61話
「思ってたより明るい国だったな」
「そうだね。もっと閉鎖的なイメージがあったよ」
四国連合会議があるということで、ニューラウラ王国からは国王ノアの腹心と言われている大臣と他に何人かの重臣たちがモールザ王国へ訪れていた。その中にはローザリアも含まれており、双子はそのローザリアに誘われて一緒に連れてきてもらっていた。
今まで一度も一緒に来たことはなかったが、流輝たちも成人したからとようやくノアの許可が下りたようだ。ローザリアも昨年に成人してから初めて連合会議に参加するようになったらしく、ルヴィンなどの酒が飲めるようになった以外で初めて自分がこの世界では大人になったのだと流輝は実感したかもしれない。
とはいえ成人しても護衛騎士が外れることはないようだ。ローザリアにはエリスが、そして双子にはキャスとフランがいつものように付き添っている。外国への旅だからか、それだけでなく他にも何人もの護衛が三人にはついていた。それに関してローザリアにつくのはわかるものの今やかなり魔法や剣の力をつけた自分たちにまで何故こんなにと流輝は少し思ったが、どう考えても「光の救世主」だからだろう。
「というかローザリア、あなたもしかして具合が悪いとかではないの?」
確かにいつもと違ってローザリアが変におとなしい。一緒に乗った馬車の中ではいつもどおり明るかったが、馬車をおりてから王宮の中を移動しはじめてから妙におとなしくなった。もちろん他国の王宮内をべらべら喋ったりといった態度は流輝でも取らないが、少し赤くなりながら俯いているローザリアは普段のローザリアではない。
「ううん。大丈夫」
「あれか、他国に来て緊張してるとかか。つかお前でも緊張したりするのか」
「ちょっとリキ、どういう意味? 私だってきんちょ……」
にやりと笑いながら言った流輝に対してムキになりながら言い返そうとしていたローザリアは、またハッとなったように一旦口を閉じてから「緊張くらいするんだから」と小さな声で呟いた。それを見て流輝も違和感を覚える。
一旦こちらでおくつろぎくださいと案内された部屋のソファーへ座ると、用意されていた茶を勧めながら流輝は改めてローザリアに「本当に緊張してあんな風だったのか?」と聞いた。護衛騎士たちは部屋の外で待機しているようだ。
ローザリアは流輝に勧められたからか、とりあえず一旦ゆっくりとカップの茶を飲んでから向かいに座った流輝たちを見てきた。
「あんな風、って?」
「何か困ったような顔して俯いてたぞ。顔もちょっと赤かったし」
「そ、そうなの? 私、変じゃなかった? 変な顔とかしてなかった?」
「変は変だったから聞いて……」
「ローザリア、大丈夫だよ。あなたはいつもと変わらず綺麗だったから」
落ち着いたかと思ったローザリアが必死になって聞いてくることに押され気味になりながら、答えようとする流輝を遮るように琉生が笑みを浮かべながら答える。ローザリアに対してよくそんな歯が浮きそうなセリフを言えるなと、流輝は微妙な顔を隣に座っている琉生へ向けた。だがローザリアは安心したようにホッと息をついている。
「本当にどうしたんだよ」
「えっとね、護衛してくれている騎士の中に普段お父様についている騎士がいらしてて」
「うん」
「その方ね、その、ああもう、恥ずかしいんだけど」
「は?」
恥ずかしいと言いながら実際ローザリアがまた赤くなっている。意味がわからなさすぎて流輝はぽかんとした顔でローザリアを見た後に琉生を見た。琉生はわかっているのかそうではないのか、ほんのり笑みを浮かべたままローザリアを「無理に言わなくていいよ」と言いながらも雰囲気で促している。
「うん、ありがとうルイ。その、ね。その方、私の初恋の人なの! きゃー、言っちゃった、もう!」
「あ?」
何を言っているんだこいつはという顔をしている流輝の横で、琉生が「そうだったんだね。誰だろう」と楽しそうに相槌を打っている。
「ライアン・ディラリックって人」
「ああ、あの男前って感じの人か。かっこいい大人だよね。パーティの時、女性に対して流れるようにスマートなエスコートしていたの覚えてる」
「そうでしょう! ほんとにそうなのよルイ。昔からほんとかっこよくて。それにそうなの。とてもスマートな方なの。私みたいな子どもにまでスマートな対応してくれたんだよ」
二人が盛り上がっているところ悪いが、流輝には少々ついていけない。ライアンのことは何となくは知っているが、スマートかどうかもわからない。あと確かに男から見ても男前だと思える容姿だが、結構な年上ではないだろうか。というかそもそも結婚どころか子どもまでいる人ではなかっただろうか。王宮勤めの騎士なので詳しくは知らないが、それくらいは聞いたことがある。以前別の騎士からキャスが「お前もライアンさんみたいな愛妻家になるタイプだと思うんだけどな。結婚しねーの?」などと言われていた気がする。
「あの人、結構歳、いってるんじゃ……?」
「そんなの関係ないでしょ」
関係ないのか?
「それに確かライアンって……愛妻家で有名な人じゃ?」
「そんなの関係ないでしょ」
関係、ないのか……?
「い、いやいやいや、そこはとてつもなく関係あるだろ……お前、既婚者だぞ?」
既婚者相手に恋してどうするんだと流輝は焦ったようにローザリアを見た。だがローザリアはぽかんとしている。琉生に至っては何故かおかしいのを堪えるような顔をしていた。




