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スキルロバリー〜スキルなし判定されて異世界で放り出された俺が、ユニークスキル「スキル強奪」で闇社会の覇王となるまで〜  作者: 陰陽
第五部・聖女殺しの殺人祭司編

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第148話 そして寝た子は起こされた

「まだそんなことを言っているのね。私と彼の絆の糸?そのうち切れるわ。彼は私に興味がないから。……私が諦めたら、そこで終わる関係だもの。絆が切れるのをわざわざ待たなくとも、それはいずれ切れるものよ。」

 マリィさんはため息をつきながらそう言った。リンゼは窓縁から降りて、マリィさんに近付きつつ、ニヤリと笑う。


「いつそうなるのかわからないのを待つよりもぉ、この手で絆の糸を切ってぇ、君を手に入れるよぉ。僕はそう、気が長いほうじゃないからねぇ。だから迎えに来たんだよぉ?」

「……たとえ彼と縁が切れても、あなたのものにはならないわ。私は私だけのものよ。」

「僕のものになればぁ、そんな気持ちはすぐにどこかに行くよぉ。僕のことしか見えなくなるんだ。……君が彼を想う気持ちと同じくらいにね。すぐにそうならせてあげるよぉ!」


 リンゼがいくつもの糸を繰り出し、マリィさんを襲う。マリィさんは素早くそれを身体強化で次々にかわしてみせた。

「──来るとわかっていれば、そうそうやられないわ!足元の水たまりから不意をついた時と、同じようになるとは思わないで!」

「……まあ、君を捕まえるのはぁ、そう簡単じゃないとは思っているよぉ。

 なにせ君は強いからねぇ。だから前回は特別な方法を使ったんだからねぇ。」


「水の中を渡る力?──それとも空間を操る力かしら。あまり聞いたことのないスキルだけれど、そう考えれば説明がつくわ。水たまりの中から私をさらったんだもの。」

「パチパチパチィ〜。ご明答〜。そうだよ、空間を操るスキルさ。君の足元の水たまりを別の空間とつなげたんだよぉ。あれは苦労したねえ。そういうスキルを持っているとはいえ、簡単じゃあなかったからねぇ。」


「……ここには水たまりも鏡もないわよ。」

「そういうものがなければぁ、空間をつなげられないわけじゃあないよぉ?

 試してみるぅ?」

 リンゼがニヤリと笑ってみせる。

「……それは彼が許さないわ。」

「──そういうことだ。俺のモンに何度も手を出そうとは、随分といい度胸だな。」

 マリィさんを後ろから抱きかかえるようにして、エンリツィオが姿を現した。


 “運命の絆”は、絆の対象の存在がどこにいるのかがわかる。エンリツィオが近付いて来ていたのに、マリィさんは気が付いていた。

「……やれやれ。君の運命の絆の相手が来るのは面倒だねぇ。王宮の魔道具で防げる魔法は現代魔法だけだからねぇ。彼の魔族の魔法と古代魔法は防ぎようがないからなぁ。仕方がないなぁ。また出直すとするよぉ。」


 リンゼはそう言うと、鉄の鳥かごを出し、そこからレイラを取り出すと、

「レイラ!空間をつなげて!」

 と命令した。空中が歪み、裂け目のようになったところに、リンゼが片足をかける。

「またねぇ。僕の新しい“運命の絆”。」

 そう言って、裂け目の中に姿を消した。


「……ありがとうございました。」

 マリィさんが、自分を抱きしめたままのエンリツィオにお礼を言った。俺は戻って来ない2人の様子を見に来たんだけど、なんだかイチャついてる風だったので、隠密と消音行動で姿を消して、そのまま様子を伺うことにした。なんかおっぱじまるかも知れんし。

