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スキルロバリー〜スキルなし判定されて異世界で放り出された俺が、ユニークスキル「スキル強奪」で闇社会の覇王となるまで〜  作者: 陰陽
第五部・聖女殺しの殺人祭司編

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第146話 小美玉学園2年2組

「なるほどのう、ナルガラ王国では、いつの間にやらルクマ王国の地位が逆転しておるようだ。昨今平民の間で、王と貧民の立場を入れ替えることの出来る遊びが流行っておるそうだが……。わらわはいつの間にか、ナルガラの王太子と、カードゲームに興じていたようだの。なれば次の対戦を申し入れよう。すぐにでも逆転してみせようではないか。」


 これって、ルクマ王国を最下位の国扱いとして貶めるつもりなら、いつでも開戦の準備はあるっていう、遠回しな暗喩じゃね?俺がそう思って、チラリとアシルさんを見ると、俺の表情から俺の内心を察したのだろうアシルさんが、俺と目を合わせてコックリと頷いた。しょっぱなからやっちゃってんなあ、王太子殿下。さすがのアホ王子。可愛そうなくらい国王がアタフタしているのが見える。

 確か婿養子なんだっけか。


「……ルクマ王国は大国でありこそすれ、始まりの3人の国ではない為、加えて国民すべてがあの見た目であることで、一部では軽んじられている向きもあるのです。」

 アダムさんが小声で教えてくれる。

「──始まりの3人?」

「この世界が沈み、7つの大陸に別れる前に世界を統一していた国の王の子どもである、3人の王子が開祖となった国です。」


「……“勇者とやさしいまものの子”、に出て来る王さまの国とされる、3つの王国か。」

「──チムチ、アプリティオ、マガ。この3つが始まりの3人の国とされ、それぞれ大国であると共に、それ以外にも血統と歴史の側面から重要視されている国になります。

 今でこそルクマがすべての国の頂点になりましたが、歴史的観点から、その血統を卑しい蛮族の王、とする者も少なくないのです。

 そういう経緯がありますから、ルクマを軽視されることを、アダルジーザ・ハイルベルン陛下は何よりお嫌いになられるのです。」


 そんな経緯があるのに、ルクマ王国国王、アダルジーザ・ハイルベルン女王陛下を無視して自分の友人である、1番地位のひくい国の、それも第2王子を尊重しちまったってわけね。他の国々からしても当然失礼に当たるわけだけど、それ以上にルクマ王国としては面白くないわけだ。単純にあの王太子がアホだからなのか、それとも──わざとなのか。


 アプリティオ王国、チムチ王国は、異世界からの勇者召喚を今後一切しないと先日正式に公言した。そしてニナンガ王国は、元異世界召喚勇者の被害者たちが作った組織、エンリツィオ一家のボスが国王を務める国だ。

 ルクマ王国は、女王がエンリツィオの元愛人として、後ろ盾になっているから、現在の明確な俺たちの敵は、マガ王国、ナルガラ王国、ヘイオス王国。この3つってことだ。


 アプリティオ王国の前国王は、ニナンガ王国国王≒エンリツィオ一家のボス、というこを知らなかった。そもそもエンリツィオ一家のボスの顔を知っている人間が少ないから。

 だから他の国の王族たちも、元愛人だったルクマ王国の王族以外は、それを知らない可能性が高い。でももし知っていたとしたら?


 ナルガラ王国の元王太子である第1王子はニナンガ王国で暗殺された。──そこに、敵対組織アスワンダムを抱えるマガ王国や、ナルガラ王国の第2王子が関わっていないと言えるだろうか。アスワンダムはエンリツィオ暗殺を目論んだ、管轄祭司と共に、エンリツィオを捕らえた経緯があり、エンリツィオの顔を知っている。他の国々と一枚岩で異世界からの勇者召喚をしていた筈が、俺たちにその牙城を崩されて、残った国々がより強固に結びつこうとし、情報を共有したら?


