらいようが知ったことではない。しかし流輝が絡むとなると話は違う。
「語弊だなんて。ひどいなあ、私の幼馴染は」
「性別がわからないと思われてるままそれを楽しんでいるお前に泣かされている男どもを俺がどれだけ見てきてると思ってんだ。ある意味存在がいかがわしいだろうが」
「本当にひどくない? どう思う、フラン」
「さあ」
ニコニコとソリアに聞かれたフランはいつものようにとてもどうでもいいといった様子を隠すことなく適当に答えている。
「だいたいお前の性癖ってどうなんだ? 幼馴染の俺ですらわからねえんだけど。男が好きなの? 女が好きなの?」
「人を観察するのが好きだよ」
「そんなこと聞いてねえんだよ」
「……キャス。話がそれすぎてる。そんな話なら俺はもう行くからな」
ため息をつきながら言ってくるフランにキャスは「待て」と慌てて引き留めた。
「クソ。ソリアと話してると調子が狂う」
「大丈夫だよキャス。君はわりといつもそんな調子だ」
「煩いソリア。とにかく! お前らは厳しすぎるんだよ。過酷な鞭だらけだろうが! もう少し飴を与えろ」
「安心して、キャス。ちゃんと見えない飴はいつだって差し上げてるから」
「とてつもなくわかりにく過ぎんだろうが! あと見えねえなら意味ねえんだよ。そういうことを言ってんじゃねえ。あの方たちのためになるのはわかるが、もう少し厳しさを緩めろって言ってんの!」
「はぁ……。教えるのは俺たちだ、キャス。お前じゃない」
それを言っちゃあおしまいだろ……!
「っく。わ、わかってる。わかってるけどな、だからあれだ。俺は第三者の目として客観的にだな……」
「主観しか入っていない」
「わかるー。キャスはリキ様好きすぎだよね」
二人に何度抗議してもこんな感じで暖簾に腕押しだった。ただ、軽すぎるソリアとはいえ一度だけとても落ち込んでいた時はあった。流輝が魔獣に襲われた時だ。その話を聞いた時はキャスもソリアの元へ飛んで行って大いに抗議しようと思った。大切で大事な主をなんて目に遭わせているのだ、と。
だが落ち込んでいるソリアなど今まで生きてきて見たことすらなかったキャスは結局それに関して何も言えなかった。
その後いつものソリアに戻ってから「リキ様の魔力を私は少し調べようと思っている」などとよくわからないことを言っていた。何でも魔獣に襲われた際にソリアですら少々不可解な出来事があったようだ。ただそれがどういったことなのかはソリア以外誰も詳しく知らない。
とにかく、何度抗議しようがソリアとフランが双子に対して厳しく教育している様子は変わらないままだった。ただでさえ討伐へ連れて行くたびにキャスの胃に穴が開きそうだというのに日頃からそれで、本当に心配が絶えなかった。
からの招待だ。あのディルアンが何も考えなく流輝たちを招待するとは思えなかった。琉生いわく「弟のルバスは策略を練るタイプではない」らしいが、だったら父親のドルフか長男のラントの策略に違いない。
だがいくらキャスが流輝に色々言ってもそのたびに大丈夫的な返事が返ってくるだけだった。流輝に「でもキャスが俺を守ってくれるんだろ?」と言われた時は光栄のあまりその場にひれ伏したくなったが、安心は何一つできなかった。