「あ、あの……。」

「──ん?」


「何でしょうか……。」

 抱きしめたまま、離そうとしないエンリツィオに、マリィさんが訝しげにそう尋ねる。

「オマエに礼をしねえとと思ってな。」

 そう言いながらマリィさんを抱いたまま、窓際の壁の端に追い詰めるエンリツィオ。

「お礼……?」

 開いた窓から少し上半身を出しながら、抱きしめているエンリツィオを振り返る。

「ピアノ。合わせてくれて助かった。」


「ああ……。あれは私も久々で楽しかったので、お礼をしていただかなくても……。」

「なんでもいいぜ?言ってみな。

 オマエの望みをかなえてやるよ。」

「なんでも……?」

 マリィさんは、艶っぽく目を細めて自分を見ているエンリツィオに、ちょっと逡巡したあと、言い淀んだように口元を拳で隠しながら、モジモジと目線をそらす。


「ええと……。」

 上半身をひねって、エンリツィオの方を向きながら、マリィさんはエンリツィオを見たけれど、すぐにまた目線を落とす。

「なんだよ、言いにくいことか?」

「変なことを、言ってもよろしければ……。」

「なんだ、言ってみろ。」

「歯を……。」

「──歯?」

「犬歯を触ってみたいなと……。」


 まさかそんな要求をされるとは思っていなかったのか、さすがのエンリツィオもキョトンとしている。エンリツィオは長い犬歯が特徴的で、口を開けるとそれが見えるんだ。

「あ、あの、その……、忘れて下さい。」

「……別に構わねえが、オマエはなんでそんなことがしてえんだ?」

「……あなたが笑う時に、ちょっと長めの犬歯が、いつも見えるのが気になってて……。」

 赤面したまま目線をそらすマリィさん。


「ふうん?まあ、それがオマエの望みなら構わねえよ。……面白い女だな。」

 エンリツィオは面白そうに笑ったあと、マリィさんの手を取って、目を伏せながらその指先を犬歯に触れさせる。マリィさんはされるがままになって、真っ赤になっていた。

 そのままカリッと指先を甘噛みされて、マリィさんが慌てて手を引っ込めた。

 エンリツィオがその手を捕まえる。


「……俺が、好きでもねえ女に、こんなことさせると思うか?マリィ。」

 エンリツィオは少しずつ、マリィさんを抱きしめる腕に力を込めて、耳元で囁く。

「……オマエがいればいつでも眠れる。

 これはアイツにだって無理だったことだ。

 ──俺と一緒に寝てくれ、マリィ。」

 マリィさんの耳元で囁くエンリツィオのマリィさんの手を掴んだその手を、恐らく王女の部屋から戻って来ない俺たちの様子を見に駆けつけたのだろう、アシルさんが掴んだ。


「はーい、そこまでそこまで。王女さまたちから呼ばれてるから、さっさと行こうね?」

 アシルさんに引きずられてエンリツィオが引き剥がされたあと、マリィさんは真っ赤になって耳元を押さえて俯いていた。

 マリィさん、口説きモードのエンリツィオとは、初対面なんだろうなあ。

「マリィさん、戻りましょう?」

 俺は隠密を解いて姿を現して言った。

「あ、はい、そうですね……。」

 マリィさんを連れて王女の部屋に戻る。


 そこで再びしばらく猫と戯れたあとで、2組の奴らやアスタロト王子たちのいる、大広間に再び戻ることになった。俺とあんまり絡めなかったことを、メルティーナさまに残念がられながら。……なんだかなあ、もう。

「アスタロト王子〜!」

 大広間に戻ると、アスタロト王子が2組の女子や、着飾ったこの国の貴族の若い女の子たちに囲まれて、楽しそうに喋っていた。


 なんだよ、大人気じゃんか、あいつ。

 ──恭司と同じ顔のクセして。

 恭司はイケメンなのに、学年中の女子に人気がないからな。恭司の性格を知らない他学年の女子からは、多少人気があるんだが。

 だいぶ砕けた雰囲気になったのか、開かれた窓のへりに腰掛けて、曲げてへりに載せた左足の、足首に手をついてニッカと笑っている。それを見た恭司がふるふると震えだす。


「……なんで俺と同じ顔の癖して、あいつは女どもからチヤホヤされてんだ。」

「女の子にセクハラしねーからじゃねーか?

