40話
自分がそこまで希少な存在ということは全然ピンとこなかった。しかし何となく嬉しくはあった。琉生のおまけとしてたまたま一緒に召喚された可能性さえ頭に過ったこともあったが、もしかしたら流輝もやはり何らかの意味があったのかもしれないと思えてくる。召喚されたこと自体はありがたくもないものの、どうせされたのなら意味はあって欲しい。
現金なもので、そうなるとただでさえ面白く感じていた魔術に関してかなり肯定的になってくる。琉生を危険な目に遭わせてしまったことは絶対に忘れられないが、しっかり魔術を理解し使いこなせればむしろ安全だと改めて思えた。それに勉強すればするほど、実践を積めば積むほど、魔法は流輝の身についてくれる。使いこなすのが難しいものもあるが、それだって仕組みを理解し自分の中に取り込み、何度も使っているとある日ふとあっけなく使えるようになったりした。
「魔法って面白いんだね」
「リキ様は習いたてですしね。余計そう思えるのかもしれません。ですがもっと本格的に学べばそんな気楽なことなど言ってられませんよ?」
「今は本格的じゃないの?」
結構たくさんのことを教えてもらっているように思うのだがと流輝は首を傾げた。
「まだまだ基礎知識です。そうですね……リキ様は十六歳から選べる選択科目は何になさるかもうお決まりですか?」
「……まだ決めてなかった」
けれども、今ではほぼ流輝の中では固まっている。
「そうですか」
「決めてなかった、けど最近は魔術科を選びたいなって思うようになったよ。俺、多分魔術師になりたい」
「それはよかった」
「よかったの?」
「はい。魔術科でしたら特定の魔術師について従魔術師として昇進することができます。ルキ様さえそのつもりがおありでしたら、私がその役割を果たしましょう。ただそうなった場合は今なんて比じゃないくらい私は厳しくします」
「なる前から脅しにかかんの?」
「ふふ。怖気づいてしまいますか? 強制は致しませんので魔術科へ行かれても学園指定の魔術師を紹介してもらってもよろしいですよ」
「まさか。ここにニューラウラ一すごい魔術師がいんのに、そんなもったいねーことしないよ」
以前フィンが教えてくれた仕組みを流輝は思い出した。従魔術師となると確か仕える魔術師の身の回りの世話もすると言っていた気がする。
「……でもソリアの身の回りの世話か……なんだろ、すげー想像つかない」
「そうですか? 私は結構楽しみですけどね、リキ様にお世話されるの」
「……変なことだけはしないでね」
性別判断を強制的にやらされたことを思い出し、流輝は引きながら言う。わりとトラウマになりそうなくらいあれは引いた。
「嫌ですねえ、私を何だと思ってるんです」
うふふ、と笑うソリアに、流輝は心の中でだけ「別次元で生きてそうな人」と答えた。
「でも何でソリアに仕えるようになってから厳しくすんの? 今からでもいいよ俺」
「かわいいことをおっしゃる」
「……いや、かわいくねえから」
「甘いラクームに塩をほんのり入れるとより甘みが強くなって味が引き立つでしょう?」
ラクームというのは元の世界で言うクリームみたいなものだ。やぎに似たトラゴという動物のミルクから作られている。
「それはあんま知らないけど……いきなり、何?」
「料理の基本ですよ。異なる物質を加えることで元の味を強める対比効果です。それと同じで今こうして甘やかして魔法に興味を持ってもらったのち、本格的に教える時に塩を塗り込むことでよりリキ様の力を引き出そうかなと」
自分もそうかもしれないが、魔術師は元の世界で言う理系っぽいなと流輝は内心苦笑する。
「いや、わかんねーよ……」
「おや、残念」
「……はぁ。つかソリアって料理もできるの?」
「いえ、私はしませんけどね」
「……」
微妙な顔をソリアへ向けているとニコニコとしたままソリアがじっと流輝を見てきた。
「な、何」
「今、年々魔獣が増えてきています。そして従魔術師となれば魔獣討伐へ赴くこともあります。今のところ王国同士の戦争はありませんが、万が一いざこざが発生し戦闘になった場合もそうです。騎士や魔術師について戦場へ赴くことだってあるんです。それでもリキ様は従魔術師、そして魔術師になりたいと思いますか?」
考えれば当たり前なのだろうが、そういった話はフィンからも聞いていなかった。
討伐。戦場。
耳慣れない言葉に流輝は一瞬躊躇した。だがキャスたち騎士は流輝たちの護衛をする前は実際日々そうして戦ってきていたはずだ。護衛をしている今でも、たまに大きな討伐がある時は赴いていることがあるのもなんとなく知っている。騎士だけでなく魔術師も同じだろう。それらを知らないわけではないし、流輝たちがいるこの世界はゲームでもなんでもない現実だ。攻撃を受けたら痛いし、下手をすれば死ぬ。戦闘不能でも薬を使うか寝たら生き返る、なんてことはまずない。
怖くないと言えば嘘だ。死にたくないし怪我もしたくない。だがこの世界に呼ばれて戻ることが今のところできないのであればこの世界で生きるしかない。そしてその生きる意味を流輝はようやく見い出せた気がするのだ。ここでやらなければそれこそ嘘だ。
「わかってる。それでも俺は……魔術師になりたい」
先ほどは「多分」とつけていたが、今度は言い切った。それを聞いてソリアがさらに微笑む。
「でしたら私は誠心誠意を込めてあなたを育てるまでです」
「うん。ありがとう、ソリア」
流輝も微笑んだ。