 今までは互いの国が、それぞれのメリットの為に独自に召喚を行っていたし、勇者の育成もその結果がもたらしたものも、共有することはなかったから、ひとつの国だけが握っていた情報を、他の国に共有してこなかったことは想像にかたくない。──今までは。

 ルクマ王国は異世界からの勇者召喚をやめると公言こそしてないけど、エンリツィオ一家の後ろ盾に長年なっている事実がある。

 それを知らされて、公の場でルクマ王国国王を辱めようと思ったとか……そんなことがあってもおかしくはねえよなって少し思う。


「そ、そのようなつもりは……。王太子よ、ルクマ国王になんという無礼な。立太子されたからには、もう子どもの頃のようにはいかぬのだ。お前の旧知の間柄との友好を深める行為を優先するのは、こういった公式の場ではそぐわぬものだ。それを理解しなさい。」

 ナルガラ国王にそう注意を受けた王太子殿下は、椅子から立ち上がりお辞儀をした。


「はい、国王さま。──大変失礼を致しました、ルクマ国王。……まだ若輩者のこの身ゆえ、懐かしい顔に少々はしゃいでしまったようです。今日これ以降は王太子としての立場を忘れず、行動してゆくことを肝に銘じております。それ以前のわたくしのしたことは、成人前の子どものしたこととして、一度はお許しいただけませんでしょうか?」

 と言った。公式の場じゃ、父親のことも国王と呼ぶのは、王侯貴族の習わしらしい。


 アダルジーザ・ハイルベルン陛下は、それを聞いて眉を潜めつつも、

「あいわかった。これをそなたの成人祝い、立太子の祝いとして、鉾を収めよう。だがゲームに興じたくなれば、いつでも声をかけてくれ。本気でお相手しようではないか。」

 と冷たく微笑んだ。王太子らしい丁寧な物言いでそう言われては、他の王族たちも大勢いる場じゃ、公的には引っ込まざるを得ないんだろうけど、まだしっかり怒っていることをアピールすることは忘れなかった。改めて王太子がすべての王族に歓迎の挨拶をした。


「これより立太子を祝う宴を催すつもりでおるが、その前に我が国が誇る勇者たちを紹介させて欲しい。宴にも参加する予定であるのだが、もとは異国の平民であるとのこと、あまりこちらの常識はわきまえてはおらぬことはご理解いただきたい。──これに。」

 ナルガラ国王が手を上げつつそう言うと、

「わー!すっごい豪華〜!」

「わっ!あれ王族だよな!すげえ!」

 という声と共に、ドヤドヤと小美玉学園2年2組の生徒たちが謁見の間に入ってくる。


 ナルガラ国王がわざわざ前置きするだけあって、王族相手に失礼極まりないな。

 ……つっても、俺もあいつらの中にいたら、同じ態度をとってたかもしれねえけど。

「あっ、あ〜っ!!」

 そこにひときわ大きな声で、俺を指差す、姫前髪に引っ詰め髪の女子生徒が約1名。学生の礼服は制服とばかりに、全員が小美玉学園の制服を身に着けているが、制服のスカートを膝上に短く改造しているので目立つ。


「おい、お前ソコソコじゃんか!ソコソコだろ!?なんでそっちいんだよソコソコ!?」

「ソコソコって呼ぶなっつってんだろ!」

 俺も条件反射でそう答えてしまう。身長も見た目も、平均以上ではあるが、突出した程ではない俺に、ソコソコ君というあだ名をつけた同級生。茶髪でギャル寄りの見た目をした、可愛いかっていうと微妙な顔をした女。

 俺の天敵、宮藤毬花(くどうまりか)である。


「マジじゃん、ウケる〜。王族の護衛とか側近とかじゃね?似たようなカッコしてる奴らがソコソコの近くにいんじゃん。」

 宮藤のツレである深神優愛(みかみゆあ)。こいつも2組じゃ珍しいほうのギャル。決してセクシーな仕事をしているお姉さんではない。制服を着崩して露出してる為、セクシーではあるが。

