56話
年の初めに成人を祝うが、実際に成人したと正式に認められるのは自分の誕生日以降だ。そして学園では成人する十六歳から選択科目が始まるが、これは年明けに学校が始まってからではなく、春からだったりする。
「統一して欲しい」
春にはもう選択科目の授業を受けることになるため、あらかじめもらっている魔法の玉を眺めながら流輝は呟いた。ちなみにこの玉で自分が望む科目を選びセットして提出する。一般の人より魔力の少ない琉生でもできるように仕組まれている。この世界にパソコンとかITシステムといったものはないが、魔法によりシステム化されていたりするようだ。
「でも元の世界でも成人式ってのあったし、誕生日に歳をとるけど学校や会社は春からだったし似たようなものじゃない? 外国だと秋からのとこもあったっぽいし。成人の儀もさ、いちいち皆の誕生日ごとに祝ってられないでしょ」
「そりゃそうだけど。で、ルイは選択科目、もう決めてんだろ?」
「まあね。兄さんは?」
「俺も、決めた。やっぱり魔術科にしようと思ってる」
「うん。いいと思う。兄さんの魔力はほんと半端ないし。元の世界風に考えたらさ、普段の兄さんからはどうみても体育会系ぽさしかしないのに実際はわりと理系っぽい、みたいなさ」
「……褒め言葉でいいんだよな?」
「あはは」
「あはは、じゃねえし。騎士科もいいなって思ったりはしたんだけど、お前と一緒にいると俺、自分が剣にむいてない気分にしかならないんだよな」
屋敷ではキャスやフランに相変わらず剣を教わったりしていたが、琉生と一緒に教わるとあまりに自分が剣を使えないやつのように思えてきて仕方がない。
「兄さんの剣技は学園でもトップクラスだよ」
「そう思えなくなんの、お前と一緒だと。まあ別にそれでも剣が何より楽しくて好きだったら迷うことなく騎士科選んでたけどさ。俺、やっぱ何より魔術が好きみたいだわ」
「そっか」
琉生が嬉しそうに笑ってきた。流輝も笑みを向ける。
選択科目は他に聖職科と商人科、経済学科があるがそれらはどれも流輝には合わなさそうだ。学園に入学したての頃は何もかもわからない状態だったため、これらが合わないかどうかもわかっていなかった。宗教心もなければ芸術を愛することもできなさそうな流輝だけに、最初から聖職科だけは選ぶことはなかったかもしれないが、商学や経営学を学ぶ商人科や、法学や政治学を学ぶ経済学科に関しては騎士科や魔術科同様、当時は未知すぎてピンと来ていなかった。
確かローザリアは経済学科を選ぶって言ってたっけ。
第一王子がいる今、ローザリアがこの国の王になることはないだろうが、それでも国を支える者としての心意気が昔からあるローザリアをすごいと流輝は思っている。
ローザリアといえば……。
流輝は成人の儀の翌日の午後、お祝いに来てくれたローザリアを思い出す。成人の儀は本人とその家族だけしか出られないため、王族であるローザリアであっても基本的に参加できない。だがわざわざ翌日に駆けつけてくれた。
その時に珍しく琉生がうっかり失言してしまった。とはいっても一見普通の内容だ。
「元の世界だったら十六歳はまだ子どもなんだよ。二十歳になってようやく成人するのにね」
こう言っただけだった。だが流輝は思わずまだ二日酔いで頭が重いながらも「おい!」と琉生を目でいさめたし、琉生もつい、といった風に口に手を当てた。
ローザリアは「そうなんだ」と笑っていた。だが、それはローザリア本来の笑顔じゃないことを双子は知っている。屈託なく笑うローザリアはそんな悲しげな表情で笑わない。
いつからだろうか、ローザリアは流輝たちが元の世界の話をするとこんな風になった。本人は隠しているつもりだが、双子にとっては全然隠れていない。
出会って最初の頃は双子が元の世界の話をするとローザリアはとても楽しそうだったし、好奇心にきらきらした目で話を聞いていた。この世界との違いにとても驚いたり怖がったり笑ったりしていた。理解できなくて首を傾げていても楽しそうだった。
「もしかしたら、俺らがいつか元の世界に帰ってしまうかもって思って悲しいとか?」
帰られる可能性はかなり低いが、一応ゼロではないとは思う。
流輝が言えば琉生も「そうかも」と頷いていた。別にうぬぼれているわけではない。これが逆だったとしたら流輝たちも悲しいからそうだろうかとすぐに思いついただけだ。それくらい、双子とローザリアはお互いかけがいのない存在だった。血は繋がっていないが家族と言っても差し支えないほど仲がよく大切な存在だった。
直接本人に聞いたことはない。だが最近は元の世界の話題を双子はローザリアの前では控えるようにしていた。
琉生も本当にうっかりだったのだと思う。流輝と二人の時はよく元の世界の話題を出したりするのもあるかもしれない。さすがに忘れたくはないため、二人の間で話題にしないようにするのは難しい。
その後はまたすぐにいつものローザリアに戻っていたので、流輝たちも普通にふるまった。
でも……言ってくれたらいいのに、ローザリア。隠さなくていいのに。俺らの元の世界の話、何も聞きたくないとさえ、言ってくれていいのに。
わりと好き勝手ふるまうようでいて、ローザリアはどこか抱え込む性質がある。自分の境遇と周りの貴族から受ける扱いのせいなのだろうか。だとしたら許しがたいと流輝は思う。
俺がどうにかできたらいいのに。
内心ため息をつきながら、流輝は魔法の玉に自分の希望する選択科目をセットした。
ローザリアの悲しい顔は見たくない。
