102話
琉生は持ってきていた魔法石をソリアに渡す。ソリアは受け取り、一旦抱きしめるかのように抱えると琉生を見てきた。
「貴重な光の魔法石です。必ずこれで魔法円を解除します」
「うん。お願いします」
解除のための呪文を唱え、ソリアが準備をしている間、モールザ王国メンバーから通信機による報告が入った。どうやら流輝たちは何とか無事に王宮から脱出し、待機していた魔術師による転移魔法にてモールザ王国を出たそうだ。これから転移先である、王国から少し離れた森に待機させていた竜馬に乗り、ニューラウラ王国へ向かうところだという。
『国に到着したら王宮にあちらの王族の皆さまをお連れし、我々はリキ様ともどもそちらへ向かいます』
怪我をした者は何人かいるそうだが、全員が無事だと聞いて琉生は心底ホッとした。
「よかった……本当によかった。フランもキャスが無事でよかったよね」
「……それはそうですが、そこはリキ様が、と普通おっしゃられるのでは」
「でもほら、キャスはフランの一番の仲よしだし」
「……仲よし」
基本あまり表情の変わらないフランが微妙な顔をしたところで、神殿周辺が騒がしくなったことに琉生もフランも気づいた。フランが状況を確認すると、こちらが潜伏していることだけでなく魔法円を解除しようとしていることにとうとう魔族たちが気づき、それらを妨害するため魔獣を引き連れ襲撃してきたらしい。
普段ならソリアがいれば安心だと琉生も思えるが、魔族がいる今は向こうがどれほどの強さなのかも把握しきれていない。何よりソリアには解除のために集中して欲しい。フランとともに琉生は神殿近くへ急いだ。
「死ぬかと思った」
途中何度も出くわした魔族や操られている兵士たちの襲撃に遭った流輝はようやく城の外へ抜け出せた時、大きくため息をついた。
「リキ様はどう見ても余裕そうでしたが」
「確かに力的には問題なかったけど精神的にな」
「精神的?」
怪訝そうに首を傾げるキャスを流輝は生温い表情で見上げた。
流輝たちには優しいキャスだが、これでも敵と見なした相手には容赦ない。騎士としてはそれが当たり前なのだろうが、相手が人間であっても躊躇なく切りつける。
魔獣だけでなく最近は魔族に対しても普通に攻撃できるようになった流輝だが、さすがに人間に対してはまだ心が動く。いくら魔族に操られているとはいえ、襲いかかってきた相手には人間の兵士もたくさんいた。だが攻撃しなければこちらが攻撃される上に、速攻で狙わなければどんどん敵を呼ばれる羽目になる。王妃たちを連れているのもあり、そういったことはなるべく避けたい。流輝は内心「無理無理無理無理」と繰り返しながら一見容赦ない攻撃を相手に食らわしていた。一刻も早く移動しなければならないため、相手の生死を確認する暇すらなかった。
「キャスにはわかんないよ。俺、繊細なの!」
「いえいえ、それはわかります。我が主がとても繊細なことはわかってますよ。そういうところも俺はお慕いし……」
「いいからもう黙ってて。あ、いたいた。帰ってきたぞ。とりあえず転移お願い」
キャスをスルーしながら流輝は待機していた仲間を見つけると声をかけた。
竜馬を待たせているところまで戻ってくると、モールザ王国メンバーたちは皆大いにホッとしながら王宮や神殿メンバーにも連絡を入れた。それを見て、モールザ王国の妃や王子たちもようやくホッとしたようだ。城を出た時はまだ結構な緊張感が漂っていたが、それらが少し和やかなものになる。
とりあえず何人かに分かれて竜馬に乗る。メンバーたちが竜馬に乗ってこちらまで来る時は、乗ったことがないどころか近くで見たこともない者もいてかなり怯えた様子だったりしたが、セオたちはさすが王族と言うのだろうか。小さなシエナやジェスですら平然と乗りこなしていた。
ようやくニューラウラ王国へ到着し、王宮の竜馬を飼育している場所にたどり着いてそれぞれ下りたりしていると、あらかじめ知らせを聞いていたのだろう、ローザリアが駆けつけてきた。そして流輝を見つけると一気に泣きそうな顔になり「リキ……!」と名前を呼びながら流輝の元へ走ってくると抱きしめてきた。
「ただいま、ローザリア」
流輝は笑みを浮かべながら抱きしめ返す。するとローザリアがさらにぎゅっと抱きついてきた。
「うん。うん、お帰り、リキ。無事でよかった。ほんと、よかった」
「俺も無事、ローザリアに会えてよかった」
「うん……うん……」
「ところでみんな見てるよ。あとモールザ王国のお妃様たちや王子様、王女様もいるけど」
愛しく思いつつも、流輝は抱きしめたローザリアの耳元で告げた。途端、ローザリアはハッとなったように流輝から離れ、少し顔を赤くしながらモールザの王族たちに丁寧な挨拶をし始めた。
「リキお兄ちゃんとお姉ちゃんはこいびとなの?」
そして目をキラキラとさせながら聞いてくる第二王女シエナに「あ、あの、えっと、そう、そうなの」とさらに顔を赤くさせながらニコニコと頷いている。
「わたしもリキお兄ちゃんかっこいいから、将来リキお兄ちゃんのお嫁さんになりたいの。じゃあいっしょになりましょうね」
周りが一気に和やかになった。




