52話
ところで以前から魔族という言葉をたまに耳にしていたものの、流輝は実際に魔族というものを見たことはない。こちらの世界に飛ばされた当初、王宮から逃げ出した時に恐ろしい生き物に遭遇はしたが、あれらは魔族とはまた違うようだ。二足歩行の人に近いものもいたがおそらくは魔獣の一種だったように思われる。
そう思ったのは授業で魔族について習ったからもある。人族と同じように魔族にも明確な意思があるようだ。当時流輝たちを食おうとしていたものたちにはそれがなかった。
魔族には大きく分けて二種類あるようで、純魔族とハーフブラッドと呼ばれる。
純魔族は他種族の血がほぼ混じっておらず、寿命も半永久的にあるらしい。そのため魔王が存在していた古くから同じく存在している者が多いと聞いた。ほとんどの者が悪意の塊であり、魔獣のようにただ欲望にまかせて殺したり食べたりするのではなく、人間をこの世から消し去ることを優先して行動するようだ。とても魔力が強く恐ろしい闇の力を使うらしいが、「光の救世主」の出現により魔王の時代に比べて弱くはなったと習った。
ハーフブラッドはそんな魔族と人族との間に生まれた者を言うらしい。混血のため闇の力は弱いが、一般的な人間と比べると魔力量は多く、魔力自体も強い。寿命も純魔族のように半永久的に生きはしないものの人間に比べると明らかに長いようだ。正確な長さは判明していないらしいが、おそらく五百年くらいは普通に生きると言われている。
ハーフブラッドは人の血も混じっているからか、純魔族が当然のように持つ悪意はないようだ。どちらかといえば多くが平和主義らしい。だが人間からは魔族と同じように見られがちであり、昔から迫害を受けてきた。そのため魔族と混じって生活している者が多いし、それによって憎しみを抱く者も中にはいると聞いた。それでも人間として隠れ住んでいる者もいるらしい。
魔族は元々、存在していた魔王が自分の下僕として生み出したと言われている。死んだエルフの亡骸に闇の魔術を使い、人工的に生み出した。そのため寿命も半永久的にある上に容姿はおぞましくも美しいと聞く。そんな主な外見特徴は尖った長い耳に紫色の眼、紫がかった黒髪に褐色の肌と習った。
「……黒髪」
授業が終わった後に思わず流輝がぼそりと呟くと近くに座っていたアリアンが小さくぶんぶん、と頭を振ってきた。
「リキとその、ルイ……はダークブラウンっぽい黒髪だから、魔族とは全然違うの。瞳の色も。全然違うの。それに白くてやっぱりどこか少し明るいブラウンが入ってそうな肌色はとても神秘的で漆黒の夜の月の王子さ……」
そして話していたかと思うと急にまた出血したのかと思いそうなくらい真っ赤になって「違うの、違うの」と手で顔を覆いながら俯いてしまった。
「お、おい……大丈夫か、色々と」
「兄さん、そんな雑な心配してあげるくらいならそっとしてあげなよ……」
琉生が小声で耳打ちしてきた。流輝は微妙な顔で琉生を見る。
ずいぶん双子に慣れてきてくれたアリアンだが、たまにこうして発作のような症状になってしまうのは主に琉生のせいだと流輝は密かに思っている。今も多分琉生の名前を口にする時の熱の入れようは流輝の名前を口にした時と半端なく違ったように思うし、途中まで必死になって言ってくれていたものの我に返ったのは多分琉生を思ったからだと流輝は考えている。とはいえあまりに真っ赤すぎてわかっていても心配になる。
そして色々鋭そうな琉生だが、アリアンの気持ちに関してはわかっているのかわかっていないのかが流輝にはわからない。少なくとも琉生は何も言わない。直接聞いてもいいが、そうするとアリアンが琉生を好きだと流輝の口から言うことになってしまう。それは流輝でも何となく駄目じゃないかなと思うのであえて何も言っていない。佐藤さんの時とはまた状況が違う。
取り乱し方も人見知りするアリアンらしく控えめではあるが、それでも異変に気づいたティムが即座にやってきて「あちらで休憩いたしましょう」とアリアンを促し、支えながら向こうへ連れて行った。専属騎士とはいえ「いつの間にいたんだよ」と流輝は微妙な顔を今度はティムへ向けてから琉生にまた向き直った。
「黒髪に紫の眼とはいえ、多分一見黒っぽいよな。まあ褐色は違うけど、なんか俺らに近いよな。だってここのやつらって皆やたらめったら明るい髪色と目、それにすげー白い肌してるもんな」
「まあ、うん。でもアリアンが言ってたようにやっぱ全然違うんじゃないの」
「そりゃそうだろうけど。でも一見近いだろ? 俺ら見てぎょっとするやつら確かにいなかったけど、町でよくじろじろ見られてたのって珍しいからって以外に好奇の目でも見られてたのかなってさ」
「どうだろね。でもそれこそ人間とのハーフとかでそういう特徴を受け継いでない者も少なくはないって先生言ってたしね。人間と見分けがあまりつかない魔族もいるらしいし」
「うん、まあ」
「……どうしたの? 何か気になることでもあるの?」
琉生が怪訝そうに首を傾げてくる。そう聞かれると全くもって気になることはない。
「ない。ないよ。でもなんだろ、気になるとはまた違うんだけど、なんだろな、もやもやするのに似たような、何かがうーん、やっぱ何か気になってんのかな? でも別に気になってねえ……」
「? よくわからないけど、兄さんこそ大丈夫?」
「別におかしくなってねえから、そんな憐れむような目で俺を見るな」
「あはは。気のせいだよ」




