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双神の輪~紡がれる絆の物語~  作者: Guidepost
2章 学生編  生きる覚悟
56/120

55話

 学園生活の忙しさもあり、あっという間に気づけば双子は十六歳になる年を迎えていた。

 成人の儀は実際厳かだった。夜に行われるため、暗い中教会ではたくさんのろうそくが灯されてむしろ明るい。幻想的な明るさと言うのだろうか。そんな中、今年成人する者たちはそれぞれ手にろうそくを持ち、順番に前へ歩んでろうそくを所定の場所へ置いて行く。その間ずっと厳かな讃美歌が歌われていた。ピアノもなにもないまま男性の聖歌隊がモノフォニーと言われる単旋律の音楽を声で奏でる。

 その後出向いてきた教皇による祝いの言葉を授かり、終了する。


「わざわざ聖下まで出向いてくるとはな」


 テーラー邸へ戻る途中、馬車の中で流輝はため息をつく。モリスたちも教会へ来ていたが、別の馬車に乗っているためこの中は琉生と二人だ。

 成人するのは楽しみだったが、正直こういった儀式は苦手だ。芸術的なこともさっぱりわからない。反面、琉生はとても感慨深そうに逆の意味であろうため息をついている。


「よかったよね、あの雰囲気とかさ」

「そうか? 俺は退屈だったよ」

「はぁ……兄さんってほんっとこういうの興味ないよね。教会の演出すごくよかったのに。あのろうそく自体も綺麗だったし。ああ、あとあの讃美歌も素晴らしかったなあ。元の世界でさ、クリスマス近くにテレビで見たことあるんだけど、何だっけなあ……子ども過ぎてちゃんと覚えてないんだよな……えっと、『グレ……』」

『グレープジュース?』

「なんで讃美歌の話してんのに突然俺が『ブドウジュース』について言い出すと思うの。違う。えっと……ああそう。『グレゴリオ聖歌』! 確かこんな名前だったと思うんだけど」

「聞いたことねーけど」

「だろうね……もう。とにかく、その讃美歌? 聖歌? に雰囲気がすごく似てたなあって」

「そうですか」

「ほんっと兄さん、興味ないよね……」


 昔から知っているのだから、その辺はもうそっとしておいて欲しいと流輝は思う。美術や音楽といったものに到底興味が持てない。元の世界でも遠足先が寺や神社、美術館だった時は悲しくていつもは爆上がりするテンションも半減した。代わりの楽しみのため、禁止されていた遠足のおやつをこっそり持っていき、先生にバレて怒られた。ちなみに母親の時代だと金額の指定はあったものの遠足のおやつは定番だったと聞く。何で今は駄目なのかと母親に聞けば「アレルギーの子とかいるでしょ。下手に交換してアナフィラキシーショック起きちゃったりしたら危険だからじゃない」と、当時の流輝には少々何を言っているのかわからない返事が返ってきたのを覚えている。

 屋敷に戻ると年末、というか昨夜だが散々無礼講で聖アリータ祭を祝っていたというのに、モリスたちはまたもや家族と使用人だけのパーティーを準備させていたようだ。まだ誕生日が来ていないので正式に成人したわけではない流輝たちにもルヴィンがふるまわれた。儀式に退屈していた流輝のテンションがこれで一気に上がった。


「いいの? 飲んで」

「少しだけならね。慣れてないだろうから、ちゃんと食事と一緒にゆっくり飲んで欲しい」

「わかった!」


 ドキドキしながら口にしたルヴィンは少し苦くて酸っぱくて重みのある味がした。もっと甘いものかと思っていた流輝は渋い顔をしながら口にしたグラスを見下ろす。


「どうしたの、兄さん」

「いや、何か想像してた味と違った」

「はは。兄さんのことだからそれこそブドウジュースみたいな味想像してたんじゃないの」

「さすがにちげぇ。いやでも何かこう、あれだ。ブドウジュースに炭酸と大人の味を混ぜたような感じの味を想像してた」

「……大人の味って、何。あと何で炭酸?」

「何となく」


 とはいえずっと飲みたかったものだ。ここで挫折してなるものかと流輝は飲み続けた。少し慣れてくると最初の時よりはまだ飲みやすくなったかもしれない。多分。一方琉生は平気なのか、食事と一緒にまるで添えられた副菜かのように味わって飲んでいる。


「ルイは案外強そうね」


 前にカルナが言ってた言葉が頭によぎり、流輝は微妙な顔になった。

 そして翌日、流輝はもう二度と口にしないでおこうと心底誓いを立てたくなるくらいの具合悪さを味わう羽目になった。昼過ぎまでベッドから起き上がれず、かといって空腹のままだと余計気持ち悪くてベッドにスープだけ運んでもらった。昼頃にやって来た琉生はぴんぴんしている。遅くに起きたのはまだ新年気分なのと、元々朝に弱いからだろう。流輝がぐったりしているのを知ると一旦引っ込み、次に来た時は手に何やら緑色の液体が入った皿を持っていた。


「……それ、薬草に見えるんだけど……」

「うん、大丈夫。兄さんはもう酔ってはいないよ、間違いなく薬草のアマラだ」

「絶対口にしないからな……」


 魔法で体調不良を癒すことはできる。だが結構高度な技術だし家族で一番使える流輝が今瀕死であり、さすがにこの気持ち悪さでは魔法を使いたくない。気力のようなものを消費する魔法を使えばむしろ悪化しそうな気がする。

 そして魔法以外で回復する方法は医療か薬草だ。基本的に医療を選ぶものだが、古典的手法である薬草も酷い状態でなければ役に立つ。

 ただし苦い。死ぬほど苦い。スープを意味するアマラなんて名ばかりだ。苦味しかない。ゲームで登場人物たちがそのまま薬草を口にしていたのかと思うと狂気の沙汰としか思えない。

 流輝は吐き気を抑えながら逃げようとした。

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