10話
モリスとカルナはとてもいい人たちだ。それは双子にもよくわかった。しばらくは相変わらず部屋に引きこもっていたが、その間も時間を見つけてはどちらか、もしくは二人で双子に会いにやってきた。
聞いた話ではこの二人がこの世界での親となるらしい。自分たちの親は元の世界の父親と母親しかいないとますます心を閉ざしかけたものの、しばらく経ったある日、食事を誰かが運んできた際に中へ入ってきたフランによってモリスとカルナは以前子どもを亡くし、その上二度と我が子を望めないという話を聞いて少し考えが変わった。
「いつも優しくてニコニコしてるから、きっと悩みなんてないと思ってた」
「うん。俺らには自分の子どもが望めないって気持ちはわかんないけど……きっとものすごくつらいんだろうね」
「ええ、ルイ様。とくに奥様の嘆きようは相当なものだったと俺も窺っております。ですが、だからこそリキ様、ルイ様が養子とはいえ自分たちの子どもになるとなった時の喜びようも、相当なものでした」
「そう、なんだ」
琉生は少し泣きそうな顔でフランを見た。流輝も心臓がズキズキと痛んだ。
もちろん、それとこれとは別だ。王が今も何とか戻る方法を探してくれていると知って少しだけ望みを持ちはしたが、現状帰られないという事実は今も耐え難い。だが、あの二人が本当に自分たちを迎え入れることを喜んでくれていて、そしていつも気にかけてくれて実際優しかったのも形だけでなくおそらく心からの気持ちだったのだと思うと、無視したり引きこもったままでいたりすることが何だかとても心苦しい。
フランが出ていってからも双子はもそもそと運ばれてきた料理を口にしながらお互い無言だった。
「リキ」
だが食べ終えて少ししてから琉生が口を開いた。
「何」
「俺らも、ずっとひたすら悲しんで引きこもってるだけじゃ、駄目、だよね」
いつもすぐ泣いて、流輝の後ろに隠れるような琉生が率先してそんなことを言ってきたことに、まず流輝は驚いた。普通なら琉生の成長だと喜ぶところかもしれないが、今は心を閉ざしていた上に自分だけ置いてきぼりを食らったような鬱々とした気持ちになり、流輝は「知らねえ」と呟くとベッドの中に潜り込んだ。
翌日になっても流輝はベッドから起き上がろうともしなかった。琉生がそんな流輝を気にして何やら話しかけてくるが、生返事ばかりしていた。そんな状態での午後、王宮からローザリアが遊びにやってきたと使用人の誰かが報告に来たらしい。おそらくそれを聞いたフランが「お通しするように」と勝手に言ったようだ。しばらくすると応接室どころか二人の部屋にローザリアが入ってきた。
「久しぶり。元気?」
二人が引きこもっていたことを知っているだろうに、ローザリアはいつもと変わらない様子でそんな風に笑いかけてくる。琉生が「うん……」とかろうじて笑い返しているのを見ながら「元気なわけ、ないだろ」と流輝は言い放った。
「そ、っか。あの、ね。言葉を覚える勉強、せっかくだから続けないかなって思って。私がここへ来てもいいし、あなたたちが……」
「おまえ、バカなの。おまえのたちば、で気軽に、うろうろして、いいわけ、ないだろ。バカなの」
『リキ! そんな言い方……』
琉生が慌てて元の世界の言葉でとがめようとしてきた。だがその前にソファーに座っていたローザリアが立ち上がり「……私の立場を、それこそあなたがわかるわけないでしょう? 何を知っていると言うの! 馬鹿などと言われる筋合いなんてない!」と激高して言い返してきた。突然のことに流輝も琉生もぽかんとローザリアを見る。
ローザリアはハッとなり、顔を赤らめたかと思うと今度はぐっと唇を噛みしめる。だがとうとう泣き出した。
「なっ、泣くなよ」
「知らない……あなたたちがつらいの、わかるなんて言えないけど私なりに心配して……、せめて少しでも気がまぎれたらとか、少しでも楽しめたらとか、少しでも過ごしやすくなった、らって、ぅぇっ、思っ、うわぁん!」
思いきり泣き始めたローザリアに、外で待機していたフランやキャス、そしてローザリアについてきたのであろうエリスもが何事かと部屋に駆けつけてきた。おまけにローザリアがわんわん泣いている様子に気づいたエリスは今にも飛びかからんばかりの形相で双子を見てくる。
それにも焦るが、何よりいつもふわふわとして楽しそうだったローザリアを泣かしてしまったことに、流輝は思いきりおろおろとしていた。
「な、泣くなって……な? その、俺が、わるかった、から……な? 泣く、な」
どうしたらいいかわからないものの、とりあえずローザリアの背中に手をやって必死になって声をかける。ローザリアはだが泣き止まなく、エリスがそんなローザリアを連れ出してしまった。
「全く、何やってんすか……」
呆れて呟いているキャスをじろりと睨んだ後、フランはいつもと変わらない表情で近づいてきた。
「どうされたんですか」
琉生が答えようとしたが、その前に流輝が「俺が、わるかった、んだ」とうなだれる。
「リキ様が?」
「イライラしたきもち、ローザリアに、あたった。俺、さいてい」
「……さようですか」
「……なあ。俺、どうしたら、いい? ローザリア、もうゆるしてくれない?」
帰られないことや琉生に置いてきぼりを食らったような流輝の中の暗い感情は今とにかくローザリアへの罪悪感に埋もれてしまっていた。