 ──お前と違って。」

 俺はジト目でアスタロト王子を見ながら言った。人気があるのはなんかムカつく。

 女に興味はなくても、王族だけに、礼儀正しくて女性に対して紳士だからな。オマケに恭司と同じで気さくで人懐っこくて、顔だけはカッコ可愛い系のイケメンなのである。


 女に興味がないからこそ、逆に10代の女の子からすると、エッチな目で見てこない、爽やかでカッコいい男に見えてるんだろう。

 男からすると、女に必死な恭司の方が自然に見えるし、爽やかな男より、全力で女を欲してくる、エッチな男が好きな年齢の女性からは、大人気なんだけどな、恭司も。

「この国では、アスタロト王子の絵姿がついた土産物が、チムチから大量に持ち込まれてまして。若い女の子を中心に大人気なんですよ。ご存じないと思いますが。」

 とアダムさんが教えてくれた。


「てことは、同じ顔が存在出来る世界だったら、俺はこの世界じゃモテモテってことなのか!?ちっくしょ〜アスタロトの野郎、可愛い女の子たちに囲まれやがって……。」

「そうなんじゃねえの?てかお前、顔はいいんだから、それでモテないのがヤベーだろ。

 入学した当初は中学の時も高校の時も騒がれてたじゃねえか。お前の実体が知れるまでは。ストリーキングで走り回るからだろ。」


「俺は何も隠さねえし、誤魔化さねえ!」

 恭司がドヤ顔でそう宣言する。カッコいいんだか悪いんだかわからねえ奴だな。

 最後のトドメはサンディだった。

「キョーちゃああん!」

「サンディ!来てたのか!」

 上級役人の娘であるサンディも、王太子選定の儀に呼ばれていたらしい。恭司を見つけて駆け寄ってきて──そのまますっ転んだ。たゆんたゆんのオッパイが激しく揺れる。


「あっ!」

 転んだサンディの鞄から転がり出たコンパクトの蓋に、しっかりと描かれたアスタロト王子の姿。サンディ……お前もか……。

「サ、サンディ、それって……。」

「え?あ、その……。カッコいいなって……。

 でも、キョーちゃんが一番だよ?」

 サンディは申し訳なさそうに微笑んだが、恭司はそれを見て、まるで死にかけの蝶々のように、ヨロヨロと羽ばたいたかと思うと、そのままポトリと地面に落ちた。


「キョーちゃん!?」

「恭司!?」

 俺は恭司を手のひらに乗せる。

「あいつは好きだし、この世界じゃ同じ姿の人間がいたら死んじまうってんだから、俺がいることで死んで欲しかぁねえけどよ……。

 返せ!戻せ!俺の体ぁああああ!!」

 翼で俺の手のひらを叩いて号泣してるし。


 まあ、そりゃそうだよなあ……。

 本来の自分の姿を、大好きな女の子がカッコいいって言ってくれてるのに、それを見せることが出来ねえんだから。

 俺だって、俺のほうが魔物で、江野沢が人間で、俺に似た別人の写真を江野沢が大事そうに眺めてたら、正直死にたい。


「お前らはアスタロト王子に興味ねえのな。

 恭司と同じ顔だからか?」

 俺らとWデートした時も俺と恭司が絡んでる姿を見たかっただけで、恭司そのものには興味のなかったアナグラムスの2人に話しかける。騒いでいる他の2組の女子たちを遠巻きに見るように、離れた場所にいたからだ。


「うーん、国峰君のとこの、国王さまのほうがカッコいいかも?次の本の題材にするのに観察してるところなんだあ。えへへ〜。」

「ああ〜……。うちの国王な。確かにお前らはハマるかもな。てか、絶倫巨根なガチムチイケメンによる、激重な溺愛連続責めが好きなヤツなら、あいつにハマれんじゃね?

 あいつ全部の女の愛人と手を切って、男の恋人に一途になってたしな。」

 エンリツィオを見る限りそういう奴だし。


「え!?男性と付き合ってたの?」

「どんな人!?」

「俺が知った時には相手の人はもう死んでたから、どんな人かまではわからんけど、年上の日本人だって話だよ。相手の男にスゲ~一途で、イチャイチャしてたんだとさ。」

「なにそれ、たぎる!!」

「ヤバい!今すぐ描きたいよぉ〜!」

 アナグラムスのテンションが上がったかと思えば、すっかり蕩けたメス顔をしていた。


「うちもなにか名産品や名物が欲しいところですね。国力を上げるのにつながります。崖の上にある為、農産物が弱いので……。そこから生み出される何かは期待出来ませんし。」

 とアダムさんが言った。

「そうですね、()()の為にも、いつまでも下のほうに位置づけられているわけにはいかないでしょう。輸出可能な名産品の作成は、国の事業として急務と言えますね。」

 とカールさんも言う。


「──サロン・デュ・ショコラでもやる?

