46話
ところで顔を初めて合わせてから多少経つが、ルバスとは相変わらず仲よくなれそうにない。先ほどもまた今度合同授業があると琉生に聞いてから、流輝は今度こそ決着をつけてやると息巻いていた。初めて顔を合わせた際に「次の合同授業で勝負だ」と言われていたものの、最初の合同授業でもその後にあった模擬戦闘を行う合同授業でも何度やっても今のところ結果は引き分けだった。
「兄さん……あまり張り切りすぎて変なことしないようにね」
「何だよ変なことって。お前時々失礼だぞ、俺に」
「そんなことないよ。いつだって俺は兄さん第一なんだから」
ニコニコと笑顔で言ってくる琉生が流輝を第一に思ってくれているのは多分本当のことだろうなとわかってはいる。流輝もそうだ。何より琉生が第一だ。
……なのに何でこんな嘘くさいというか胡散臭く感じるんだろな。
ほんのり目を細めつつ琉生を流輝は苦笑しながら見た。ソリアといる時間がそこそこ長くなったからか、どうしても琉生の笑顔がソリアと被る。
「何?」
「いや……なんかこう、気のせいだろうけど、お前が胡散臭く見えてさ」
「あはは、何言ってるんだろうね、俺の兄さんは」
本当に何を言っているのだろうなと流輝は自分でも思う。だがこうしている今も琉生がどうにも胡散臭い。だいたい昔の琉生なら流輝に言われたら「そんなことないよ、何でそんなこと言うの」とさすがに泣きはしないが困った顔をした気がする。間違っても楽しそうに笑っていない。
「……まあ、いいや。どれだけ胡散臭くなってもルイはルイだし。俺はどんなルイでも大事にするからな」
「嬉しいよ兄さん。俺もどんな兄さんでも大事にするからね」
「君たち見ていると双子なのか恋人なのか、本気なのか冗談なのか時々わからなくなってくるよ」
流輝が琉生のいる生徒会室へ押しかけていたのもあり、双子の近くにいたフィンが楽しそうに口を挟んできた。幸い三人の他には誰もいないのをいいことに、流輝はとてつもなく微妙な顔をフィンに向け思いきりぞんざいな口を利く。
「は? 何言ってんのフィン。いくら他国の第二王子様だからって訳わかんねーこと言ってんじゃねーぞ」
「そうだよ、フィン王子。俺らのこのかけがえのない関係をそんな下世話な風に見てもらいたくないな。第一同性で血の繋がった……待って、この世界って同性愛とかえーっと、兄さん、『近親相姦』って何て言うと思う?」
「知るかよ……」
「だよねえ。えっと、血の繋がった家族同士での恋愛って普通にあったりするの?」
「お前、何言ってんの?」
あまりに突拍子もないことを言いだした琉生を初めて会った人のように見ながら、流輝はもう一度「お前、何言ってんの?」と繰り返した。だがフィンは別に驚いた様子も困惑した様子もなく微笑んでいる。
「ああ、君たちの元いた世界では当たり前ではなかったのかな」
「どうだろう。少なくとも俺や兄さんの周りにはいなかったかな。とはいえ俺らも小さい子どもだったしよくわからないかも」
「ここでも当たり前というほどではないよ。異性愛が多いしね。とはいえ同性愛を禁止しているわけでもないんじゃないかな。少なくとも俺の国やこのニューラウラ王国ではそうだよ。四国連合の他の国はどうかまではよく知らないけど。家族同士での恋愛はさすがに推進されてないなあ。でも他国では昔、血族を大事にするあまり近い親族同士で結婚していたところもあると聞くよ」
「へえ」
「……なあ、ルイ。そんなの聞いてどうすんだよ」
「どうもしないよ。ただの好奇心」
「はぁ?」
「好奇心ついでに他の話も教えてあげよう。昔はね、そういう国もあっただけでなく人そのものが軽んじられていた時代もあってね。各国での人身売買は普通に商売として成り立っていたんだ」
フィンが話してきた内容のせいだろうか、どうにもフィンがまるで怪談を語り出したかのような表情に見えてしまい、流輝は同じく怪談話を聞く時のようにゴクリと唾を飲み込んだ。幽霊などを怖いと思ったことはなく、元いた世界でも友だち同士で面白おかしく話したり聞いたり、テレビ番組で楽しんだりしていたのを思い出す。
「奴隷制度だね。戦争で負けた相手先の男女や貧民街からさらわれた女、子どもや没落貴族の女、子どもといった者たちがどんどん売買され、奴隷として様々な扱いを受けたと聞くよ」
だがフィンの話はそんな娯楽ではなく、過去とはいえ現実の話だ。面白がって聞くものじゃないなと考えている時、ふと流輝は思い出した。
「ま、待て。俺やルイは昔、二度ほど怪しげな盗賊みたいなやつらにさらわれかけたことがある。それって売られようとしてたんだと思う。ってことは昔の話じゃなくて今でもあるってことじゃねえの?」
真剣な顔で言えば、フィンは少し優しげな眼差しで流輝を見てきた。
「そうだね、隠れてなら今もどこかでそういう取引がない、とも言えないようだ。残念ながらね。ただ少なくとも俺の国やニューラウラ王国では成立しない、はず、かな。絶対なんて保証は悲しいことにもちろんないけども。何故かというと、奴隷を買っても使える場所がないはずだからね。奴隷として使っているのが見つかると、例えどれほど高い身分の貴族であっても大罪として処刑は免れない。多分他の国でも大罪だったと思うよ。実際あってはならないことだ。昔は当たり前の商売だったなんて本当に考えられないことだよ。許されないことだ」
そんなフィンの話を、何年か後に流輝たちは思い出すことになる。




