65話
結局会議が始まった数日間、双子は宮殿内を案内してもらったり騎士たちの訓練に付き合ったりするくらいしかできなかった。訓練に付き合うのは流輝も楽しかったが、宮殿内の案内に関してはほぼ興味なかった。対して琉生はとても楽しかったらしい。
「何が楽しいんだ?」
「国によって家具の雰囲気も違うし、装飾とかも似たものがあっても全体的な感じが全く違ったりするだろ、そういうのすごく趣深いじゃない」
とてつもなくどうでもいいことを言われ、流輝は少々半目になりながら琉生を見た。
「なるほど?」
「全然なるほどと思ってないよね。文化の違いはでも楽しいんでしょ? 一夫多妻制とかにはすごく興味深そうだったけど?」
「ドヤ顔でそれだけピックアップしてくんな。人種とか料理の違いとか、観念の違いっつーの? そういうのは確かに俺も楽しいよ。でも家具とか装飾とかとてつもなくどうでもいい……」
「兄さんらしいよ。あ、でも兄さんでも興味出そうな場所はあっただろ?」
呆れたように笑われてから言われた言葉に、流輝は首を傾げる。
「俺が? そんなとこあったっけ」
「話も光景も流しすぎ。ほら、えっと一昨日だっけ? 地下を案内してもらっていた時に立ち入ることを禁じられた場所、あっただろ?」
「そんなとこ、あったっけ?」
「さすがだよ兄さん。ほら、水路を案内してくれていた時にさ、俺が気になって向こうも行ってみたいと案内してくれていた人に言ったらさ『あちらは私共も立ち入りを禁止されています』って申し訳なさそうにされたの、覚えてない?」
そんな場面、あったっけと流輝はさらに首を傾げた。そしてようやくほんのり思い出す。
「あー……、あー、ああ、何かあったな。ただでさえ水路だけでも薄暗いのに、いくつかの鉄格子の柵のどこだっけか、一部にも水の流れだけじゃなくて通路がありそうなとこ」
「そうそう」
「あー……確かに今言われてみればちょっと興味深いな。探検っぽい」
「だろ? 一般の兵や貴族たちも禁止されてるってことはもしかしたら重要人物とかが収容されてる牢屋、とかだったりして」
「ありそう。そういえば一般的な牢すら、通りかかった時に説明だけされて立ち入ることなかったもんな。重要人物とかならなおさらか。あー、ちゃんと聞いてればよかった」
少々悔しげに言えば、今さらと笑いながらも「何で」と琉生が聞いてきた。
「さすがに俺でも他国の王宮内だってのにこっそり忍び込んだりはしないぞ? でも聞いてたら絶対場所覚えて、後で見取り図とか手に入れてさ、空白になってたり変な空間があったりするとこに思いを馳せる」
「兄さんって芸術とかそういうの全然興味ないくせに、たまに変に夢見がちっていうか空想好きだよね」
「変っていうな」
「大丈夫。俺が場所覚えてるからさ、見取り図は王宮だからね、手に入れることはできないけど、俺が描けるよ。ニューラウラに戻ったら一緒に描いてみない? 兄さんだって城の構造とかは結構覚えてんだろ?」
「まあ、な」
装飾には興味ないが、武装するための構造には興味がある。さすがに籠城するための城ではなく居住用の宮殿なので大した面白みはなかったが、それでもそういった構造が皆無ではない。
案内してくれたここに勤めている貴族も、双子がそこそこ以上に頭が働くとは特に考えないだろうから何も気にすることなく案内してくれたのだろう。双子とて、別にここを攻めようと考えているわけではないので余計警戒されることもなかったのだと思われる。実際、見取り図が必要だとも何か軍事的なことに役立てようとも全く考えていない。テレビゲームもスマホゲームもない世界での、単なる遊びだ。
ローガン王とは帰る前にまた挨拶をしたが、やはりどうにも好きになれそうになかった。一見整った精悍そうな見た目がどうにもギラギラして見えるからだろうか。それらも、もしかしたら流輝の先入観のせいかもしれないため、第一印象とかって大事なんだな、などと思ったりした。
ただ、事前に「お飾り王子」と聞いていたセオ王子に関しては好印象のままだった。王子たちとも帰る前に挨拶をしたが「是非またお会いしたいです」と言われ、流輝も本気で「絶対に」と答えていた。
ニューラウラ王国へ戻る道すがらでも、ローザリアはまた少し緊張した面持ちだった。
「……お前、まだ意識してんの?」
流輝が呆れたように言えば「意識はしてないけど、仕方ないでしょう? 小さな頃からずっと憧れてた人なんだから」と返ってきた。
「今も憧れてるんでしょ? だったら仕方ないじゃないか」
琉生もわかっているかのように頷いている。また何となく仲間外れな気持ちになったからか、流輝としてはほんのり面白くない。
「じゃあもう思い切って好きだと言えばいいだろ」
「ち、違う! そういうんじゃないの。確かに幼い頃の初恋の人だけど、でも違うんだから! 憧れてる人なの。そういうのじゃない」
「でもお前、ライアン見たら赤くなってただろ。今だって馬車の近くにあいついるからって緊張しちゃってるじゃないか」
「それはだって憧れてるから」
「まあまあ。ごめんねローザリア。兄さんはほら、色々まだ子どもだから」
「おいルイ! 何でそこで俺が子どもだってことになんだよ」
「子どもでしょ」
「もう成人したわ!」
ムキになって言い返したが、琉生には温かい笑顔、そうでいて実際は生温い目で見られた。後で休憩ということで訪れた村の酒場で食事をしている時に、琉生からこっそりと「男のやきもちはみっともないよ」と笑顔で言われた。
「はぁ? 何で、つか誰にやきもち」
「じゃなければ何で機嫌悪くなんの」
「だからそれは行きの時も向こうで話しただろ。仲間外れみたいで……」
言いかけたところでため息をつかれた。納得がいかない。




