13話
なんだかんだで気づけば双子もすでに十二歳となっていた。一応カルナとモリスにも少しずつ心を開いてはいる。いい人たちだとは最初からわかっているのだが、どうしてもまだ「親」という感覚になじめないというのだろうか。それでもずいぶん親しくなれたとは思う。
言葉も今ではスラスラと話せるようになっていた。子どもだけに適応力が強いのもあるだろうが、ローザリアのおかげだろう。文字もずいぶんわかるようになり、あまり難しくなければ読み書きも普通にできる。
そんなある日、流輝が朝寝とも昼寝ともつかない惰眠を貪っている間に琉生が一人で行動した。目を覚ました途端、流輝は思いきり不安になる。元の世界でもわりとよく二人でいた上に、こちらへ来てからはずっと一緒だっただけに落ち着かないし琉生が心配でならない。
「大丈夫ですって。ルイ様、他の使用人の買い物について行っただけですよ。だいたいそれにもフランがついてんだ、心配する必要なんてまったくねーですし」
流輝の護衛騎士であるキャスが言ってくるが、だからといって流輝の不安は消えなかった。自分でもよくわからない。何故かひたすら不安で仕方がない。ふとまた脳裏に流輝が刺されて倒れるところが浮かんだ。浮かんだ琉生は元の世界の服を着ていたが、一瞬とはいえまるでそれを現実に目の当たりにしたかのように鮮明だった。嫌な予感すらしてくる。
駄目だ、ここでじっとなんてしてらんない。
流輝は焦る気持ちをどうすることもできず、その場から駆け出した。背後でキャスが何やら言っているが足は止めなかった。そのまま屋敷の外へ出る。琉生と二人で屋敷を探検していた時に見つけた、子どもならなんとか通ることのできる抜け穴のおかげですぐに出られた。流輝たちが小柄なのもあるだろう。
とにかく自分でも本当によくわからないが、居ても立っても居られなかった。そのまま琉生たちが向かったであろう町の中心街へ自分も向かおうとしたが、そういえばこの屋敷へ来てから流輝は一人で外に出たことがなかったため、道がいまいちわからない。琉生たちを探し回っている内に、知らず知らず路地裏に足を踏み入れていたようだ。
「なんだよ、金が自分からやって来たぜ」
「日頃の行いがいいせいだな」
「テメーの行いがよかったことなんてあんのか?」
そんなくだらないことをニヤニヤとした顔で言いながら、そこにいた汚らしい恰好の男たちが流輝を眺めている。その男たちを、流輝はどこかで見たことがあるような気がした。そして即思い出す。この異世界へ来たばかりの頃に流輝たちを捕まえておそらく売ろうとしていた盗賊たちだ。もしかしたら違うかもしれないが、多分間違いないだろう。向こうは流輝がその時の子どもだと気づいていないかもしれない。何より流輝はあの時と違い、今は貴族らしい恰好をしているし、遠目だと髪色も黒とも焦げ茶とも判断しにくいかもしれない。
流輝は少し後退った。だが他にもいる同じような人間たちも流輝を嫌な目で見ていることに気づく。今は嬉しくないことに、以前と違って彼らが何を言っているのかがわかる。捕まえて売ろうと考えている者や流輝の持ち物をすべてひん剥いてしまおうと考えている者、手出しはしないが関わりたくないからむしろ何もしないと考えている者。聞こえてくる言葉から判断するに、そんな者たちしかいない。
どう考えても逃げなければならない。しかもここで自分が捕まってどうにかされたら琉生が一人になってしまう。
ジリッと後退していた流輝は思いきり走って逃げようとした。だが背後にいつの間にか盗賊の仲間が回っていたようであっけなく捕まる。そのまま担がれ、盗賊らの根城だろうか、さらに奥へと連れて行こうとされた。もちろん抱えられたまま暴れるが、流輝の力では何の足しにもならなかった。
クソ……! 何やってんだ俺……! ここで捕まる訳にはいかねーんだよ……!
とはいえ流輝は頭の片隅で万事休すとはこのことかもしれないと少し思えていた。
「あークソ! あのガキめ」
流輝が走り出した後をすぐさま追っていたキャスだが、抜け穴は当然ながら通ることができず、外へ出るのに遠回りというか普通に出るしかなかったため流輝を見失ってしまっていた。
だいたい、何故自分が子どもの面倒など見なければならないのかとキャスは任命されてからずっと不満を抱えた状態だった。人によれば救世主様の護衛騎士は光栄な任務かもしれない。だがキャスはそう思えなかった。騎士になるためずいぶん努力してきた。剣の腕は今の隊の中でも一、二を争えるくらいだし、騎士としてならいくらでもその腕を振るおうと思ってきた。だというのに何故子どものお守りなのか。
もちろん二人がただの子どもではなく「光の救世主」であることは重々承知している。繰り返すが、名誉なことではあるのだろう。だがキャスは子どもに仕えるために今まで努力してきたわけではない。命じられた当時は十九歳という若さもあり、不満しかなかった。王命ではあるため、一応その不満は表に出さず仕えてはきたが、子どもは敏感だと言うし、流輝も何となく感じるものがあるのだろう。気づかれているような気もする。
そんなキャスだけに二十二歳となった今でも心から流輝に仕えようとまではどうしても思えなかった。そんな折の出来事だ。相手は光の救世主様とはいえ悪態くらいつきたくもなる。
とはいえ仕事は仕事だ。舌打ちしながらキャスは流輝を探しにかかった。町へ向かったであろうとはいえ、流輝は一人で出歩いたことがない。おそらくはどこかに迷い込む可能性も高い。時間に余裕があれば他の騎士なども手配して手分けして探すのだが、もし万が一流輝が危険な目に遭っていたらと思うと悠長なことはしていられなかった。少なくともこの辺は魔物は出ない。なのでキャスの手に負えないことはないだろう。