 てか、王族の前でその胸元、どうよ。


「おお、本当だ、国峰氏ですぞ!」

「匡宏〜!元気だったかよ!」

「待て!恭司が人間に戻ってんぞ!?」

 アスタロト王子の姿を見て、指を指してそう言っているのは、小美玉学園ファイブフォースを自称している、ヲタクの面々である。

 ヲタクの数が多い2組の中でも、群を抜いた精鋭揃いの兵た(つわもの)ちである。


 実は全員でVTuberをやっていて、ガワを作ってる奴、リアルタイム配信と編集を担当してる奴、3Dを動かす仕様を作ってる奴、マネージャーをやってる奴、中の奴は某声優ソックリな奴で、登録者数30万人オーバーのなかなかに人気の配信者グループだ。

 俺や恭司以外の奴らには内緒である。

 中の奴はイケボにありがちな、顔と体系がかなりガワと真逆な見た目の奴であるが。


 いや、てか王族に指差しやめろ。それ恭司じゃねえから。よく似た別人だから。アスタロト王子不思議そうに首傾げてるから。

「ヤバい……!イケメンがイケメンと、めっちゃ近い距離でイチャイチャ喋ってる!

 何あれ、動くマネキン!?」

「生きた美容液だよぉ、みっちゃあん。

 描く、絶対後で描くぅ。」


 カールさんたちをトロけたメス顔で見ている、地味系可愛い子ちゃんの2人は、鴻上絵菜(こうがみえな)古賀上美奈(こがうえみな)の、学園きってのトップオブ腐女子、別名アナグラムス。2人の名前を平仮名にすると、アナグラムみたいにまったく同じ文字しか使われてないことから、2人がつけたサークル名兼、2人のあだ名である。


 海に近い何十万人も集まるヲタクの祭典では、常に壁配置のジャンル最大手だとか。

 俺と恭司を脳内でくっつけて公式と呼び、そこで誰も知らない、俺と恭司をイチャコラさせた同人誌をオリジナルとして売るとか、ねえそれなんてイジメ?しかもそれを俺のクラスメートに読ませようとすんじゃねえし。

 ちなみに何を隠そう、俺と恭司がWデートをしたことがあるのがこの2人である。


「勇者たちも、皆さま方と話したそうです。

 このまま記念パーティーに移らせていただこうと思っております。どうぞごゆるりとお楽しみ下さい。各自お手元にグラスをお持ちいたしますので、まずはわたくしから乾杯の挨拶をさせていただきたいと思います。」

 ナルガラ国王が、騒ぎ立てる2組を制することもせず、パーティーになだれ込ませようとそんなことを言ってくる。まあ、パーティーになっちまえば、多少騒がしくても気にならないだろうけど、いいんか、それで。

 

 正装した従者たちによって、背の高い細身のグラスが配られる。中身が泡立っている感じがするから、シャンパンみたいなものなのかな?そう思って手にしたグラスを眺めていると、この国の名物の果実酒ですよ、とカールさんが教えてくれた。


「こちらをどうぞ、匡宏さん。こちらは酒になる前のジュースだそうです。」

「あ、ありがとうございます。」

 アダムさんが自分の持っていたグラスと、俺のグラスを交換してくれた。口を湿らすだけでいいって聞いてたから、ジュースがあるか確認せんかったわ。聞けばよかったな。


「それではグラスをお掲げ下さい。

 グランカランヴァサン!」

「グランカランヴァサン!」

「グランカラ……なに?」

「この国独自の乾杯の挨拶です。」

「あーね。」

 そういうのは事前に教えといてくんねーとわからんのよ。──あ、うめえや。


 うやむやのうちにパーティーが始まって、さっそく2組の奴らが俺らに近寄ってくる。

 俺は目の端で、隣の大広間に通じる巨大な扉を、従者たちが開けているのを見ていた。

 そこにたくさんの料理が並べられているテーブルが置かれていた。どれも美味そうだ。

 この人数だ。謁見の間だけじゃ、料理を乗せるテーブルを置くスペースがないもんな。


 そこで但馬の変身ぶりに、まったく但馬と気が付かなかった宮藤と深神たちが、呆然とした表情で但馬に絡んでいるようだ。

「ここまでなったのは私の努力のたまものだけど、先輩のマリィさんが私にたくさんオシャレを教えてくれたんだあ。私はマリィさんのおかげで、なんとカレシが出来ました!」

 Vサインをキメて笑顔の但馬。但馬はアプリティオ王国の通訳としてついて来ている。


「はあ!?あんたが?」

「嘘つけよ!」

 江野沢の親友だけど、本来地味子の部類に入る但馬有季(たじまゆき)に、宮藤たちが吠える。

 でも……、なんかまた可愛くなってね?

