57話
春を迎え、双子は選択科目の授業を受け始めた。元の世界なら進級して心機一転といった気分になるが、この世界だと学年というものがない上にクラスも基本的に変わらないため毎年ピンとこなかった。だが今年は初めて選択科目が増えたため、わりとわくわくしていた。
実際始まると、教室にいる生徒の数が一般教養の授業の時より少ない。選択科目だからというより、もしかして魔術師になる者があまりいないからだろうかと流輝は思っていたが、希望者が多そうな騎士科でも思っていたより少ないと琉生は言っていた。詳しく聞くとむしろ魔術科より少なそうだ。その理由はわりとすぐにわかった。
十六歳になる年は選択科目の授業が増えるとはいえ一般教養の授業もまだそこそこあるが、十七歳になる年になるとほぼ選択科目の授業が占めることになる。何回かの授業の後で魔術師や騎士を目指す者に特定の相手に仕えながら学んでいくという、以前聞いていた内容を教師が話題に出してきた。学園が紹介する魔術師や騎士につく希望者を募るが、もし別途希望する相手がいるのならそれを申告するようにとのことだった。
基本的に魔術科や騎士科を選択した者は皆それらを目指すものと流輝は思っていたが、そうでもないらしい。貴族や平民の入り混じった授業でもあるからか、元々最初から町の衛兵職や他の職を希望している者もいるようだ。
結果、魔術師や騎士を目指す者は特定の魔術師や騎士につくことになり、それが授業となる。教室にいる者はほぼ元々それ以外を目指している者になっていくため、数が少なくなるようだ。騎士科が魔術科より教室に占める割合が少なそうなのは騎士を目指す者が多いからで、魔術科が騎士科よりは多そうであるのは薬学やその他理論などを極めてその関係の仕事に就く者が多く、魔術師を目指す者が割合として少ないからなのだろう。
双子は迷うことなく仕える相手にソリアとフランを指定した。二人ともその資格を持っているため、承認はすぐに下りた。流輝がソリアを指定したことを知ったキャスは「わかっていることだし当然のことだけど寂しいつらい」などとフランにこぼしていたそうだ。
ソリアとフランにつくようになり、二人はほどなくして従魔術師、従騎士となれた。
フィンが言っていたが、他国で学園に来ることなく騎士などを目指す場合は十歳前後からまず小姓として騎士の城や屋敷だけでなく宮廷や自分の生家より家柄が上の貴族の元で奉公しながらマナーや訓練などを行うそうだ。その後ようやく従騎士などになり、主人の身の回りの世話や戦場での補佐を行うようになるという。そう聞いて、学園で学ぶほうが手っ取り早そうだなと流輝はしみじみ思った。学園様々だ。
ただ、決して楽ではない。従魔術師、従騎士になってから二人は日々ぐったりしていた。授業が終わってから遊びに出かけたりしていた頃がすでに懐かしい。はっきり言ってソリアもフランも相当厳しかった。以前ソリアが「今なんて比じゃないくらい私は厳しくします」と言っていたが、冗談でも大げさでも何でもなかった。
魔獣討伐にも赴いた。本来ならまだ補佐程度のことしかしないはずが、双子は実戦さえも手掛ける羽目になった。もちろんそれぞれソリアとフランがついていて危険はあまりないのだろうが、訓練と実戦の違いを嫌というほど味わうことになった。
学園でも模擬戦闘で剣や魔法を使い相手を攻撃はした。だがそれらも安全に守られてのことだ。魔獣相手とはいえ、初めて生きている存在を剣や魔法で切ったり攻撃した時の、肉を断つ感触や肉が焦げる匂いなどは多分中々忘れられないだろう。想像ではやり遂げた感で気持ちが向上するものとばかり思っていたが、実際は魔獣相手でさえ殺したことに心が折れそうだった。
「ルイ……眠れそう?」
「うん。何とか。兄さんは?」
「まあ、多分、な。でも……まだ手の感触が消えねえ」
「……俺も。……リキ、今日は一緒に寝ていい?」
「ああ。俺もそのほうが安心できそう」
この世界ではもう成人する年とはいえ、そんなこと関係なかった。まだまだ未熟で大して何もできない自分を流輝は実感する。情けないと思う。だが、生き物を殺すことに今後慣れてはいくとしても、こういった感情をなくしたくはないとも思えた。
初めて討伐へ赴いた翌朝、慣れていないことをしたせいか体も少々きしむ感じがした。それでも今日もソリアたちについて色々しなくてはと起きて準備をしていると部屋をノックする音に気づいた。
「はい」
「リキ様、おはようございます。入っても?」
「うん、いいよキャス」
くぐもったキャスの声が聞こえたかと思うと本人が入ってきた。
「どうしたの?」
「今朝、食堂で美味しい菓子を俺、頂きまして。本当に美味しかったのでリキ様とルイ様にも食べて欲しくて。朝食の前ですのでこっそり、ですが」
「! ありがとうキャス」
「ありがとう、キャス」
双子に焼き菓子を手渡すと、キャスはウインクをしてから頭を下げ、部屋を出ていった。朝から菓子などどれくらいぶりだろうか。実はこっそりと甘いものが好きな琉生の目が密かに輝いている。普段それほど甘いものを食べない流輝も、連日の疲れからかとても美味しそうに見え、速攻で口にした。
「やべぇ。甘い菓子うめぇ」
「……うん。これ、美味しいね」
あっという間に食べてしまい、二人はホッとしたように笑顔でお互いを見合った。
「じゃあ、今日もがんばるか」
「そうだね、がんばろう」




