67話
「そっちのほうはどうなってるんだい?」
気取った様子のラッセルに上から目線で聞かれ、アーリマンはイライラと見返した。
「順調に決まっているだろう。お前は特に何もしていないというのに偉そうに」
「おや、心外だね。僕は例の息子をそそのかして父親を殺させた。この功績は大きいだろう?」
「何年前の話をしている。百年単位でもの言ってんじゃないぞ。そうやって人間の貴族ぶるっていうなら年数も人間に合わせたらどうだ? それ以降何をやったというんだ」
「ちょっと静かにしなよあんたら。煩いんだよ。もうすぐジャルボルトが来る。まあ業火に焼かれて燃えカスになりたい、ってんなら止めないけどね」
「ノーラ、ノーラ。君は少々つれないね。もう少しレディらしくしても罰は当たらないよ」
「ッチ。確かに貴族ぶったとこ、うざいねこいつ。殺してしまおうかアーリマン」
「やめとけ。どうせ殺ってもまたその辺から生えてくるさ」
「君たちは僕を何だと……」
「シーッ。ジャルボルトだ」
アーリマンたちのやり取りを我関せずといった様子で無視していたルーシャスが唇に指をあててきた。三人は仕方なく黙る。少しすると皆がジャルボルトと呼んでいる男が入ってきた。そして空けてある皆を見渡せる席にどさりと座る。
ここにいる者すべての特徴である、尖った長い耳には妖しく光る赤い石のピアスが揺れていて、褐色の肌にも映えている。人間に売れば相当値の張る石だとアーリマンは知っている。金の価値はどうでもいいが、中々手に入らないような希少な石だ。
ジャルボルトは紫がかった黒い前髪をかき上げると、紫色をした目でじろりと周りを見てきた。美しい顔をしているが、それは髪や目の色同様ここにいる者すべてに当てはまる特徴でもあるため、誰もその辺は特に何とも思っていない。
「進展があまりないようだが」
「とんでもない。例の国を介して他の国にもずいぶん我々の手の者を送り込めていますよ。あの国の王は代々扱いやすい。自分の国が拠点にされているとも知らずに」
エルモアが楽しげに笑う。ジャルボルトに対してこうも楽しそうに話す者はエルモアとヴェラくらいだろうか。
別にジャルボルトがアーリマンたちの王というわけではない。アーリマンたちが王と認めるのはただ一人だ。
……その方はもうここにはいらっしゃらないが。
とはいえまとめる者はいたほうが事を運びやすいのも事実だ。よって一番力のあるジャルボルトが自然とボスのような立ち位置となった。力に重きを置くアーリマンたちとしてもそれに不満はない。もしいずれ自分がジャルボルトよりも力をつけたと思えた時はのし上がるだけだし、それはアーリマンたちだけでなくジャルボルトも把握していることでもある。
「そうそう。それにいざって時のために間違った情報も流す準備は万端よね。まだ今のところは私たちの影すら感じてない馬鹿ばかりってイメージだけど」
ヴェラがニコニコと言えばジャルボルトは鼻を鳴らした。
「そうやって油断していると一杯食わされる羽目になる。そうなった時はどちらが馬鹿者だろうな?」
「あら、心配性ねジャルボルト。ちゃんとね、力でねじ伏せるだけでなく今の世の中情報や準備、対策が大事ってわかっていてよ、私たち。うふふ」
「ジャルボルトに色目でも使ってんのか、このトンチキ女」
「ノーラったら口が悪くてよ。そんなこと言って、あなたのほうがそんなことを思ってるんじゃなくて?」
「何だってっ?」
「ヴェラ、ノーラ、いい加減にしろ」
アーリマンが鬱陶しげに言えば二人はお互い睨みあいながらも一応黙ってきた。ついでにジャルボルトがアーリマンを見てくる。
「お前は今、直接手をかける策の方を進めているんだったな。あの男は堕ちそうか?」
「ああ。ああいうヤツは扱いやすくて助かる。ただ、どうする? いざ手をかける際に我々が関与していると全くわからないよう進めることもできるし、匂わせることも、あからさまにすることもできる」
「そうだな……そっちの進行具合によるな」
そっち、とジャルボルトはエルモアたちを見た。確かに内容や状況によって、潜んだままにしておくほうがやりやすい場合もあれば、陽動ではないもののあからさまにしておいたほうがやりやすい場合もあるだろう。
どのみちアーリマンのほうは万が一失敗しても被害が出るのはあの扱いやすい男やその家族だけだし、そうなってもこちらとしては楽しめただけで別に損失ではない。もちろん、成功するに越したことはないが。
「では、その辺は任せる。俺は予定通り進めるだけだ」
アーリマンは頷いた。
その後もいくつかやり取りを交わし、まずジャルボルトが出て行った。続いてルーシャスも「では」とだけ呟くと出ていく。
「ジャルボルトもルーシャスもそっけないよな。もっと親交をはかってもいいじゃないか」
「気持ち悪いこと言ってるんじゃないよエルモア。いいからあんたはあんたの仕事をしっかりするんだね」
用意されていた酒のグラスを一気に飲み干すと、ノーラもそう言い残して出ていった。アーリマンを含めた他の者たちも酒を飲み干すと同じように出ていく。
……とりあえず俺もあの男にあと一押ししておくか。
アーリマンは歩きながらゆっくりと自分の髪と目の色を変えていく。そして例の酒場へと向かっていった。




