37話
琉生としては、正直なところローザリアに言われなければ大人になっても流輝と一緒に眠っていたかもしれない。さすがに昔のように一人が怖くて泣いてしまう、ということはないがあえて言われなければ意識することもないほど当たり前のように一緒のベッドで眠っていた。流輝はどう思っていたのかわからないが、もし違和感があったとしても琉生がそうしたいならすればいい、くらいは思いそうだ。
元の世界の家は大公爵邸のような意味がわからないほど広い屋敷ではなかったのもあり同じ部屋とはいえベッドは二段ベッドで、一緒に眠ってはいなかった。しかしこの世界へ来てから最初は怯えなどもあったものの、そこそこ成長した二人が一緒に眠ってもまだ余りある大きさのベッドだったため今でも琉生は違和感すらなかった。
「え、まだ一緒に寝てるの?」
「うん、まあ」
昼食時、たまたま目が合ってしまったらしい流輝はその教師に頼まれ機材を運ぶのを手伝わされている。二人で運べば十分な量だったのもあり、琉生はローザリアを誘って先に昼食をとることにしていた。そしてたまには外で食べようかと食堂でテイクアウトを頼み、二人で食べながら話しているところだった。
「私はまだ兄弟いないからよくわからないけど……確かに数ヵ月後に生まれてくる弟か妹と出会ったら、一緒にいたくなるかも。でも周りの話を聞いてたら何となく、小さい頃から一人で眠るものらしいよ?」
「そう? ああ、ところで陛下のお体は? 元気でいらっしゃるの?」
「お母さまならええ、元気。多分無事に出産を迎えられるだろうって主治医もおっしゃってくださってるの。ありがとう」
「いえいえ。でもほんとさあ、そもそもベッド大きいし。それにずっと二人で寝てたから俺、一人で眠れるかどうかわからないんだよね」
「そっか……。別に二人がそれでいいなら私が言うことじゃないけど、でも今後のことも考えてルイ一人でも眠れるようにしたほうがいいんじゃないのかな」
ローザリアは心配そうに言ってくる。まさか第三者からすればそんなに心配そうな顔になる事柄だとは思ってもみなかったため、琉生は内心「まずいことなのか……」と少々困惑しつつ微笑んだ。
「そうだね。じゃあ一人で眠ってみるよ。それに確かにずっと俺がリキと眠ってたら、将来もしかしたらローザリアのお邪魔になるかもしれないもんね」
「……な、何でそうなるのっ? な、何言って、やだ、違、そういうつもりで……っ違っ」
一瞬ぽかんとした後にローザリアが真っ赤になってきた。昔はひたすら無邪気だったローザリアも今じゃ何を言っているのかわかるようになったのかと、琉生は一つ年上の少女に対して妙な感慨深さを感じる。
「だ、だいたい私、そんなんじゃ……」
「あなたがリキのこと好きなの、バレバレなんだから隠しても無駄だってば」
「う、嘘。え、やだ……どうしよう……じゃあリキにも……?」
「まさか。俺の兄さんが気づくと思う? むしろもう少し気づいてもよさそうなのにって呆れるレベルでしょ」
「……だよね」
動揺し少し青ざめたくらいだというのに、琉生の言葉に今度は微妙な顔をしてくる。
「でもさ、俺もローザリアがいつから兄さんのこと好きなのかはっきりは知らないんだよね。あとどういうとこ、好きになったの?」
「……え、言わなきゃ駄目?」
「わかってると思うけど、俺は相当なブラコンだよ? 兄さんには並大抵の相手では許さないくらいにね。でもローザリアのことは俺も大好きだから認めてあげたいなあとは思ってる。ねえ、俺っていう味方、欲しくない?」
ニッコリと微笑むとローザリアはまた微妙な顔をしてきた。
「昔は泣き虫だったのに、いつからそんな怖い子になったの、ルイは」
「兄さんを守ろうと思った時からかな」
またニッコリ笑って言うとため息をつかれた。
「いつからっての、私もはっきりわからないの。気づけば好きだったから。どういうとこっていうのは……どうだろ……多分最初はね、はっきりものを言うリキに自分を重ねて共感してたような気がする。私、基本的に自分を隠してるとこあるけど、でも元々は間違ったこととかは正さないと気が済まないし思ったこと、はっきり言いたい性格だから」
ああ、と琉生は思った。
母親の再婚によってきっと嫌なことが今までたくさんあったのだろう。だが王女という立場もあり、仮面を被るしかなかったローザリアが浮かぶ。
「それがいつからその……そういう思いになったのかが私も口で説明しにくいんだけど……でもその、リキの強いけど人の痛みもわかるとことか、口は悪いけど優しいとことか、その……ああもう! 私を苦しめないでルイ。いい子だから。どういうとこ好きだなんて、もう言えない」
ローザリアは真っ赤になりながら両手で顔を隠している。そんなローザリアを琉生は微笑ましく思いながら「わかったわかった。ごめんって。安心して。俺はいつだってローザリアの味方だから」と頭を撫でた。
「んん? どうしたんだ? ローザリア、何かあったのか?」
そこへタイミングよくというのか、悪くというのか、おそらく絆の輪でなんとなくこの場所を把握したのであろう、流輝がやってきてローザリアを覗き込んでいる。
「な、なんもないわよ!」
顔を覆っていたもののローザリアが赤くなっていることに気づいたようだ。少しホッとしたように流輝は息を吐いてから首を傾げる。
「あーわかった」
「な、何」
ローザリアがぎくりと肩を震わせた。流輝はニヤリと笑う。
「そのソコラータのパラクレタが美味すぎてついがっついたんだろ。それを見たルイに苦笑されたんだな。甘いの好きなのはわかってるけど落ち着いて食えよな」
「っ知らない! リキの馬鹿」
まだ赤い顔のまま、ローザリアが思いきり呆れたように流輝を見上げ、言い放った。
「は? 何で俺が馬鹿なんだよ。なあ、ルイ……」
「うん、馬鹿だよね兄さんって」
「何でだよ!」
ちなみに一人で眠ってみたが、最初はやはり中々寝つけなかった。眠ることすらかなり流輝に依存していたのだと気づく。だが少しすると琉生はようやく慣れてきた。それでもたまに夢見が悪くてうなされ、少し泣きながら起きることもあった。そういう時は一旦少し落ち着いてから流輝の部屋へ行ってベッドに潜り込み、一緒に眠らせてもらった。