 君がチョコレートが出せるわけだし、これほど人を呼べるものもないよね。」

 とアシルさんが嬉しそうに言った。

「ああ、あれか。フランスじゃ10万人規模が集まるお祭りだ。確かに悪かねえが、ショコラティエがいるわけじゃねえから、どうしたって規模が小さくなるぜ?あるものを取り寄せて、販売するってだけになるしな。」

 とエンリツィオが言う。


「海外のショコラティエを直接呼んで、チョコを直接販売するってイベントだよな?

 日本でも年に1回くらいやってるな。デパートでやってたそれに、江野沢がうちの母ちゃんと、わざわざ東京まで行って、大量にチョコレート買って来たことがあるわ。」

「へー、君のお母さんと?仲いいね?」

 アシルさんがニコニコとそう言った。なんかさっきからこの話題嬉しそうだな。


 その時はバレンタインだったので、俺にくれるチョコを選びに母と行ってきたらしい。

 手作りでないのはちょっぴりガッカリしたけど、確かにめちゃくちゃ美味かった。

「元々はフランスの発祥なんだよ。」

 とアシルさんが教えてくれる。

「へー。」

「サロン・デュ・ショコラはチョコレートの博覧会みたいなものでね。珍しいチョコレートがたくさん見られるし、直接買えるイベントなんだよ。他の国だと、たくさんのチョコレートブランドがフランス以外からもやってきて、ここぞとばかりにイチオシのチョコレートを並べることが多いんじゃないかな。」


「確かに、チョコレートは老若男女が好きなものだし、結構日持ちもするし、見た目もキレイで、たくさん集まってればテンションも上がるものだよな。俺でも割と楽しいし。確かに特産物としていいかも知れねえな。」

 と恭司が賛同する。

「でも俺、常温でチョコ食べると気持ち悪くなるから、冷凍しないと量が食べられないんだよなあ。嫌いじゃないんだけど……。」

 と俺が言うと、

「確かに冷凍した板チョコと牛乳の組み合わせは最強だよな。あれはウマイ。」

 と目を細めつつ恭司が同調した。


「──は?」

 アシルさんが急に冷たい表情になる。

「どうして?冷凍なんてしたら、ブルーミング現象がおきちゃうじゃない。」

「ブル……は?なんすか?それ。」

 聞いたことない現象なんだが。

「チョコレートの上が白くなるでしょ?

 香りも楽しめなくなるでしょ?」

「でも冷やして固めると美味い……。」

「──は?」

 アシルさんが真顔で詰め寄って来る。


「こ……怖いよう。」

 俺と恭司がプルプル震える。

「あー、気にすんな。ソイツ、ちょっとチョコレートにだけはウルセエだけだから。」

 とエンリツィオが言った。

「美味しいものは、正しく美味しく食べられるやり方で食べて欲しいでしょう?」

「コイツん家、代々ショコラティエやってんだよ。だからチョコレートに詳しいんだ。」

「へー!アシルさんも作れるんですか?」

「うちは姉が継いだからね。作れるわけじゃないけど、でも、僕も少しは分かるよ?」


「へ〜!それは知りませんでした。」

「チョコレートは美味しく食べる為の食べ方がキマっているものだからね。これからは2度と、凍らせて食べるなんて言わないでね。

 ──僕が絶対許さないからね。」

 冷たい笑顔で微笑むアシルさん。意外な一面だな、こんなにチョコレートの食べ方に厳しい人だったとは……。

「は、はい……。」

 ウマイのになあ……。まあ冷凍庫がないからな、こっそり食べようにも無理だけどさ。


「あーあ。こんな世界にいなかったら、カールに僕の娘と結婚してもらって、将来家を継いで欲しかったのになあ。残念だよ。」

 とアシルさんが言った。アシルさんの娘って、カールさんと親子以上に年齢違うじゃんか。いいんかそれで。カールさん、アシルさんより年上だろ。確かにこの見た目なら、年取っても釣り合わないことはないだろうけどさ。普通ここまでの年の差ですすめるかね?


