101話
流輝たちが城からの脱出を図っている頃、琉生は光の神殿へ向かっていた。
ちなみに部屋を出る時、琉生は何となくだが嫌な予感がして、念のため光の魔法石を持ってきていた。何もなければそれでいい。ただ何かあった時に後悔するのだけは嫌だった。持ってきているがこっそり忍ばせているし、光魔法の存在をもし魔族なりが察知できるのだとしても光の魔力を持つ琉生そのものから察知しているのだと思うだろう。
通信機により、流輝たちが無事王子たちを牢から脱出させたり合流したりできたと知った。あとは国から脱出するだけだ。それがもしかしたら一番難しい可能性はあるが、琉生はとりあえずホッとした。脱出がうまくいくことを祈り、絆の輪にそっと触れる。
神殿近くに到着すると、偵察していた兵士たちが状況を説明してくれた。騎士団長や他の精鋭メンバーの一部と琉生がその説明を受ける。その他の騎士や魔術師たちは神殿付近を拠点とし準備を始めた。
姿を確認した魔族たちは正体を隠すことなく動いているようだった。そのまま監視を続けていると、神殿周辺に何かを埋め込んでいったらしい。ただ、あまり近づくと気配を察知される上に下手なことはできないため、何を埋めていたのかはまだ確認できていないという。
魔族たちは妙な行動をとっているものの不可解なほど静かであり、かえって何が起こるのかわからずに偵察隊たちは不気味に思っている様子だ。
「我々では気づかれてしまうかもしれず、埋め込まれていたものをできれば騎士団長殿やあなた方に調べてもらえたらとお待ちしておりました」
最少人数でソリアがかけてくれた目くらましの魔法により神殿付近に近づいた。そして慎重に埋められた跡のある場所を掘り、中を確認した。すると真っ黒な石が埋められていることに気づく。周りの気配に注意を払っていたソリアは呼ばれて覗き込み、驚愕した。
「ソリア?」
琉生も以前ディルアン事件の時に似たものを見た記憶がある。だが確信はなくソリアを見ると「ええ。闇の魔法石です」と小さな声ではあるが答えてくれた。それを聞いて皆も驚く。琉生ほどではなくとも掘りに来ていた他の精鋭騎士も魔力は少なく、今まで見たことのない闇の魔法石を見てもただ珍しい黒い石にしか見えなかった。だがソリアからすればかなり禍々しい気を発しているようだ。
琉生たちは場所をソリアに譲り、周りに気を配りながら調べる様子を見守った。
どうやら魔法石には何か印が書かれており、魔法石の周辺にはわかりにくいが魔法円が小さく魔力で描かれているようだった。ソリアが周辺を魔族に気づかれないよう用心深く魔力で確認すると、神殿を囲うようにして同じように魔法石がいくつも埋められているらしいことがわかった。
明らかによくないものを感じ、ソリアは描かれた魔法円などをすぐに他の魔術師たちと解読することになった。
それがわかるまでは下手に動けず待機となる。琉生はとりあえず光の神殿を眺めた。ここへ九歳の頃やってきて十年になるが、実は今まで見たことがなかった。
光の魔力を持つ者しか入れないとされる光の神殿。本来なら来年二十歳の誕生日を迎えた後、魔力の高まる満月の日にここへ来るはずだった。だが思わぬ事態となり、こうして目の当たりにしている。
光の、と言われるだけあって眩いほど金色か何かでピカピカ光っているような建物を琉生は想像していたが、実際の神殿は別に光っているわけでもなく、静かに厳かな様子でそこに建っていた。
ふと、琉生はモールザ王国がある方角を見つめる。
兄さんはどうしてるだろうか。多分俺は何も感じないし、無事だとは思うけど……心配だな。
神殿に着いて数時間後、ソリアが解読終了したと報告に来た。拠点のテントの中で説明を受けることになった。
ソリアがまず箱をテーブルに置いてきた。その中には保護魔法で覆われた黒い魔法石が入っている。
「まず、この石に書かれている印は、埋められていた周りにあった小さな魔法円と連動して動くよう書かれたものでした。また魔法円自体も闇魔法の能力で動く円のようです」
それは琉生たちも何となく予想がついた内容だった。だがその魔法円の能力について聞かされると「やっぱり」という思いはあるものの皆驚かされた。
「能力は破壊魔法です」
要は神殿周辺に強力な時限爆弾が仕込まれているようなものだなと琉生は体をふるりと震わせつつ「威力は?」と聞いた。
「詳しくはわかりませんが、かなり強いものだと思われます。これ一つでも相当な力を感じます。ですが神殿の周辺にはいくつもこれらが張り巡らされている。多分いくら光魔法で守られている神殿でもひとたまりもないでしょう。今はまだ魔族たちも集めている兵士がそろうのを待っている状態でしょうが、これがいつ作動するか……」
ただでさえ神殿は今一番力が弱っている時期だ、と皆顔を青ざめながら頷く。
「ただ、これらの装置をどうにかしたくとも、闇魔法は光魔法でしか対抗できません」
いくらソリアが強力な魔法を使える魔術師だといえども、どうしようもないということだ。また、ここにいる琉生こそ唯一光魔法を使えるが魔力量が人より少ないため、これに対抗すれば命に関わってしまうだろう。
「では、ずっと力を蓄えていた光の魔法石なら? 俺、念のためにと思って持ってきているんです。ずいぶん力は蓄えられています。これなら……」
「ありがたい話ですが……儀式のために蓄えているものだけに……」
渋るソリアに琉生は首を振った。
「魔法石に力を蓄えるのはまたがんばります。第一今はそんなこと、言っている場合ではないでしょう。あれが作動してしまえば蓄えている意味さえなくなる」




