35話
その接する機会は思っていたより早く訪れた。それもアリアンは関係ない状況でだ。
ある日、また変な言いがかりをつけてくる別の生徒をあしらってしばらくすると、ルバスが自ら流輝の元へやってきた。
「俺はアステリクラスのルバス・ディルアンという。お前か? 理不尽な暴力をあいつに振るったってやつは」
「……はぁ? 理不尽なのはさっきのやつだろが。つかあいつ、お前にわざわざ言いつけに行ったのか。そんなで喧嘩売ってくるなっての」
っていうかこいつがルバスか。
流輝はまじまじと目の前の男を見た。背は流輝より高いが普通くらいだろうか。とはいえ流輝と比べると大抵の男は流輝より高い。髪色はアリアンと同じブロンドで短いながらにハーフアップにしている。目の色は緑色だった。一瞬どこかで見た気がしたが、アリアンと兄妹だからだろうと思う。ムスッとした顔つきは俯き加減のアリアンとほんのり似てなくもない。
「……あいつが言うには廊下を歩いていたらいきなり胸倉をつかまれ殴られたらしいが」
確かに今ここにいない琉生のことを言われムッとしたため胸倉をつかみ、殴るふりをして鼻をつまんでやったが実際に殴った覚えはない。その生徒がそのあとで勝手にバランスを崩してどこかにぶつかってはいたが、そんなことまで知ったことではない。
「んな訳ねーだろ。俺は歩く公害かよ。逆だよ逆! 歩いてたらしょうもないことそいつが言ってきたの! 胸倉はつかんだけど鼻つまんでやったくらいしかしてねーわ。あいつ、お前の友だちなのか? だったらちゃんとそいつが嘘ついてねーかぐらい判断してくれね? あとちょっと助言してよ、そいつに。人の身分や育ちをいちいち上げ連ねるだけじゃなくて馬鹿にすんなって。俺にだけなら無視してやるけど、俺の家族とかのことを言うなら許さないから。つってもそんなやつに暴力なんか振るうかよ、俺のこぶしがもったいねえわ」
「……。……お前の話を鵜呑みにするつもりはないが、そうか……それは俺もちゃんと確認せずに来てしまい悪かった」
ルバスは睨んできた顔のまま少し黙っていたが予想に反して素直に頭を下げてきた。
何だよ、ディルアンの次男坊はやっぱり案外いいやつなのか?
態度を軟化させつつ思っていると「だが」とルバスが続けてきた。
「それとは別に、お前がターナー家の双子の一人だな?」
「別? ああ、そうだけど。まだ名乗ってなかったな。俺はリキ・ターナー。双子の兄のほうだ」
「リキだろうがルイだろうがどうだっていい」
「あ? そのわりに俺らの名前よく知ってんな?」
「一年も遅れて入学しておきながら、この俺を差し置いて成績トップになるやつらを知らないわけないだろうが。しかも……お前、どっかで見たことあると思ってたが、あの時のやつじゃないか! いや、双子ってんならどっちかわからんのか……?」
「は? あの時? ってどの時」
「あの時に決まってるだろうが。ミューダ当てのことだ!」
「……ミューダ? 何? ミューダ……、……あ。あー、ああ、あー」
何を言っているのだろうと怪訝に思っていた流輝の頭に、以前市場へ連れて行ってもらった時にやったゲームがよぎった。確かにあの時、途中まで一緒に張り合っていた少年がいた。言われてみればその少年はルバスっぽい顔をしていたかもしれない。先ほど見たことがある気がしたのは気のせいではなかったようだ。
「やはり貴様のほうで合ってるのだな? というか貴様、まさか忘れてたのか」
「え? いや、忘れてたっつーか、今の流れで結びつかなかったんだよ! つか、あの時のミューダ当てが、何」
「俺は勝負事で負けるのが成績で負けることと同じくらい嫌いなんだよ! ただでさえ成績トップってだけでも忌々しいのにあの時のあいつかと思うとさらに忌々しい」
「そんなこと言われても知らねえよ……」
「煩い。いいか? 俺は負けないからな。成績だってあっという間にお前なんか差をつけて追い抜いてやる。ミューダ当てもな!」
「いや、別にミューダ当てする予定ないけど……」
「とりあえず貴様が大公爵子息でよかった。俺との勝負にふさわしい身分だ」
「……は? 勝負はさておき、それに身分とか関係あんのか?」
今まで勢いに押されていた流輝は今のルバスの言葉に顔つきをかえ、見返した。
「当たり前だろう? 血筋は何よりも大切だろうが」
「ああ? 馬鹿じゃねーのか? んだよ、やっぱつまらねーやつだなお前」
「なんだと! この俺をつまらないだと? よかろう。決闘だ!」
「は。望むとこ……」
「望まないところだよね、言い間違えないで、兄さん」
いつの間にやって来ていたのか、琉生が呆れたように流輝の肩をぽんと叩くとルバスを見た。
「初めまして。俺はルイ・ターナーです。あなたがルバス・ディルアンですか。一応、よろしくお願いします。ですが生徒同士の決闘はそういう授業でもない限り禁じられています。それでも行うと言うのであれば、俺としては取り締まりをさせていただくことになりますが」
「何だと? 何の権限があって」
「ありますよ。俺、生徒会役員なので。ですので生徒らしく成績などを競うのは悪くないと思いますし、思わずの喧嘩もまぁ、あるのかもしれません。が、決闘は今後もおやめになってくださいね。ではそろそろ次の授業が始まりますのでご自分の教室へお戻りください」
「……いいだろう。貴様の言うことはもっともだ。だがおい、リキ・ターナー」
「何だよ」
「お前が心底気に食わないことに変わりはない。次の合同授業で勝負だ」
思いきり指をさされ、流輝もこぶしを握り締めながら「受けて立ってやるよ!」と口元を引きつらせながら言い返した。




