第25話 サンディの破壊力
「ざまあみろ。」
ゴーダの笑い声に、ゴーダの仲間たちが一緒になって恭司を嘲り笑う。山小屋の窓から外を覗いていたサンディの、悲鳴のような絶叫が聞こえた。
俺は走りながらレベル5水魔法を放とうとした。──次の瞬間。
恭司の体が黄色い炎に包まれて、一気に燃え広がる。炎は天高く舞い上がり、1つの形となった。
不死鳥。フェニックス。炎属性と雷属性を持つ、幻獣とも神獣とも悪魔とも言われる存在。四神の朱雀とも言われる。
その特徴は、寿命を迎えると自ら炎に飛び込み、一度死ぬが、何度でも蘇ると言われる、不死の象徴。
恭司の体は、正にそのフェニックスそのものの見た目となっていた。長い尾。鋭い嘴。黄色い炎が揺らめいているかのような羽。
先程までの愛らしいフクロウの面影はどこにもなかった。不死鳥の羽は成人男性の手の長さよりも大きいと言うから、あのサイズは本当に幼体なのだろう。
それでもユニフェイくらいのサイズ感はある巨大な火の鳥が、突如として頭上に現れたことに、ゴーダたちは誰もが息を飲んだ。
恭司が翼を羽ばたかせ、全体魔法攻撃を放つ。黄色い炎のような、舞い散る雷のような、鋭い矢が一斉に頭上からゴーダたちに降り注いだ。
「うわあ!!」
「な、んだ……?」
パラライザー……!!
恭司が放った魔法は麻痺攻撃だった。魔法をくらったゴーダたちは、もれなく縫い止められたように身動きが取れなくなる。
その上で恭司は口から巨大な発光する炎の塊を吐いた。
ビックバンフレア。レベル7の火魔法で、拡散する球体は、まるで太陽が破裂したかのように、その場のすべてを焼き尽くす。
痺れているゴーダたちは、誰も相殺緩和の為に魔法を放つことが出来ない。
恭司は本当にゴーダたちを殺す気でいた。
「駄目だ恭司!サンディが見てる前で、人殺しなんかするんじゃねえ!!!」
恭司がハッとしたように体をビクつかせる。だがビックバンフレアは既に放たれていた。
俺は恭司の為に準備していたレベル5水魔法を、ビックバンフレアめがけて放った。
弱点属性で2割増しとなった俺の水魔法が、恭司の放ったビックバンフレアを包み込み、蒸発しながら炎を小さくさせる。
それでも相殺しきれずに拡散されたビックバンフレアが、ゴーダたちを襲い、気絶したゴーダたちは、体を痺れさせたまま、その場にバタバタと倒れた。
「お前……やり過ぎだっての。」
地上に舞い降りて来た恭司に、俺は呆れた顔で言った。
「すまん……我を見失った。」
まあ気持ちはわかるけどよ?
「そうだ、サンディ?
──サンディ!!」
恭司は割れた窓からこちらを覗いているサンディの前に降り立つ。
「キョーちゃん……なの?」
サンディは不思議そうに恭司を見ていた。柔らかな光が拡散し、それが消えた時、窓際にちょこんと、いつものフクロウ姿の恭司がとまっていた。
俺はドアを開けて山小屋の中に入り、ユニフェイと恭司もそれに続いた。
「うっ……?」
俺は思わず腕で顔を隠しつつも、上からちらりとサンディを見ずにはいられなかった。
一糸まとわぬ姿で、紐付きのヒールだけを履いたサンディが窓辺に立っていた。
サンディは慌てて机の上に脱ぎ散らかした服を取りに走る。走るだけでプルンプルンのたゆんたゆんが、いつも以上にまあ、揺れる揺れる。
「見てんじゃねーよ匡宏!」
恭司は精一杯小さな翼を広げて羽ばたきながら、よつん這いになって机の上の服を取る、サンディの大事なところを隠そうとする。
いや、お前それ、隠したほうが逆にエッチだからな?
