64話
あの後改めて会ったローザリアは普通だったが、流輝としては何だか自分を誤解されているようで、どうにもすっきりしない。確かにローザリアは女性だしその場限りの関係云々といった話は心底どうでもいいだろう。とはいえ流輝も本来はどうでもいいというか、興味ない。ただ各国の情勢というか文化に興味が少しあった関係で気になったりしただけだ。
だから話を蒸し返そうとしたが「私はそういう話興味ないから」とむげなく切り捨てられてしまった。普通と思いきや根に持たれているのかもしれない、と思ったところで「いや、何を根に持たれるっつーんだよ、持つ根がねーだろが」と自分に突っ込む。
翌日、約束通り警備付きの馬車をセオが用意してくれたようなので、ローザリアを誘いに行った際に流輝は言い方を変えて説明した。
「俺、多分愛妻家だから」
「何の話? というかリキ、奥さんいないじゃない」
「いないから多分ってつけただろ」
「ほんとどうしたの?」
その場限りの関係、というワードを持ち出して話そうとした時と違ってローザリアがおかしそうに笑っている。つかみはいけた、と流輝も笑いかけた。
「家族とか身内はすごく大事にするタイプなんだぞ俺」
「……うん、それは知ってるよ」
「だから大切だと思って奥さんになってもらった人にいい加減な扱いなんて俺はきっとできない」
「そう、なんでしょうね」
「だろ? きっとすごく大事にする。そんな俺が適当な付き合いを女性相手にするわけねーだろ」
「何だと思ったら昨日の話? もう、わかったから」
変に真面目な顔で聞いていたと思っていたら今度は呆れたようにローザリアは笑ってきた。蒸し返してきたと気づいても一応笑ってくれているローザリアに流輝はホッと安心する。
「だって俺がここの王様みたいなやつだとか思われたり、いい加減な付き合いするよーなやつだと変にお前に誤解されたくねーんだよ」
「……何で私に誤解されたくないの?」
「当たり前だろ。だってお前は俺の身内みたいなもんなんだぞ」
「どんな身内?」
「は? どんなって……どんな……。ローザリアはローザリアだから深く考えたことなんかねーけど、どんな……多分兄弟とかみたいな?」
あえて口にする時にピンとくる表現が浮かばなくて、とりあえず琉生とは違うものの琉生のように大切だから「兄弟」と表現した。
「……そっか」
笑って頷くローザリアが何となく寂しげに見えて、流輝は「兄弟っつったけど別に男扱いしてるとかじゃなくて」と慌てて言い直そうとする。
「あはは、わかってるから。それに……私もリキとルイのこと、弟みたいにとても大事に思ってるんだから」
「弟? ああそっか。ローザリア、俺らの一つ上だったな。でもなんかこう、なんかなー、弟、なー」
「あら、何か不満?」
「うーん、だってほら、俺、お兄ちゃんだからさー」
「それはルイに対してでしょ」
「そーだけどさー」
ローザリアはすでに開始されている会議に、ちょうど明日から出席するらしく、馬車で観光する誘いを喜んでくれた。あまり馬車から出られない上に窓も基本堂々と開けていられなくて不便は不便だったが、公に出かけるわけではないのでローザリアが一緒でも周りにモールザの国民たちが集まってくる、といった状況にはならなかった。
「これなら明日以降も俺ら二人でこっそり観光できるんじゃね?」
「国際問題に発展するようなことになったらややこしいから兄さんはおとなしくすることを覚えて」
「だってさー俺らの存在知ってんのって、どのみち王族クラスだけだろ? 普通の人らは貴族ですら知らねえんだぞ」
「リキ、それであまり勝手のわからないこの場所で、もし魔族にあなたたちの存在がバレてしまったらどうするの。あなたたちの場合は一般の人にバレてはいけないんじゃなくて、魔族にバレないため、しのばないといけないんだからね」
「……わかったよ」
琉生とローザリア二人に言われては頷くしかなかった。
何か気になる店があれば馬車についている護衛の騎士に頼むしかない。そうしたら彼らが説明してくれたり買ってきてくれたりする。キャスやフランはむしろ少し離れたところで目立たないように護衛しているらしかった。よって周りからはこの国の王族絡みの貴族が見て回っているように見えるだろう。
城下町の食べ物はわりと流輝の好みに合った。なんというか、元の世界でもたまにしか食べさせてもらえなかったジャンクフード系に似ていた。学食でもソモロやラデスなどを挟んだポフがあったが、あれらはどちらかというと上品な雰囲気だった。だがこの国の、肉や野菜を濃い味付けにして挟んだポフはとてもハンバーガーに似ている。ルアンブルという名称の食べ物らしい。ついでにフライドポテトに似たペルの実を揚げて塩を振ったシプルペルなんてものもある。
「俺、この国好きかも」
「とてつもなく食べ物が原因だよね」
呆れたように見てくる琉生に、だがローザリアも「でも明るい雰囲気がすごくあるし、馬車の中にまでそれ伝わってくるような気がするし、私も嫌いじゃない」と笑いかける。
「ローガン王とかたまに接触する貴族たちは少し苦手だけど。内緒ね」
「大丈夫。俺とルイも同じだから」
そっと言ってくるローザリアに流輝は三個めのルアンブルをほうばりながら笑いかけた。




