21話
流輝がこの世界のことを知りたい、学びたいとモリス、カルナに言ったと聞いて「俺も学びたい」と琉生も後日お願いしに行った。
このままでは駄目だと琉生は前から思ってはいた。元の世界であっても泣き虫で流輝の後ろにばっかり隠れている琉生では駄目だっただろうとは思うが、こちらの世界ではなおさらだ。ここでは油断していると命さえ危ない。王の宮殿やこの邸宅に引きこもっていれば安全かもしれないが、それでも流輝に心配をかけてしまう。
流輝は強い。力がというより精神が、だろうか。話し方だけ聞いたらぞんざいな印象を持たれてしまうかもしれないが、その実とても優しくて真面目で、そしていつだって琉生を守ろうとしてくれる。とても嬉しいしありがたいが、その結果今回のように危ない目に遭うことに今後もならないとは限らない。
リキにもし何かあれば……そんなの耐えられない。
それでも流輝は琉生を守るためなら自分が危険だったとしても立ち向かおうとするだろう。それを回避するには本人に「危険なことはやめて欲しい」と願うより琉生が強くなるほうが間違いなく確実だと思えた。それに流輝は強いが、真面目な分とても繊細なところもある。精神が強いといっても傷つかないわけじゃない。比べようがないが、琉生よりも傷ついたり落ち込んだりすることだって絶対に今まであったはずだ。
でも……リキは泣き言を言わない。素直で真面目だから思ってること結構わかりやすかったりするし、たまに落ち込んでるなあってわかることもある、けど……でもリキは泣き言を言ってこない。
それでは駄目だと思った。今回だって琉生が買い物についていくことに流輝があれほど不安に駆られるなんて、思ってもみなかった。琉生を守ろうと必死な上に、もしかしたら流輝も琉生のように依存してくれているのかもしれない。だったらなおさら、琉生は弱いままでは駄目だと思った。
とりあえず常識から勉強したが、その合間にフランやキャスに剣も教えてもらったりした。
教えて欲しいと頼むとフランは「学園でも学べますが、ご自分の身の守り方を知るのは悪くないと思います」と快く承諾してくれた。キャスも「いくらでもお教えします」と乗り気だった。
ちなみにキャスが最近おかしい。以前は琉生や流輝のことをどこか疎ましく思っているのではと何となく感じていたのだが、今では崇める勢いだ。少し怖い。特に流輝に対しては騎士の誓いすらしたらしい。流輝から聞いてたまたまそばにいたフランに「騎士の誓いだって」と笑いかければ「ルイ様が求められるなら俺も致しますが」と真顔で言われた。
「結構だよ」
とりあえず笑顔でお断りしておいた。
剣を学ぶのはとても楽しかった。泣き虫の琉生ではあったが別に体がひ弱なわけではなく、鍛えることも最初は中々きつくはあったもののすぐに楽しいと思えるようになった。フランにも剣筋がいいと褒められた。
「俺も悪くはないみたいだけどさー、お前には敵わねえわ」
剣技が上達していく琉生に対して流輝は嬉しそうだった。実際「お前が剣、強くなんのすげぇ嬉しいに決まってんだろ。少なくともそれでルイが危険な目に遭う可能性減るならばさ」と言われた。
そうして色んなことを吸収していたある日、双子は王に呼ばれ王宮へ向かった。
「来てもらって申し訳なかったね」
何となくファンタジーなどで出てくる王は偉そうにふんぞり返っているイメージが元の世界ではあったが、少なくともこのニューラウラ王国の王は腰が低い勢いで丁寧だと琉生はそっと思った。
期待はしていなかったが、やはりまだ帰る方法は見つかっていないと聞くと気持ちはどうしても落ち込む。ただ、今回の話はそれが主体ではなかった。
「光の救世主……?」
声を揃えて唖然とする双子に、王ノアは頷いてきた。
「そうだ。この世界の中心部には光の神殿がある。そこは光の救世主しか入れないのだが、中にある聖杯に光の魔力を送り込み、かつて魔王が生んだ魔獣や魔族の力を削ぐのがその役目だ。三百年に一度、光の救世主はどこかの世界で生まれる。その後この世界では召喚の神託を受け、呼び寄せる。歴代の救世主たちも色んな世界から召喚されておる」
「で、俺らがそうだって言うの?」
ぽかんとしている流輝の言葉にノアはそっと首を振ってきた。
「君たちが、というより正確にはルイが、かもしれない」
「俺……?」
ノアが言うには光の魔力を持っているのは琉生だけらしい。ただ、肝心の力は相当弱いらしい。
「君が強いのは剣だ。逆にリキの魔力は計り知れない。多分私の国の魔術師全員を集めても君ほどの力はないかもしれない」
「……俺が……?」
「その、陛下……。もしかして俺はその神殿とやらに行かなくてはならないんでしょうか」
「そう、して欲しい、とは思っている。だがもちろん、今すぐではない。君たちはまだ幼く体も未発達だ。それに魔法の使い方すらろくに知らないだろう? ああ、剣はフランたちから教わっていると聞く。優秀らしいな。素晴らしい」
「あ、ありがとうございます……。では、俺たちはどうすれば……?」
自分も強くならなくてはと思っているのもあるが、光の魔力を持っていると言われたからだろうか、いつもは話すのを流輝に任せていた琉生は率先して質問していた。
「もちろん救世主の役目を果たさなくとも帰られる方法は変わらず探そう。だが一応、光の救世主であると知っていてもらいたくてね。今はそれだけだ。何故かというと命を狙われる可能性もあるのだよ。魔族たちからね。それもあり、君たちを王宮やモリスの元で守ろうとしていた」
ノアは始終申し訳なさそうだった。一方双子は始終ぽかんとしていた気がする。
ちなみに光魔法を持ち得ているのは琉生だが、もしかしたら二人そろって光の救世主の可能性もあると言われた。だから二人とも自分が救世主であり、命を狙われる可能性もあると心得て欲しいとも言われた。
「……この世界のこと知らなきゃ、ってレベルじゃなかったな」
元の世界に戻れないと聞いたことがやはり今までで何よりショックだったのもあり、今回の話は驚きはしたもののショックを受けることはなかった。流輝はむしろ「あの漫画みたいに俺ら、つかもしかしたらお前が、だけどほんとに勇者だったんだな」と少し得意げというかわくわくしていそうだった。
琉生にしてみれば救世主だろうが勇者だろうがサブキャラだろうがモブだろうがどうでもよかった。いや、むしろ何の役割もない存在だったらこんなことになっていなかっただろうにと思えてならない。そして今もこうしてすぐに真に受けて得意げになっている流輝を見て、改めて「俺こそがリキを……兄さんを守らなきゃ」と強く思った。