「……それは困りますね、私、カールさんと将来結婚の約束をしているので。」

「え!?マリィさんがですか!?」

 エンリツィオがそれを聞いて目を丸くしている。アダムさんまで驚愕の表情だ。

「そうですね。歳を取ってこのままじゃいよいよ孤独死するかなって思った時に、お互い独身だったら結婚して欲しいなって思うのは彼ですね。だから以前そう約束しました。」


 ──結婚!マリィさんの口からそんな言葉が出るとは。エンリツィオにしか興味ないと思ってたのに。……まあ、老後とか言ってるから、今すぐしたいと思ってるわけじゃあないんだろうけど。それにしてもカールさんねえ。意外な人選だな。カールさんてあんなにカッコよくてモテるのに、女の影がまったくない人なんだよな。興味薄いというか。男性が好きなわけじゃないんだろうけど、女性にも興味ないんだろうなっていう感じがする。


「……そうですね、マリィさんとは、俺が将来ずっと独身を貫いていた場合の為に、結婚の約束をしているので、俺がもし結婚することがあるとすればマリィさんですね。」

 あっさりとカールさんがそう言う。

 意外な伏兵キタコレ。

 エンリツィオ、アシルさん、アダムさんの3人が、それを聞いて目をむいている。

「ええ!?マリィさん、アシュレイさんじゃないんですか?すっげえ意外。」

 あんなに親しげだったのになあ。


「はい、お互いに独身で年をとって、いよいよ孤独死するんじゃないかなって思う日がきたら、良かったら私と結婚しませんか?と聞いたら、うなずいて下さったので。」

「あー、そういうやつね。」

 と恭司が頷く。

「マリィさんとは、お互いまるでタイプじゃないので、信頼関係で結ばれたパートナーになれると思ったんですよね。

 俺は恋愛感情で付き合おうと言われるよりも、そういうほうが信用出来るので。」

 なるほど、そういう考え方なのか。


 しかしとんでもねえ美男美女同士が、なんかスゲー贅沢なこと言ってますけど。てか、カールさんのタイプってどんな人なんだろ。

「ええー?困るよ、カールには将来うちのアリスを貰って貰うつもりでいたのに。」

「それ自体は大変光栄な話です。

 でも俺はアシルさんよりも年上ですし、アリスちゃんの気持ちもあると思うので。」

 アシルさんの言葉に真顔でカールさんがそう言った。アシルさん、カールさんに全幅の信頼を置いてんなあ。


「でも初めて会った時から見た目がまるで変わらないし、アリスが大人になれば、釣り合うと思うんだよねえ。」

 と、まだ残念そうにそう言っている。

 確かに。年取ったカールさんて想像がつかんな。カールおじさんの概念が変わるわ。

「確かに、私もカールなら構わないと思っているわ。アリスも懐いているしね。」

 なんてエリスさんまでもがそう言った。

 カールさんが結婚ねえ、想像つかんな。


「ええ、マリィさん結婚しちゃうんですか?

 寂しくなりますぅ〜。」

 但馬が眉を下げながらそう甘えている。

「将来の話ですよ。今すぐということではないので。そうなるかも未確定ですし。」

 とマリィさんが目を細めて微笑んだ。

 但馬のこと、妹みたいにかわいがってるよなあ。マリィさん妹なのに、お姉さん気質が強いというか、世話好きだからかな。


 そこにふと、マリィさんがなにかに気を取られて目線をそちらに向ける。どっかの誰かさんをぐちゃぐちゃに潰したかのような顔をした、犬歯の長い男だ。ちょっとポーッとしたかのように、それを見つめている。……うん、どう考えても、マリィさんには、他の男と結婚なんて無理だと思うわ。男のほうもマリィさんの目線に気付いて、何事か隣りにいた兵士たちと話をしていた。


「──ああ、そうだ、マリィ、すまないが、彼女と一緒にこいつを王妃さまに届けてもらえないか。俺たちの結婚式の招待状だ。挨拶の際に手渡す機会がなかったもんでな。」

 ドメール王子──アプリティオ国王が封蝋の施された手紙をマリィさんに差し出した。

「かしこまりました。王妃さまはどちらに?

