68話
ルバスは耳を疑った。ポカンとした顔を隠すこともできず、自分の兄を見る。
「何だ、そんな間抜けな顔をして」
「い、いえ。ですが聞き間違いでしょうか。リキ・ターナーとルイ・ターナーを我がディルアン家へ招待する、などと……」
「聞き間違ってなどいない。その通りだ」
「しかし、兄上は彼らをよく思っておられないのでは……」
ルバスとてそれは同じというか、あの双子、特に流輝に対しては負けたくなさすぎて忌々しさしかない。ただルバスはひたすら勉学や格闘など全てのことに対して真っ向に勝負して勝ちたいという気持ちでいるのに対し、どうも兄のラントはそういったこととは違う気がしている。
学園での成績などを競うのと社会に出て貴族として何かを競うのはもしかしたら全然違いすぎてそう感じるだけかもしれないが、ルバスのように勝負して勝ちたいという意志ではなく、何と言うのだろうか、単に目障りだと思っているだけというのだろうか。
……父上が実際そう思っておられるのは知っている。俺をあろうことかターナー家へ養子へ出そうなどと考えておられたが、それが実現しなかった理由でもあるターナーの双子をとても邪魔だと思っておられるようだ。
ルバスとしてはこのディルアン家が我が家だし実の親がいるというのに、いくら身分が上だからとはいえ養子になど正直行きたくはなかった。そのため忌々しいことだが養子の話を台無しにしてくれたそれだけはあの双子に感謝してもいいとさえ思っている。
それはさておき、ラントはその父親を尊敬しているが故に、全く面識のない双子を父親と同じように毛嫌いしているものとばかり思っていた。だからルバスと違い勝負がしたいのではなく、単に双子の動向や噂に対し忌々しく思っているのだ、と。
「馬鹿だな。だからこそ、だ。ターナー家とは今後も付き合いがあるだろうし、むしろ付き合っていきたい家柄だろう? ならいずれ跡取りとなるであろう彼らとも親しくするべきじゃないか」
「あいつらとですか」
「お前も大人になるんだな、ルバス。いつまでも子どもみたいに負けず嫌いを発揮して目の敵にしても仕方がないだろう? ただ親しくなろうにも俺は彼らと元々面識がない。だからお前にこうして頼んでいるんだ」
「しかし……その、茶会に招待するなら俺じゃなくアリアンに頼めばいいのでは……? あいつはあの二人と友人です、し」
「アリアン? ああ……」
そんなやつもいたな、という顔をラントはしてきた。どうにもラントは自分の妹であるアリアンのことをあまりよく思っていないようだ。兄を尊敬しつつ、妹のことはとてもかわいがっているルバスとしては少々切ない。
「俺はルバス、お前を見込んで頼んでいる。だがお前が負けず嫌いの気持ちばかり優先して彼らを招待することすらできないの言うのであればそうだな、アリアンに頼もう」
「も、申し訳ありません兄上。もちろんできます。やります」
「そうか。お前ならそう言ってくれると思っていたよ」
誠実そうで柔らかな笑みを浮かべ、ラントが頷いてきた。ルバスはホッとしながら続ける。
「日取りはおっしゃられたその日がもし、あいつらの都合に合わなければいつに……」
「いや、この日だ」
「え? で、ですが」
「この日だ。わかるだろう? 俺はディルアン家のことを考え、あの双子とも親しくしたほうがいいと思った。だが父上はどうにもあの双子を邪魔だと思っておられる。だからとりあえずある程度親しくなるまでは父上がお留守である時のほうがいい。当然、双子を招待したなどと話さないほうがいいことくらい、わかるよな?」
「な、なるほど……」
なるほど、と言いつつルバスは内心少し動揺していた。ディルアン家の将来を思うなら、今この家を一番支えてくれている父親に話さないで秘密にしておくなど、いいことのように思えなかった。とはいえ確かに父親であるドルフに話せば「彼らを招待だと? 必要ない」などと言いそうでしかない。ちなみに本心ではルバスも必要ないとしか思っていない。ただルバスの場合はいまだにすっきり勝てていないからという情けない理由に過ぎないため、意見を言うつもりなどない。
「ああ、そうそう。ついでに母上は彼らを招待することに賛成はするだろうが、口止めはしておいたほうがいいね、ご自分の夫に話さないよう。それもお前から言っておいてくれ」
「わかり、ました」
とはいえこうなったらラントに従っておこう、とルバスは頷いた。別に双子を茶会に招待するくらい、悪事でもないしドルフに話さなくとも問題はないだろうと思うことにする。
翌日、流輝と琉生が一緒のところへ出向き、用意していた招待状を渡すと流輝が白目をむく勢いで思いきり変な顔をしてきた。
「何だその顔は」
「どんな顔か知らねえけど変な顔にもなるわ! 何だよこれ」
「見てわからないのか? 茶会の招待状以外の何に見える」
「見てわかってるから聞いてんだろが……! 何でお前がこれを俺らに渡してくんだよ。気持ち悪いな!」
「俺だって気持ち悪いわ!」
「はぁ? だったら渡してくんなよ!」
「何だとっ?」
「……ちょっと……いい加減にしなよ。とりあえず兄さんもルバスも落ち着いて。というか今の流れからしても明らかに君は俺らを茶会に招待したそうじゃないんだけど、だったら何故?」
イライラと言いあっていると琉生がため息をつきながら間に入ってきた。それでルバスも一旦落ち着きを取り戻し、思いきり深呼吸をした。
「お前らはアリアンと親しいだろ。俺は妹思いだから、たまには家に招待してやってもいいなと思っただけだ」
兄がお前らと親しくしたいと思っている、と正直に言おうと思ったが、何となくラントはそれを望んでいないような気がしてとりあえず言い直した。




