12話
もう遅いなんてことはないし、許してくれないなんてこともないとフランに言われた。
「それともリキ様は殿下がそんなに度量のお狭い方だとお思いですか」
「……ドリョ……?」
「あー、器の小さな?」
「お、おもって、ない」
キャスがエリスに話をしに行ってくれていたらしく、まだ帰らずにいてくれたローザリアとは、ローザリアが落ち着くまでの時間を少し空けてから流輝は話をした。正直なところ琉生にも一緒に来て欲しかったが、やらかしたのは自分だ。流輝は用意してもらった比較的小さめの部屋にローザリアと二人きりで温かいお茶と焼き菓子を囲んだ。部屋の外には少なくともエリスが待機しているだろうが、最初はお互い黙ったままなのもあり、少し離れた暖炉から薪が時折はぜる音が響くくらい静かだった。
「その、ご、ごめん……わる、かった」
「あ……い、いえ! 私が、私が悪かったの。き、気まずくて……こんな風に感情さらけ出しちゃって気まずくて、すぐ謝らなくてごめんなさい」
「おまえは、わるく、ないし、きまずく、思うひつよーも、ない」
まだこの世界の言葉が不自由なのもあり、そして後で知ったが流輝たちの立場もあり、誰も流輝が王女に対しお前呼ばわりすることを指摘してこないが、しばらくしてもっと話せるようになってから、流輝はようやく自分がローザリアをお前呼ばわりをしていたことに気づいた。相手への呼び方として特に意識していなかった。元の世界でさえ『お前』と呼ぶのは偉そうに聞こえるかもしれないというのに、自分は最初から結構やらかしていたのだなと改めて思った。
それに対して「君」や「あなた」と呼んでいた琉生に『教えろよ……』と言えば『俺もあまり言葉わからなかったし、それにリキって元々そういう話し方だから違和感なかった』とニッコリされた。
「ううん。あなたたちはとてもつらい状況だというのにあんな風に私のほうが怒ったり泣いたりして、王女としても恥ずかしい」
「……その、俺らにたいして、は、えっと、オージョとか、きにしなく、ていいんじゃ、ないか」
「でも私は」
「だって俺ら、ともだち、だろ」
友だちだとあえて口にするのは何だか照れる。だが今はちゃんと言わないとと、少し言いにくいながらも口にすれば、ローザリアがとても嬉しそうな笑顔になった。
「ええ、ええ……! うん! 友だち!」
「だろ」
つられてずっと引きこもっていた流輝も笑顔になる。その後にまた言いにくそうに続けた。
「とにかく、俺が、わるかった。ゆるして、くれる?」
「もちろん! もちろん許すわ! だからあなたも私を許して」
「いや、でも俺はゆるすも……、……うん、ゆるす、よ」
そしてお互いまた微笑み合う。
「でもその、あやまって、おいてその、きくな、だけど……なんであんなふうに、おこった、の?」
自分の言い方や態度が悪かったせいだとわかった上で、だがローザリアはそれを悪くないと言う。なら何故あんなに感情をあらわにしたのだろうかと純粋に気になった。
「えっと……」
「あっ、ごめん、言いにくい、なら……」
「……ううん。どうせあなたたちの耳にも入るだろうし、それに私、リキやルイになら聞いて欲しいかも」
「なら、ルイもよぼう、か?」
「後であなたが言っていいよ」
微笑んだ後に、ローザリアは説明してきた。
ローザリアは王とは血が繋がっていないとだと言う。その上母親は元々爵位の低い家の出である使用人だったため、当時王の周囲に結婚をひたすら反対されていたようだ。
「だから私の立場はあまりよくないの」
今でも周りからあまりいいとは言えない目で見られているから、とローザリアは苦笑した。
「それでも王であるお父様も、王妃となったお母様もとても優しいし、私は幸せ。気にしないようにしてる。でも……あなたに冷たく言われてつい、感情に任せたような態度とっちゃった」
「……ごめん」
「もう謝るのはなしね。でないと私もその度に謝るんだから」
「わ、わかった」
「ほんとに普段は気にしてないのよ? あなたたちも気にしないでね」
「わかった」
結局それ以上詳しいことは言わなかったし本人は気にしていないと言っているが、それでもローザリアの中ではくすぶっているものはあるのかもしれない。流輝にはまだ難しいことはわからないが、それでも一つ感じたことはある。
俺らだけがつらいわけじゃない。
もちろん比較できるものではないし、異世界へいきなり呼ばれた上にもしかしたらもう二度と親にも友だちにも会えないかもしれない自分たちは結構悲しんでもおかしくないと思う。
ただ、悩みなんてなさそうに見える王女ローザリアですら、多分悩んでいる。
それがなんとなく心に刺さった。
だいたいルイだって……すごくつらいし怖いだろうに、がんばって前向きになろうとしてんだ。なのにすねてどうすんだよ俺。マジ恥ずかしいやつだろ。
今はまだ、もう平気とは言えない心情のままではある。それでも琉生に言われた通り、ただ悲しんで引きこもっているだけでは駄目だと素直に思えた。
あとでルイにも謝ろう。
そう思いながら、流輝はローザリアに「さっきのはなし、だけど、また俺、らに言葉、おしえて」と皿にあった焼き菓子を差し出す。それを受け取り、ローザリアは嬉しそうに「喜んで」と微笑んだ。




