突然デュエルディスク付けたやつが出てきて無茶苦茶していく話
や、やった……やってしまった。
閑静な住宅街にある部長宅、その客間。
高そうな絨毯の上に、頭から血を流して倒れる部長。俺がカッとなって灰皿で殴った跡だ。
しかしまだ息がある……やってしまったんだ。もう後には退けない。
心が狂気で支配される。そう俺は今、心神喪失状態なんだ。そうに違いないんだ!
追加で花瓶を手に取り、ガツンといく。部長は小さな声を上げて……死んだ。
「やったぞおおおおお!!!」
感情が高ぶりまくっているのがわかる。脳内麻薬がドバドバ出ている。
同時にやってしまったという不安感、焦燥感が駆け巡っているのもわかる。
むしろ脳内麻薬ナシならどうにかなっちまうくらいのものだ。
……煙草を蒸す。少しでも落ち着くためだ。
部長の奥さんは男遊びに出ているというのは、苛立っていた部長本人から聞いている。もうしばらくは帰ってこないはず。
俺がやったとバレれば駄目だ。物取りの犯行に見せるか奥さんとの口論の末と見せなければ……いや、両方の可能性を出してしまおう。
花瓶と灰皿を洗って念入りに拭き取り指紋を消す。
部長のスマホから俺を呼び出したときの通話履歴を消す。
家の中を物色し現金をいただき、窓ガラスにテープを貼った上で外側から割って……こんなものか。
サンデーでやってる死神みたいな探偵漫画読んでて良かったぜ。
あとは死亡推定時刻をごまかさないとな。
風呂場に持っていって冷水に漬けておこう。
服を脱ぎ、部長の頭にタオルを巻いて血が垂れたりついたりしないようにして風呂場へ運ぶ。
死後硬直のせいか固いし、ブクブク太ったその体も相まって重い。それに人間だったものを運んでいると思ったらかなり気分が悪くなる。吐きそうだ。
吐き気に耐えて部長を浴槽に突っ込んで水を張る。冷凍庫から氷も持ってきて入れる。
良いんじゃないだろうか? 後は俺が動いたところの髪を掃除して……フィニッシュだ!
やってきたことを見直す。
……完璧なんじゃないだろうか? いや、そういうのを見て実践に移しただけの素人目でではという前提はあるが……。
深呼吸してハイになりそうな気持ちを追いやる。俺は出来るはずだ。
ここへ来たと知っているのは誰でもない部長のみ。あの人は突発的に動く人だったから呼んだのも思いつきだっただろうからな。
となれば、あとは警戒して人目につかないように出ていくだけ。
問題なく出れた。誰にも見られていないはず。あとは祈るだけだ。
そう思っていたんだが……。
「あっ!風でカードが」
妙に説明口調な少年の声。
振り返ると、紅葉のようなヘアスタイルでカラフルな頭をしたでかいチェーンネックレスをして腕に何かごついブレード状の何かをくっつけた学生……これ学生か? わからん。とにかくそんなやつが居た。
そいつの視線の先を追うと、結構な枚数のカードが風に吹かれ、よりにもよって部長宅の方に飛んでいく。勿論、庭の方へも……。
勘弁してくれ。そこは偽装工作で窓ガラスを割っているんだ。
俺が出てきたところは見られていないにしても今バレると俺のアリバイとか……いやもうクソ、だからって顔も出せない!
……帰るしかない。
出来ることは本当にうまくいくように祈るだけ……それはもう念入りに祈ろう。五体投地とかするレベルで祈ろう。
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決闘を終えた帰り道。カードが飛ばされた先の家。
チャイムを押しても誰も出なかったから、申し訳ないが勝手に入らせてもらったが、窓ガラスが割れていた。
フフ。ヤバい匂いがするぜ☆
カードも全て見つかったから、お邪魔させてもらおうか。
好奇心で入ると、いの一番に血がべっとりついた絨毯があった。真新しいな。
そこから引きずった跡が続いていて、先は風呂場だった。
開けると、浴槽に丸々と肥え太った豚のような男の死体。
死んでからそんなに時間は経っていない……良いタイミングだったな。
ヤツから譲り受けた、さらなる進化を遂げたというデュエルディスクを起動。
そして、必要としている今、俺はその運命のカードを手繰り寄せることが出来る!
「ドロー! 手札から魔法カードをセット! 死者蘇生!」
デュエルディスクにセットされたカードが実体化し……。
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アパートに帰ると、玄関前に警察が待っていた。
どういう……どういう……事だ………………どういう事だ!?
頭が追いつかないまま警察に接触する。
聞けば、殺したはずの部長本人からの通報で俺が犯人と聞いてきたんだとか……どういう事だ!?
ただ、もっと聞けばカードで復活したとかという錯乱? も見られるらしいので逮捕というよりは事情聴取をということだった。
なるほど? 復活? カードで?
……カード……あの一度見たら絶対忘れられないような見た目をした少年か!?
何があったかまではわからないが、その少年が何かをやったのだろう。
何やったんだよわかんねえよ。
その場で色々言っていると、少ししてから高そうな車に乗って部長がやってきた。例の少年も居る。
マジで生きてるのかよ。どういう事だよ。
部長は悪鬼羅刹のような表情でドカドカとやってきて、俺はそのまま殴り飛ばされた。
「よくも殺してくれたな! キサマはクビだ! いや、クビすらも生ぬるい! 死ね! 今死ね! すぐ死ね! ギャハハハ!」
倒れた俺を蹴る。蹴る。蹴る。
部長が警察に止められたのは俺の歯が欠けてからだった。血の味がする。
「おいオッサンさん、それはちょっとやりすぎじゃねえか」
少年がしゃしゃり出てきた。
相手こんなんだけど君、敬語とかさ。
「どうやら真の悪人はオマエの方だったようだな……罰ゲーム☆」
少年が部長に指を指して言い放った直後、部長は顔面蒼白になって「すみませんでした社長」と土下座をしだした。
何かわからんが、少年が何かをやったというのはわかった。
そして少年は「会社員だろうと、ルールを守って楽しくやるもんだぜ。ゲームと同じでな」と、捨て台詞を吐いて去っていった。
何だアイツ……。
俺は開放された。
殺害未遂というのは部長の虚言ということになったらしい。殴られた痕も無かったし証拠不十分ということもあった。
……どういう事だ。
ともあれ、日常が戻った。
俺は少年の事を少し調べ、大手トレーディングカードゲーム開発会社に転職した。
社員は一部を除いて皆角刈りサングラスにしなければいけないという変なルールがあったが、俺の運命を切り開いてくれたカードとその周辺危機を作る会社だ。誠心誠意働こうと思う。