 お姿が見えませんが……。」

「疲れて自室に戻られたんだろう。王妃さま付きの侍女に手渡してくれれば構わない。」


「では行ってまいります。」

「私も行ってきますね!」

 そう言って、マリィさんと但馬はパーティーから抜け出して、王妃の元へと向かった。

 俺は王妃さまの部屋を確認する為に、隠密で姿を消してついて行った。魔王の娘のダンジョンについて、王宮内を調べる為には、色々と把握しておいたほうがいいからな。

 無事王妃さま付きの侍女に招待状を手渡して、戻る道すがらの出来事だった。


 向こうから来た兵士たちがニヤニヤしながらマリィさんを見ている。その内一人は、さっきマリィさんが見てた、犬歯の長い男だ。

 つか、感じ悪りぃな。

「──なんですかね、感じ悪いな。」

 但馬も眉をひそめる。

「放っておきましょう。」

 そう言ってマリィさんたちが、彼らとすれ違おうとした瞬間、犬歯の長い男が、マリィさんの腕を掴んだ。


「──離して下さい。」

「そっけなくすんなよ。」

 男たちはまだニヤニヤしている。

「さっきあんた俺を見てたろ?

 気付いてたんだぜ?」

 マリィさんは不思議そうに眉を寄せる。恐らく犬歯の部分しか見てなかったんだろう。

「失礼ね!離しなさいよ!」

 但馬が犬歯の長い男の腕を掴む。


「国賓の側近相手にその態度を取るのがナルガラのやり方なの?下品な国ね!」

「なんだと!?女の癖に生意気だな!」

「私たちはアプリティオ国王の秘書よ!?

 一兵卒が偉そうにしないで!

 私たちより立場が低い癖に!」

「おやめなさいな。」

マリィさんがたしなめるように但馬に呼びかける。但馬がバツが悪そうに眉を下げた。


「その手をお離し下さい。このままだと国際問題に発展しますよ。」

「……その前にお前らの口を塞いじまえばいいさ。おい、そこの部屋に押し込め!」

「ちょっと!何すんのよ!」

 男たちが無理やりマリィさんと但馬を、近くの部屋に押し込もうとする。マリィさんならこんな奴ら一撃だけど、外交問題的に下手に手出し出来ずに困ってるみたいだ。けど、


「まとめて可愛がってやるよ!

 お前も来い!」

「やめてよ、痛い!」

 犬歯の男が但馬の手も掴んで無理やり捻り上げ、そのやり取りを聞いた瞬間、マリィさんの目付きが戦闘モードへと切り替わる。マリィさんが攻撃を加えようとしたまさにその瞬間、急いで駆け寄る俺を追い越して、別の影が揉めている彼らの元へと走り寄った。


「いててててて!なにすんだ!」

「──何してる。」

「ニナンガ国王……、これは……。」

 なかなか戻って来ないマリィさんを心配したんだろうか。エンリツィオがこんなタイミングよくやってくるなんて珍しいな。

「俺のオンナに何してるって聞いてんだ。」

「え?え?え?」

 犬歯の長い男は、どっちだ?という風にマリィさんと但馬の顔を交互に見て、マリィさんの事だと気付いて慌てて2人の手を離す。


「このことは報告させて貰う。

 覚悟しておくんだな。」

「そ、そんな……。

 その女の方から誘ったんですよ!?」

 マリィさんの肩を抱いて去ろうとしていたエンリツィオが、刺すような目線で犬歯の長い男を振り返る。


「俺のオンナが、誰を、──誘ったって?」

 悪魔の顔で笑ってる。犬歯の長い男が完全に凍りついたようにかたまった。

「コイツは俺以外に興味がない女だ。

 それはコイツの周りの全員が知ってる。

 ちょっとマリィと目があったくらいで勘違いしてんじゃねえよ。てめえの期待値を相手の感情だと思ってんじゃねえ。」


「うあああああ!」

 護衛の兵士たちは、全員鉄で出来た肩までの胸当てを身に着けているんだけど、力強くエンリツィオに掴まれた鎧の肩部分が変形して、犬歯の長い男の体に食い込んでいく。

 その様子にゾッとしたように青ざめる他の2人。そんな程度で済んで良かったな。

 国王じゃない時のエンリツィオなら、多分ちょっかいかけただけで、お前ら今頃、土の下か犬の餌だ。エンリツィオが鋭い目付きでマリィさんを振り返る。


「──オマエも不用意に男を見るな。

 目があったくらいで勘違いする馬鹿が次々わいても面倒だ。オマエはオマエ自身が思ってるより、魅力的な女なんだからな。」

「も、申し訳ありません……。」

 マリィさんが両手を揃えて、エンリツィオに深々と頭を下げる。マリィさんがさっきの兵士をちょっと気にしてたのは、笑った時に長めの犬歯が見えたからか。長めの犬歯フェチにでもなっちゃったんだろうな。