年の初めに成人を祝うが、実際に成人したと正式に認められるのは自分の誕生日以降だ。そして学園では成人する十六歳から選択科目が始まるが、これは年明けに学校が始まってからではなく、春からだったりする。
「統一して欲しい」
春にはもう選択科目の授業を受けることになるため、あらかじめもらっている魔法の玉を眺めながら流輝は呟いた。ちなみにこの玉で自分が望む科目を選びセットして提出する。一般の人より魔力の少ない琉生でもできるように仕組まれている。この世界にパソコンとかITシステムといったものはないが、魔法によりシステム化されていたりするようだ。
「でも元の世界でも成人式ってのあったし、誕生日に歳をとるけど学校や会社は春からだったし似たようなものじゃない? 外国だと秋からのとこもあったっぽいし。成人の儀もさ、いちいち皆の誕生日ごとに祝ってられないでしょ」
「そりゃそうだけど。で、ルイは選択科目、もう決めてんだろ?」
「まあね。兄さんは?」
「俺も、決めた。やっぱり魔術科にしようと思ってる」
「うん。いいと思う。兄さんの魔力はほんと半端ないし。元の世界風に考えたらさ、普段の兄さんからはどうみても体育会系ぽさしかしないのに実際はわりと理系っぽい、みたいなさ」
「……褒め言葉でいいんだよな?」
「あはは」
「あはは、じゃねえし。騎士科もいいなって思ったりはしたんだけど、お前と一緒にいると俺、自分が剣にむいてない気分にしかならないんだよな」
屋敷ではキャスやフランに相変わらず剣を教わったりしていたが、琉生と一緒に教わるとあまりに自分が剣を使えないやつのように思えてきて仕方がない。
「兄さんの剣技は学園でもトップクラスだよ」
「そう思えなくなんの、お前と一緒だと。まあ別にそれでも剣が何より楽しくて好きだったら迷うことなく騎士科選んでたけどさ。俺、やっぱ何より魔術が好きみたいだわ」
「そっか」
琉生が嬉しそうに笑ってきた。流輝も笑みを向ける。
選択科目は他に聖職科と商人科、経済学科があるがそれらはどれも流輝には合わなさそうだ。学園に入学したての頃は何もかもわからない状態だったため、これらが合わないかどうかもわかっていなかった。宗教心もなければ芸術を愛することもできなさそうな流輝だけに、最初から聖職科だけは選ぶことはなかったかもしれないが、商学や経営学を学ぶ商人科や、法学や政治学を学ぶ経済学科に関しては騎士科や魔術科同様、当時は未知すぎてピンと来ていなかった。
確かローザリアは経済学科を選ぶって言ってたっけ。
第一王子がいる今、ローザリアがこの国の王になることはないだろうが、それでも国を支える者としての心意気が昔からあるローザリアをすごいと流輝は思っている。
ローザリアといえば……。
流輝は成人の儀の翌日の午後、お祝いに来てくれたローザリアを思い出す。成人の儀は本人とその家族だけしか出られないため、王族であるローザリアであっても基本的に参加できない。だがわざわざ翌日に駆けつけてくれた。
その時に珍しく琉生がうっかり失言してしまった。とはいっても一見普通の内容だ。
「元の世界だったら十六歳はまだ子どもなんだよ。二十歳になってようやく成人するのにね」
こう言っただけだった。だが流輝は思わずまだ二日酔いで頭が重いながらも「おい!」と琉生を目でいさめたし、琉生もつい、といった風に口に手を当てた。
ローザリアは「そうなんだ」と笑っていた。だが、それはローザリア本来の笑顔じゃないことを双子は知っている。屈託なく笑うローザリアはそんな悲しげな表情で笑わない。
いつからだろうか、ローザリアは流輝たちが元の世界の話をするとこんな風になった。本人は隠しているつもりだが、双子にとっては全然隠れていない。
出会って最初の頃は双子が元の世界の話をするとローザリアはとても楽しそうだったし、好奇心にきらきらした目で話を聞いていた。この世界との違いにとても驚いたり怖がったり笑ったりしていた。理解できなくて首を傾げていても楽しそうだった。
「もしかしたら、俺らがいつか元の世界に帰ってしまうかもって思って悲しいとか?」
帰られる可能性はかなり低いが、一応ゼロではないとは思う。
流輝が言えば琉生も「そうかも」と頷いていた。別にうぬぼれているわけではない。これが逆だったとしたら流輝たちも悲しいからそうだろうかとすぐに思いついただけだ。それくらい、双子とローザリアはお互いかけがいのない存在だった。血は繋がっていないが家族と言っても差し支えないほど仲がよく大切な存在だった。
直接本人に聞いたことはない。だが最近は元の世界の話題を双子はローザリアの前では控えるようにしていた。
琉生も本当にうっかりだったのだと思う。流輝と二人の時はよく元の世界の話題を出したりするのもあるかもしれない。さすがに忘れたくはないため、二人の間で話題にしないようにするのは難しい。
その後はまたすぐにいつものローザリアに戻っていたので、流輝たちも普通にふるまった。
でも……言ってくれたらいいのに、ローザリア。隠さなくていいのに。俺らの元の世界の話、何も聞きたくないとさえ、言ってくれていいのに。
わりと好き勝手ふるまうようでいて、ローザリアはどこか抱え込む性質がある。自分の境遇と周りの貴族から受ける扱いのせいなのだろうか。だとしたら許しがたいと流輝は思う。
俺がどうにかできたらいいのに。
内心ため息をつきながら、流輝は魔法の玉に自分の希望する選択科目をセットした。
ローザリアの悲しい顔は見たくない。




