42話
双子が十五歳になる年の夏、ニューラウラ王国に待望の赤子、それも第一王子が誕生した。王と血の繋がった男子とあり国中が盛大に祝福し、お祭り騒ぎとなっている。
王妃である母親が妊娠したと正式に発表があってからずっとローザリアも初めての弟か妹にそわそわしていたし、無事誕生したとわかってからは大喜びではあった。だが心から喜べない自分もいて、それがとても嫌だし悲しいと思う。
もちろん、リアムと命名された弟に対しては嬉しさと愛情しかない。生まれたばかりでまだほんの少ししか会えなかったが、しわくちゃの顔すらかわいくて堪らなかった。
喜べないのはそうじゃない……でも、今さらだし仕方ないもの、ね……。
王と血の繋がった第一王子が生まれたことで、ローザリアは貴族たちからの視線や態度にますます冷たい刺を感じるようになった。面と向かって何か言ってくる者はいない。しかしわりとあからさまな態度をとってくる者は少なくなかった。
「どうしたんだよ」
ある日、第一王子誕生の祝いに訪れていたターナー一家との会食の後、流輝にテラスまで連れ出されたローザリアが何事だろうとこっそり胸をドキドキさせているとそう聞かれた。
「どう、って?」
「お前、元気ないじゃないか。あんなに赤ん坊生まれんの楽しみにしてたのに」
流輝が気にしてくれていた。それだけでずいぶん元気になれた気がする。
双子のことは知り合ってからそれこそ姉弟のように思ってきたし二人もそう思ってくれているだろう。だがローザリアは同じように大事だった二人ではあるものの、いつからかそれにプラス特別な感情を流輝に対して抱くようになった。とはいえどう見ても流輝にはその気など全くなさそうでしかなく、大切な絆を壊すような気もして打ち明けるつもりはなかった。だが琉生には「わかりやす過ぎる」とまで言われてしまい、気持ちがバレていることに気づかされた。
私、そんなにわかりやすいのかな……?
初恋ではない。初恋は五歳か六歳の頃に済ませている。王に仕えている騎士で今も憧れの人ではある。とても恰好がよくて優しくて大好きだった。当時すでにもう結婚していたかもしれないその人が大好きで大好きで、見かけると嬉しくて仕方なかった。それもまさか周りにバレバレだったのだろうか。
ただし肝心の流輝は全く気づきもしないようだ。他人のそういった感情にはそこまで疎くないようだというのに、何故自分のこととなるとすごく鈍くなるのか謎だが、バレなくてよかったと思うしかない。
……それとも残念に思うべきなのかな?
そんな風にも思ったりしたが、やはり今のところ打ち明ける予定はない。
それでも、少しでも流輝が気にかけてくれているとわかるだけですごく嬉しい。例えそれが姉弟に対するような気持ちであったとしてもだ。言うつもりはなかったが、ローザリアはつらく思っていることをつい打ち明けていた。
「そんなやつらのことなんか、気にするな。……っつっても無理だろうけど、でも気にするだけお前の心がもったいない」
「リキ……」
「俺やルイはお前がすごく大事だし大好きだしいてくれてよかったと思ってる」
そういう意味ではないのはわかっているし「俺やルイ」と言っているのもわかっているが、それでも流輝の口から「すごく大事」「大好き」と言われてローザリアはただでさえそう言ってもらえて嬉しいというのに、さらに泣きそうなほど幸せだと思った。
「うん……」
「それにそんな貴族ばかりじゃねえ。お前という存在を大切に思ってくれる貴族だっているだろ?」
「うん、いるわ」
少なくとも学園で仲良くなった一部の友だちは本当にローザリアそのものを見てくれている。昔からエルネス家に勤めてくれている人たちもそうだ。母親とローザリアを嫌な顔一つせず、温かく迎えてくれた。貴族の位でありつつも誠意ある人たちをローザリアは思う。
「何より陛下たちがどれほどお前を大事に思い、愛してるか」
「……うん、そう。本当にそうね。リキ……ありがとう」
どんどん嬉しい気持ちが大きくなる。そしてどんどん流輝を好きな気持ちも大きくなっていく。
大きくなってもどうしようもないのにな。
少し困ったように笑ってしまったのかもしれない。流輝が気がかりそうにローザリアを覗き込んできた。昔はローザリアのほうが背は高かったが、いつの間にかほんのり追い抜かれている。
「な、何?」
顔が赤くならないようがんばって、私。
「もちろんルイもそう思ってるぞ」
「え? あ、ああ、うん。わかってる」
「それに、これから赤ん坊に手がかかるだろうし、今のうちに陛下たちに甘えとけ」
「そ、そうだね」
「おう」
「リキ。ほんとにありがとう。もう大丈夫だよ私」
大丈夫だからもう少し離れて。じゃないとあと少しで私、真っ赤になりそう。
「そう? よかった」
だというのにむしろそんな気持ちがないからだろう。微笑んできた流輝が軽くではあるが抱きしめてくる。あまりにたくさんの感情が一気に襲ってきて失神しなかった自分をあとで褒めてあげたい、とローザリアは思った。
それに本当に鬱々とした気持ちは晴れていた。その上、両親からも改めて言葉と態度で十二分な愛情をもらい、ローザリアは完全に元気を取り戻した。