「どうせこいつが笑った時に長い犬歯見えるのが、俺みたいだと思って見てたんだろ?

 他の男のを見るくらいなら、──俺から目を離すなよ。」

 男から手を放すと、そのままマリィさんを抱き寄せて耳元で囁く。気付かれていたことに、マリィさんが焦ったような表情になる。

「──そういうことだ。お前を見てたんじゃなくて、お前の中に俺の面影を見てたってだけだ。この世界で最も美しい女が、お前ごときに振り向くわけがネエだろうが。」


 肩をおさえてうずくまりながら、悔しそうにこちらを睨んでいる犬歯の長い男。

 エンリツィオが手を上げると、どこからともなくやって来た、アダムさんたちが男たちを捕まえて連れて行った。

 俺はエンリツィオに駆け寄った。

「なんでここにいたんだよ?」

「あの男が勘違いしてるようだったからな、アダムたちに見張らせてた。」


 なるほどな、さっきの男たちの様子が怪しいのを見て、アダムさんたちに影から護衛させてたのか、マリィさんを。

「だからって、普通手出しするなんて思わねえだろ?相手は国王の秘書だぜ?」

 そう言う俺に、エンリツィオは横目で俺を見ながら言った。


「女だってだけでナメられる。

 女だってだけで狙われる。

 女だってだけで殺される。

 オマエには見えねえ世界なんだろうがな。

 世の中ってのはそういうモンだ。

 この世界は特にそうだ、覚えとけ。」


 そう言うとエンリツィオは、ちょっとお前ら出てけ、と、俺と但馬を、男たちがマリィさんを引きずり込んだ部屋の中から追い出した。俺は従ったフリをして、隠密と消音行動で部屋に残って2人を観察することにした。

「──逃げるなよ。」

 エンリツィオがマリィさんを壁の端に追い詰めて、カーテンを引っ張って周囲から隠しながら、マリィさんの逃げ場を塞ぐ。


 目線を落として困ったような表情を浮かべるマリィさんの顎を、左手でクイ、と持ち上げた。マリィさんは目線をそらしたままだ。

「ちゃんと俺を見ろよ、マリィ。

 今から大事な話をしようってんだ。」

「わ、私、仕事に戻らないと……。

 あっ、あの、何を……。」

 エンリツィオが突如マリィさんのタイトスカートの裾をスッとめくり上げる。マリィさんのパンツ!!!──白の紐パンです、イヤッホウ!ま、まさか、オマエが声を出さなきゃバレねえだろ?的な展開か?俺はドキドキしながら息をつめて二人を見守る。


「──俺のいいつけ通り、ずっとこんなモン履いてんのを知ったら、……期待しちまうんだがな?俺としては。」

 エンリツィオはマリィさんの履いてる紐パンのリボンを、脱がすという程でなく、イタズラするみたいに軽く引っ張る。

 マリィさんが慌ててスカートを下げてパンツを隠そうとする。


「そ、それは、その……、私は今、これしか持ってなくて……。も、もう、これからはこういったものは、履きませんから……。」

 マリィさんがスカートを下げてから、エンリツィオを弱々しい力で押し戻す。

 エンリツィオの要求で揃えてから、ずっと紐パンばっかり履いてたってことか。

 マリィさんは別に嫌いでエンリツィオから離れたわけじゃないから、エンリツィオの面影を他の奴に求めちゃうし、こうして付き合ってた時に要求した下着なんか履いてるの見たら、俺でも、押せばまだイケんじゃね?と思ってしまうと思うと思う。


 けど、マリィさんて結構頑固なのだ。そもそもエンリツィオの恋人が死んですぐ、マリィさんがエンリツィオに手紙を出したのだって、エンリツィオの死んだ恋人に説得されてのことだ。マリィさん自身は会うつもりも連絡するつもりもまったくなかったんだろう。

 2度と会わずに思い続ける覚悟を持って、エンリツィオを愛している人だから。


 だからきちんと別れを告げた今、関わるつもりがないんだと思う。マリィさんからは一切エンリツィオに話しかけないし、それを変えさせるのは無理なんじゃないだろうか。

「……オマエ、ずっと俺の特別を欲しがってたな。──そういや、あったぜ?

