60話
次の春に行われる四国連合会議が今度はモールザ王国で開催されるということで、国民だけでなく王族、貴族たちもその対応に慌ただしい。ただ、慌ただしくなるのは歓迎の対応に追われているだけでなく証拠隠滅もあるのだろうと、第一王子であるセオ・クラークは内心忌々しく思っていた。二十二歳にもなってまだ、この国を動かせる力が自分にないのが情けないし歯がゆい。
モールザ王国は一見明るい国民性を持つ開放的な国だ。しかしそれはあくまでも一見であり、内情は王と貴族が好き放題しているろくでもない国でしかない。開放的と言えども、他国に働きに出たりニューラウラ王国にある学園に留学している者は誰もいない。そういった制度を解放してもおらず、むしろ閉鎖的だ。ただ貴族たちは自分の懐が潤っている限りは下手に腹をさぐられたくないのもあり、自分の領地内の民にもその恩恵を与えているため、民たちも飢えることなくしっかり働いてくれている。
「我が民たちは何も悪くない……」
セオはため息交じりに呟いた。ほとんどの国民たちは何も知らないはずだ。いまだにこの国が裏で奴隷の取引をしているなど。
かつてはどの国でも行われていたことらしい。だが基本的人権の尊重に基づき、今では奴隷取引は大罪となっている。にもかかわらず、この国ではいまだに行われている。鉱山の他にこの奴隷取引のおかげで財政は潤っており、その結果国民たちも飢えることなく健全な暮らしを送れていることになる。
それを知った時、セオはすぐにでもやめさせたかった。だが当時まだ未成年であった一介の王子にできることなど何もなかった。その後成人しても、こうして二十二歳になっても、王権はいまだ父親である現モールザ王、ローガン・クラークにある。セオは意見を述べることすらほとんど許可されていなかった。セオにできることは背景をできる限り調べたり、せめて奴隷たちとなんとか交流を図ってみるくらいだった。
モールザ王は現王に限らず、どうやら三代前から変わらず娯楽好きで散財も多かったようだ。どの王も正妃の他にたくさんの公妾がいた。その散財も大きい。奴隷取引が一向になくならないのは間違いなく歴代の王のせいだとセオは思っている。
「三代よりもう一代前の王はどうやら優れていたらしいのに……」
だがその王はあろうことか自分の息子に暗殺されてしまったらしい。早々に代は入れ替わっている。おそらくその頃からこの国は狂い始めたのだろう。
奴隷たちの中でも男奴隷は主に闘技奴隷として扱われる。そして貴族の娯楽として作られているらしい地下コロシアムで戦わされる。賭け事に利用され、負けると最悪の場合死で、勝っても欲深い貴族によってさらにオークションにかけられたりする。
女子どもの奴隷は召使いやその他娯楽対象として扱われるため、これまたオークションによりやり取りされる。そういった奴隷にされる人間がどこから連れてこられるのかは今のところセオも詳しくわかっていない。没落貴族の者や貧民街で売られた者もいるというくらいだろうか。だがおそらくはどこからかさらわれた者も少なくはないのだろう。
どうにかしてこれらをなくしたいとは切実に思っている。父親である現王にもセオは過去に何度も提案した。ただやめさせるだけでなく、その後路頭に迷う奴隷を正規に雇うことで経済を担う計画なども綿密に調べ書面にして提出した。文書だけでなく直接述べたこともある。だがすべて受け入れてもらえなかった。
母親である正妃、ネイ・クラークからは「あまりお父様に歯向かわない方がいい」と以前に言われた。
「ですが」
「あなたは第一王子であるからまだ今もお咎めなくいられてますが、だからといって今後も無事かなどわかりません……。腹違いの弟である第二王子のロニーも確かあなたの一つ下ではなかったですか? 彼に王位継承をと考え、あなたを除外するだけでなく追放することすら、王は可能なのですよ……」
「それはわかっています。ですが、だからといってこのままでいいはずないではないですか」
「私とてそれはわかっています。とはいえあなたが追放や処罰の対象になってしまったら元もこうもありません」
「母上……」
「物事には上手いやり方というのがあります。正面から向かっても無理なら考えるのです」
「……! はい」
「幸いといいますか、ロニーは腹違いでありながらあなたという兄を慕ってくれている正義感の強い子です。それもあって王は簡単に王位継承権をあの子に移しはしないでしょう。そして第三王子のジェスはまだ五歳。だからこそまだあなたはかろうじてお咎めがないと心得てください」
「わかりました。感謝いたします、母上」
それ以来、歯がゆいながらも水面下で動くしかないと考えている。ただし今のところ大した成果はなく、セオ自身も一見何も発言権のないおとなしい存在にしか見えないだろう。おそらくはただのお飾り王子とでも世間では言われているかもしれない。だがむしろそう思われるほうが何かあった場合動きやすいため、セオはよしとしていた。




