59話
ソリアやフランの厳しさのおかげか、気づけばあっという間に春、夏、秋と過ぎていった。今までで一番早い一年だったかもしれない。元の世界で言うクリスマスの日、双子は盛大なパーティーを開かれ誕生日と共に成人したことを祝われていた。
毎年この誕生日パーティーに辟易していた流輝だが、今年は一層強化されていることでまだ始まったばかりだというのに少々ぐったりしていた。
「誕生日と成人、おめでとう。リキ、ルイ」
だがローザリアが直接そばまでやって来て祝ってくれたため、気を取り直す。
「ありがとう、ローザリア」
「ありがとう、ローザリア」
「あはは、二人の声がそろうと何だか耳が不思議な感じがするね、相変わらず」
顔はそっくりながらに髪型が違うため、最近は見間違いをされることもずいぶん減った。琉生は短い髪のままだが、流輝は琉生がくれた石をずっとつけていたいためにサイドだけ伸ばしていて、それを後ろでみつあみにして石で作った髪留めを使っている。そのみつあみも以前はぎりぎりまとめられるくらいだったが、今では編んだ毛先が肩に付きそうなくらいには伸びている。
ただ、容姿だけでなく二人は声もどうやら似ているらしい。声だけ聞くといまだに間違えられたりする。
「そんな似てるかな」
琉生が首を傾げている横で、流輝はもらった箱をローザリアに掲げながら「開けていい?」と早速聞いた。プレゼントならすでに山のようにもらっているようだが、ローザリアからは別だ。
「もちろん」
そっくり、と琉生に返していたローザリアは嬉しそうに頷いてきた。包みを開けると中には守護を意味する刺繍のされたスカーフが入っていた。
「私が巻いていい?」
「もちろん」
二人が頷くと、ローザリアは双子の首にそのスカーフを巻いていく。魔術師と騎士の服を着た二人にそのスカーフはとても映えた。
「ほんとにおめでとう」
巻き終えて二人を見ると、ローザリアは照れたような顔をしながら笑いかけてきた。双子も嬉しい気持ちを隠すことなく礼を言う。
首に巻かれている守護の力で守られたスカーフを眺めていると、流輝はふと母親が作ってくれた手作りマフラーを思い出した。編み物が趣味の母親が二人のために編んでくれたマフラーは双子もお気に入りで、冬になればいつも首に巻いていた。召喚された時もそれは首にあった。
そのマフラーは他に当時着ていた服と共に衣裳部屋の奥にしまわれたままだ。あの頃見ているのもつらくて奥へやった。それからそういえば一度も出したことも見たこともなかった。
今なら、見る勇気もあるだろうか。モリスとカルナのことを「お父さん」「お母さん」と呼ぶことで完全に覚悟を決めた。戻れなくともこの世界で生きるという覚悟だ。
だから、もしかしたら、見られるかも、しれない。
『……母さんのマフラー……』
無意識に元の世界の言葉で呟いていた。だがすぐに我に返り、流輝はハッとローザリアを見た。一瞬悲しそうな顔をしたのをそして見逃さなかった。
クソ、やらかした。何やってんだ俺。
ローザリアには元の世界の話が絡むことを話題にしないようにしているというのに、と内心自分に対して思いきり舌打ちをする。そんな流輝をわかっているようだが、琉生は流輝に何も言わず何も気づいていないかのようにローザリアに笑いかけた。
「この刺繍、すごく凝ってるし綺麗。もしかしてこれ、ローザリアがしてくれたの?」
「う、うん」
また少し赤くなりながらローザリアが照れくさそうに頷く。
「えっ、マジで? お前がやったの? 俺、てっきり専門のところで作らせたのかと思ってた。マジで? すげぇ……こーゆーのあんまわからない俺でもわかるよ。すげえ。綺麗だしほんとすげぇ」
話を逸らすつもりとか云々ではなく、本当に驚き感嘆して流輝はローザリアをしみじみと見た。
「わ、私ね、刺繍が趣味だから」
褒められて嬉しかったのか、先ほど一瞬見せてきた悲しげな表情はどこにもなく、ローザリアは嬉しそうに笑った。
その後学園の他の友だちからも直接お祝いを言われた。アリアンも二人にプレゼントを用意してくれていたようだが、琉生に渡す時は溶岩のように溶けてしまうのではと流輝が少々ハラハラするくらい真っ赤になっていた。
「ありがとう、アリアン」
琉生はわかってかわかっていないのか、爽やかな笑顔で受け取っている。
いや、ルイがわからねえなんてある? 絶対わかってんだろ……わかって気づかない振りしてるとしか……ああでもルイ、他は何でもよく知ってそうなのに恋愛に関してはなんだろ、興味なさ過ぎて鈍そうな気もするしなー……。
じっと見ていることに気づいたのか、アリアンが一旦立ち去ってから琉生は「何?」と流輝を見てきた。
「別に」
「じっと見てたでしょ」
「……お前、他のことはすげーよく知ってるし勘もいいのに恋愛に関しては何か笑えるくらい鈍そうだよなって」
「そっくりそのまま兄さんに返すよ」
アリアンのことを言わなければいいかと、思っていたことを口にすれば満面の笑みで言い返された。これほどアリアンのことなどによく気づく俺のどこが、と納得がいかない。さらに言い返そうとしたところで楽団の演奏が始まる。流輝は少々顔色を青ざめさせた。
「……なあ、俺、逃げていい?」
「主役の一人が逃げてどうするの。それに最初の相手はローザリアなんだからダンスの上手な彼女が兄さんをリードしてくれるよ」
「それに何で俺が最初なの。せめてお前から踊って」
「俺は弟だから」
「じゃあ俺の振りして」
「そのみつあみ切り取ってつけていいなら」
「駄目」
「いいから早く」
成人した主役だけに一番最初にダンスを踊らなくてはならないらしい。相手はローザリアで、流輝と踊った後に琉生とも踊ってくれる。他の相手を選ぶと色々面倒だろうからと琉生が提案してきた。何が面倒かはわからないが、それは流輝にとってどうでもよかった。いくらローザリア相手だろうがダンスは死ぬほど苦手だし好きじゃないだけに、段取りを聞いた時から今に至るまでずっと悩みの種だった。
「今までの誕生日では避けられたのに」
「俺らも大人だからね」
練習でとても優雅に踊っていた琉生がにっこりと微笑みながら有無をいわさない様子で流輝を引っ張ってきた。




