51話
ラント・ディルアンの見た目はなかなかに悪くない。いかにも誠実そうな顔立ちは母親に似て整っており、背もそれなりにすらりと高い。自他ともに認める程度には頭もよく、次期公爵として有望視されている。
性格は父親であるドルフに似ており、状況を判断しつつ利用できるものは利用しのし上がりたいと考えていたし、現状も将来も順風満帆だとラントは思っていた。
最近耳にする双子の存在がちらつくまでは。
そもそも接触のない相手ではある。父親の従弟であるモリスが大公爵という地位にあるため、ラントもターナー家に対しては一目を置いているし利用できるならしたいと元々考えていた。だが生まれつき子息だったならまだしも、気づけば養子となっていた存在など知る由もないし興味も特になかった。ドルフがラントの弟、ルバスをターナー家の養子にと目論んでいたことを思うと残念に思うが、母親のリリアノはそれに反対だったようだしラントも別にそこまででもなかった。どのみち年齢的に今のところ双子に会うこともない。ただ、ドルフが双子を養子の一件でか妙に嫌っているため、やはりディルアン家にとって不要な存在なのであろうとラントもあまり快くは思っていなかった。
しかし最近、否応なしに双子の話題がやたら耳に入ってくる。どうやら王都王立学園でかなり目立っているらしい。家の跡を継ぐべくドルフの仕事を手伝っているが、王宮へ赴く際にも王族や貴族の間でちょくちょく話題にのぼる。どうやらかなり成績優秀のようだ。剣術などにも長けていると聞いた。ともすれば誰かのよくないところを話題にして楽しむ者も少なくない貴族たちの間で「将来有望」「うちの娘の婿に」「ベレスフォード大公爵も安心だな。出世間違いない」などと肯定的な話題ばかり上がる。
……どうやら思ってた以上に邪魔なやつらなのか。
ラントこそ将来有望で間違いなく出世すると言われていたし、自分もそのつもりしかなかった。誰もが自分や自分の娘の結婚相手として欲しがったはずだ。そんな中、まだ学園に入ってさほども経っていないというのにこうも話題に上がる双子の存在は、ただでさえどこぞの馬の骨が大公爵家の養子になっただけでなくラントの出世には邪魔でしかないのではないだろうか。
普段あまり話すことのないルバスに双子について聞いてみた。
「双子ですか? ええ、あいつらはとても邪魔ですよ」
「……お前もそう思うのか?」
「思いますよ。俺より一年も遅く入学してきておきながら俺を差し置いて成績トップなんですよ、二人そろって。おまけに剣の腕も悪くない。いや、ルイ・ターナーのほうはずば抜けていて悔しいことに俺も歯が立ちそうにありません。あとリキ・ターナーは何より本当に失礼で鬱陶しいやつでしてね。模擬戦闘でも引き分けばかりなんですよ。本当に忌々しい。絶対に俺はリキ・ターナーに勝ちます。絶対に」
「勝つ……というのは何やら策を練って蹴落とそうと」
「まさか! 汚い真似をするつもりはありません。俺は正々堂々とあいつに挑んで、模擬戦闘でも他の試験でもミューダ当てでも勝ってやります!」
「ミューダ当て?」
少々何を言っているのかわからない部分はあったものの、ラントは早々にルバスに対して見切りをつけた。改めて情けないやつだと思う。それなりに実力を持っている上に負けず嫌いなくせに肝心な向上心に欠ける。何がなんでも上にのしあがるといった欲に欠ける。
妹のアリアンに関しては初めから関心もない。せいぜい政略結婚でディルアン家に有益をもたらして欲しいと思うくらいだ。しかもルバスによればアリアンはあろうことか双子と友人らしい。話にならない。
いや、アリアンがどちらかと結婚すれば……いやいや、どのみちターナー家とは元々親戚だ。それならば別の力ある貴族の元へ嫁がせたほうが有益だな。
弟妹があてにならないのはさておき、ラントとしては父親が何故嫌っていながらも双子に対して何も行おうとしないのかがわからない。いつものドルフならば例え自分より上の立場の家だとしても何らかの策略くらいは謀りそうだというのに、何か理由があるのだろうかとラントは首を傾げた。
だがドルフに直接聞いてみても「何でもない。お前も何もするな」としか言わない。
「……何でなんだ」
ある日、貴族も利用している町の酒場の片隅で一人、思わず呟いていたら「あの双子のことでしょう?」と少し顔を近づけて言ってくる者がいる。
「顔が近い。無礼な……貴様は誰だ」
「これは失礼。私はしがない存在でしかありません。ですがあなたが嫌っている庶民でもありません。証明するものはございませんが、代わりにここの代金を私が持ちましょう。おい、酒とあと肉をもっと持って来い」
店の者に命じると、見知らぬ男はラントに笑いかけてきた。青みがかったグレーの髪と瞳の美しい顔立ちをしているが、どこか寒々しさを覚えるような雰囲気がある。胡散臭さを覚えつつもほろ酔いのラントは酒と食事を奢られるまま堪能した。
「お前は何故双子だと思った。何を知っている。とりあえず名を名乗れ」
「質問ずくめですね。まあいいでしょう。双子は何となく、でしょうか。何も存じ上げませんが、あなたが双子を疎んじておられるのはわかりますので。それに私もそうだからでしょうか。私のことはアーリマンと呼んでください」
座ったままだが男は恭しく頭を下げた。