「キョーちゃん。……助けに来てくれたんだね?
ほんとに、ほんとに怖かったんだよ?
でも、キョーちゃんが来てくれて嬉しかった。
私、キョーちゃんなら、……あげてもいいなあ、って思っちゃった。」
サンディが机の上に腰掛け、手で大事なところを隠しながら、身をよじって恥しそうに言う。裸にハイヒールだけの姿でそんなことをされたら、男からしたら、今すぐ私を全部食べて?と言われてるも同然だ。
当然恭司は大興奮し、サンディに飛びかかろうとした。
「サンディ!俺のサンディ!!」
「お、ち、つけ、恭司。お前その姿で何する気だ。」
コイツのどこにそんな力があるんだ?俺が恭司を引きずってサンディから引き剥がそうとするも、恭司は同じだけの力で俺を引きずる。
「離せ匡宏!カリカリするとかグリグリするとか、幾らでもやり方はあるだろ!
サンディが望むなら、頭から飛び込んででも、俺はサンディを満足、さ、せ、るうぅ〜〜!!!」
「や、め、ろおぉ〜〜。
それ自力で出てこれなくなるじゃねーか。
そんな世界一間抜けな腹上死で、親友を失ってた、ま、る、もん、か〜〜……!」
攻防を続ける俺と恭司を、サンディはキョトンとしながら眺めていた。
「すまん……我を見失った。」
まあ気持ちはわかるけどな……。
俺たちは役人にゴーダたちを引き渡し、サンディを家まで送り届けた。
ナンボしゃぶしゃぶ屋の女将さんは、俺たちがサンディを連れて帰ったことに、物凄く感謝をしてくれた。
何か礼がしたいと言うので、俺は船について相談してみることにした。
それなら、と、上級役人をしているサンディの父親を連れて来た。
女将さんは、俺たちがゴーダたちを倒したこと、サンディを助けた事などを話した。
サンディの父親は、初めはびっくりし、次は怒りで顔が真っ赤になった。随分はっきりと顔に出る人だ。
こんなんで国の宰相と国民の間に立たされて調整役をしなくちゃならない、上級役人なんて出来んのかな?
「そういうことなら、今度魔物討伐の船が出るから、それに乗ってみるかい?
もし魔物が倒せたら、そのままニナンガに行くよう、取り計らってあげるよ。」
「本当ですか!?」
「もちろん、討伐に加わって貰うことになるけれど、君なら大丈夫だろう。」
渡りに船とはこの事だ。俺は有り難く引き受けることにした。
出発の日の朝になり、俺はユニフェイを従えて、魔物討伐船に乗り込んだ。
「──お前!?何してんだよ。」
昨日挨拶して別れた筈の恭司が、ちゃっかり船に乗り込み、船のへりにとまっている。
「ニナンガで目的を果たしたら、江野沢を探すんだろ?俺も付き合ってやるよ。」
「……サンディはいいのか?」
「ああ……。」
恭司は船の上から街を眺める。
どうしようもないことが、この世には存在する。それを恭司は、誰よりも分かっているのだろう。
多分、そうなんだろうけど。
お前、本気であの子が好きだったのか?
なんて、男同士の間で聞くのは野暮だった。
「それにまた、俺がお前の手を借りるかもしんねーしな。
本気で悩んで、困った時は、──お前に助けて貰うからよ。」
振り返るフクロウの顔に、恭司の顔が重なる。
「──ああ、もちろんだぜ。」
船はゆっくりと港を離れていく。
塩を含んだ爽やかな風が、俺たち二人の頬を撫でた。
書き始めてから今日で6日目。
日に日にたくさんの方に反応いただき、
感謝しきりです。
たくさんの作品がある中で、
目をとめて読んでいただき、
本当にありがとうございます。
皆様の期待を裏切らない、
期待を超える作品になっていますでしょうか?
楽しんでいただけたなら幸いです。
ストックがないので、いつ毎日更新が
途切れるか不安にもなりますが、
精一杯頑張りたいと思います。