 オマエが他の女どもと違うことが。」


「……?」

 マリィさんが、初めて興味を示したかのように、エンリツィオの顔を見上げた。

「昔の女どもに会って、……そいつらに言われて、改めて思いかえして、そういやそうだったなと思ったことがな。

 それをしてねえつもりも、してるつもりもなかったんで、気付かなかったんだが。」


 マリィさんは訝しげにエンリツィオを見上げて、軽く首をかしげていた。

「──俺から誘って抱いたのも、俺からキスした事があんのも、……他の奴にちょっかい出されて嫉妬すんのも、アイツとオマエだけだった、ってな。」

「!?????」

 マリィさんが目を白黒させている。


「というか、オマエの方をアイツよりも先に抱いてるから、オマエは俺が人生で初めて自分から求めた相手ってこった。

 ──オマエはとっくにはじめから、俺にとって特別だったってことだ。

 それで俺は今、オマエにキスしたくてたまらねえんだが──どこにしたらいい?」

「し、しないという選択肢は……。」

「あると思うか?」


 マリィさんが完全にパニックしている。

「──オマエは拒絶することで俺が傷付くことを、とことん嫌がる女だからな。

 人前は恥ずかしくて嫌な癖して、俺がしたがるから部下の前で抱き締めてキスしても、それを受け入れてくれてたよな。」


 思い出したのか赤面するマリィさん。

「──なら俺はそれを最大限利用させて貰うとしよう。オマエが俺の態度を口だけだと思うのか、本気だと思うのか、それは分からねえが……。オマエと関わんなきゃ、そもそも伝えようがねえからな。」


 するまで逃さないという態度に、マリィさんは覚悟を決めたようだった。

「手……、手なら……、いい、です……。」

 恥ずかしそうに目線をそらしながら、マリィさんがおずおずと手を差し出す。

「……ふうん?」

 エンリツィオが面白そうに笑っている。


「じゃあ、俺はこれから、オマエの手を、オマエの唇だと思って触れる。

 ──それでいいな?」

「あ、あの……。」

 エンリツィオはマリィさんの手を取ると、愛おしげに優しくキスをした。


「オマエが望まないなら、これからはここにしか触れないようにする。オマエにまたそれを許して貰えるようになるまではな。

 だが覚えとけ。俺が自分からキスしたい女は、──この世でオマエだけだ。」

 エンリツィオはマリィさんの耳元でそう囁くと、マリィさんを開放した。


「し、失礼します!」

 マリィさんが慌てて部屋を出ていくと、

 ──ゴツン!!

「いってええええ!!」

 エンリツィオのゲンコツが俺の頭の上に直撃して、俺の隠密がとける。

「のぞいてんじゃねえよ。」


「な、なんで分かったんだよ!

 隠密に消音行動使ってたのに!」

「姿隠しても隠しきれねえモンがあるっつったろうが。……鼻息荒くしやがって。バレてねえとでも思ったか。」

 ──あ。至近距離で、マリィさんの結合部見ようと思って近付き過ぎたか。


 アプリティオにいた時は、マリィさんにそんなことしようなんて思ってなかったけど、記憶をなくしてしまった時のマリィさんの態度に、お兄ちゃん完全に寝た子を起こされちゃったんですよ!

 俺にとって江野沢の次にエッチなところが見たいのは、今や完全にマリィさんである。

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月イチ自己ノルマ更新、ギリギリセーフです!

今回は時間がかかりました(^_^;)

半分までは書けてたんですけど、残りがね……。

来月はもう少し早く書き上げられるよう頑張りたいですが……、他の作品と、同時に書籍化の改定もあるので、間に合うか不安なところです。

見放さずにブックマークよろしくお願いいたします。


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