第15話 火魔法使いのガッツ
「祭司様、私、自分のスキルを変更したいなんて言ってません!」
ミンティは目をウルウルさせながら祭司を睨む。
「えっ、ええっ?でもあの時あなたは確かに……。」
「祭司様全然分かってない!
失礼します!」
ミンティはそう言って教会を飛び出して行ってしまった。で、祭司の目的が果たされない場合、俺ここに泊まれんのか?
「すみません、お見苦しいところを……。」
祭司は咳払いをすると、「では、お部屋にご案内しますね。」
と、歩き出そうとする。
「あ、すみません、実は連れがいまして……。」
「連れ?」
俺は教会の外で大人しく待っているユニフェイを、握った拳の親指だけ立てて、クイッと指し示した。一見犬でもユニフェイは魔物だ。魔物は教会の中に入れないのだ。
「ああ、あなたはテイマーでしたか。
問題ありませんよ。お客様を迎える際の部屋は教会の近くの別棟です。
すみませんが、ここは宿とは違いますので、室内に入られる際、テイムしている魔物の足だけは拭いていただきますよう、お願い致します。拭くものはお持ちしますので。」
「分かりました。」
冒険者を迎える宿は基本土足なので、テイムした魔物もそのまま上がる事が出来る。
俺は祭司に連れられて、別棟に案内された。
「こちらの部屋を使って下さい。」
俺が入口にユニフェイを待たせ、祭司に案内された部屋は、冒険者用の宿よりよっぽど豪華な部屋だった。
冒険者用の宿が民宿なら、ここは普通のホテル。品のいい調度品、ふかふかのベッドの他に、ソファまである。
「いいんですか?」
「お客様をお迎えする際は基本こちらの部屋を使います。あなたは正式なお客様ですから。」
ラグナスの遣いというのは、教会にとってそういうことらしい。馬車に乗れさえすればいいと思っていたが、これは棚ぼただ。
「お風呂はそこを出て右です。
申し訳ありませんが、テイムした魔物を入れるのだけはご遠慮下さい。
お食事は我々と同じ物になりますが、よろしいですか?」
まったくもってよろしいです。
俺は祭司が持って来てくれたバケツと布でユニフェイの足を拭き、部屋に入ってベッドに身を投げ出した。
「うわ〜やらけえ〜。」
冒険者用の宿のベッドは基本硬い。朝起きると必ず体が痛くなるのだが、これならいい目覚めが期待出来そうだ。このままうっかり寝そうになる。
俺はガバッと体を起こして、ユニフェイを連れて再び冒険者ギルドへ向かった。
冒険者ギルドは今だごった返していた。俺がここに来た目的はパーティーに入る為だ。ダンジョンだけは最低4人以上でないと入れないという決まりがあるらしい。
レベル5の魔法を使うというネクロマンサーがすぐに倒せるとは思わないが、まずはどんなものか確認し、ダンジョンの中も調べなくてはならない。
人々の中で一際体格のいい男が中央で叫んでいる。頭一つ飛び出ているので相当デカい。
「──回復魔法レベル3以上の奴はいないか?こちらは火魔法レベル3と剣士とタンクだ!」
悪くないな。
回復持ちはいたら有り難いが、いなくても火力があれば攻略可能だ。ただし敵のレベルが上がるに連れて、いないと即パーティーが全滅することもある。
俺は様子を見ていたが、名乗りを上げる奴はいない。魔法使いの中で、最も多いのが火魔法使い、最も少ないのが聖魔法使い、次に回復魔法使い、次いで土魔法使いだ。
その為これだけの人数がいても、一人もいなくても不思議ではない。
だが回復魔法はレベル5以上でないと、遠距離に魔法がかけられないので、初心者ばかりのパーティーでもない限りお呼びがない。
回復の為に回復魔法使いが前に出たり、怪我を負った者が魔物に背中を向けて仲間のところに戻るのが危険だからだ。
「なぜ回復魔法使いを?レベル3なんて、わざわざ探すの見たことないですけど。」
俺は近くにいた奴にそれとなく話しかける。
「中はアンデットだらけらしいんだ。
魔法使いは火魔法か回復しかお呼びじゃないだとさ。聖属性なんて探したところでいるわけもねえしな。」
アンデットは主に闇属性か、たまに土属性だ。弱点は火属性か聖属性、ただし回復魔法も効果がある。
他の属性は火力次第で効かなくもないが、当然ダメージは落ちる。このエリアにいるレベルの魔法使いでは、レベル1か2のダメージしか与えられない事になる。
それでこんな時間にも関わらず、ダンジョンにも行かずウロウロしてたのか。普通ならとっくにパーティーを組んでダンジョンに挑むところだ。
アンデットはそれ自体がレベルの高い魔物だ。元からパーティーならいざ知らず、1人2人で来ても、組んでくれる相手が見つからないのだろう。
つまりここにいるのは、あぶれたそれ以外の魔法使い達と言う事だ。俺はまとめて投網を投げて、根こそぎ魔法スキルを奪いたい衝動にかられた。
いかんいかん、今はまだ、その時期じゃない。
「あの……俺、回復魔法レベル3です。」
俺はおずおずと遠慮がちに手を上げてみる。高レベルダンジョンにレベル3の回復魔法なんて普通呼ばれないですよねー、お荷物なの分かってますー、という空気を出しながら。
「うん?君はテイマーじゃないのか?」
俺の横のユニフェイを見ながら、頭一つ飛び出た男の横の、盾を持った男が聞く。
「はい、でも、レベル3の回復魔法も持ってます。」
レベル2だが威力はレベル3以上なのだから嘘は言っていない。
「──あと、アイテムボックスレベル5も持ってます。」
「5!?」
「5だと!?」
周囲がざわつく。ダンジョンは深くなればなる程、戻るのが難しい。いかにたくさんの食料品やアイテムを持ち込めるかが生存の鍵となる。
その為レベルが高く稼げるパーティーでは、専門にポーターを雇う程だ。レベル5のアイテムボックス持ち。これは特に入場人数制限のあるダンジョンだと、かなり魅力のあるスキルとなる。
これが俺のダンジョンパーティー参加への切り札のつもりだったが、回復魔法だけでもいけたかも知れない。
「……君自身のレベルは?」
剣を携えた男が訪ねてくる。
「19です。」
「なら体力も防御力もそこそこあるな。
魔法使いじゃなくテイマーだってのがいい。その分丈夫そうだ。
俺はレベル27の火魔法使いのガッツだ。」
──お前が火魔法使いなのかよ!
一番デカくてゴツい男が火魔法使いな事実に俺は脱力した。
一般的に魔法使いや遠距離スキルを付与された人間は、防御や体力が近接職より弱く成長する。……なのにコイツは何のバグなんだ?
「アイテムボックスレベル5というのは本当か?」
「はい、試してみますか?」
「いや、構わない。実際に入れてみれば分かることだからな。
では出立は明日だ。ダンジョンに潜る用の準備を、君も揃えておいてくれ。」
「分かりました。」
俺は明日冒険者ギルドで待ち合わせる事にし、ランプの燃料や追加の水と食料などを買い込み、教会の脇の別棟に戻った。
ベッドに横になると、ユニフェイがベッドに潜り込んで来る。いつもの事だが、今日はソファがあるのでそちらで悠々と寝かせようと思っていたのだが。
「……なんだよ、しょうがないな、甘えんぼめ。」
俺は笑いながらユニフェイの頭を撫でる。
明日は初のダンジョンだ。気を引き締めていこう。
ひらがなの部分を一部漢字に変換しました。
「」漏れの指摘部分を変更しました。