「マリィさんと、正確にはジルベスタさんもだけど。もう昔の私じゃないのよ。」

 そう言った但馬はメイク、髪型、スタイルまで綺麗な大人の女性に見えた。なるほど、ジルベスタのヘアメイクと、マリィさんのボディメイクのたまものか。確かにすげえや。


 但馬を、ドメール王子の護衛の兵士が愛おしげに見つめている。……あっ!ご褒美部屋でいっつも但馬とお茶してた兵士じゃんか!

 但馬はご褒美部屋で、エロいことを兵士に求めなかった女の子で、俺と恭司も3組の女子の中で唯一裸を見れていない。

 ただお茶して話してるだけだったけど、いっつも嬉しそうだった但馬。

 兵士の方もあの頃は、ご褒美に付き合ってやってるだけって感じだったけど、自分の為に可愛くなった一途な女の子にやられちゃったんだな。幸せそうで良かった。


「なによ、ソコソコ!」

「あんだよ。」

 そこにコッソリと、俺に耳打ちするように話しかけてきた宮藤。

「あんたの庭、豊作じゃん!!」

「あん?」

「なにあの2人!

 モデルでもあんなのいないって!」

「ああ、アダムさんとカールさんね。」


「……つか、あのヤバいくらい、色気ダダ漏れなのは誰なの!?」

 と深神までもが聞いてくる。

「あれがうちの国王だよ。」

「国王!?若っか!!横の男もエロいな。

 つか、あそこにいると、恭司までクオリティ高く見えるわ。いつもと気品ちがくね?

 ──つか、恭司じゃなくね?」

 そう言って宮藤が首をかしげた。


 エンリツィオ、ドメール王子──アプリティオ国王、アスタロト王子が並んで談笑している横に、側近としてアシルさんと、アダムさんと、カールさんが並んで控えている。

 ジルベスタの姪っ子も、話に加わりたそうにしてるけど、さすがにあの3人には割り込めないみたいだな。国王の姪なんて王位継承順でいったら、かなり下の方だろうしな。


「よく分かんな。ありゃ、似てるけど、チムチのアスタロト王子だよ。」

 ヤンキーテイスト強めな見た目でも、やっぱりそこは王子の気品てもんがあんのか。

「……お前さあ。」

 宮藤が可哀想な目で俺を見てくる。

「あん中いると、すっげ〜浮いてんよ?」


「うっせ!知ってるわ!」

 どうせ俺はソコソコ君だよ!

「王子ってことは、金持ってんのか?」

 宮藤が目を輝かせながら言う。

「まあ、この世界の王族の中じゃ、チムチが2番目か3番目に金持ってんじゃねえか?兄弟いないし、あいつが次期国王だしな。」


「──決めた、あいつ落とす!

 ソコソコんとこの国王は手強そうだけど、同年代だし、チムチはいけんだろ。」

 宮藤が左手の平手に、右手の拳をパシン!と打ち付ける仕草をしながらそう言った。

「……いや、無理だろ。」

「はあ!?舐めんなし!」

 宮藤が腰に手を当てて半ギレしてくる。


「いや、そういうことじゃなくてよ、女王は平民から選ぼうかなって言ってたから、単純に結婚てだけなら可能性あると思うけど、チムチの男性の9割は男にしか興味がなくて、あいつもそうだから、落とすってなると無理って話ってことだよ。まあ、けど──」

「なんだよ。」

 宮藤が俺をジロリと睨む。


「お前、姫前髪とメイクなかったら、あんま可愛くねえじゃん。雰囲気美人?

 普通に女に興味あっても、天然美人に囲まれてる王族を落とせるわけねえじゃん。

 お前もだいぶ、ソコソコだぜ?」

「はああああ!?うっせーし!」

 宮藤たちと騒いでいる俺を見て、アスタロト王子がこっちに近寄ってくる。


「なんだよ、タダヒロ、なにしてんだ?そんなとこいねえで、こっち来て話そうぜ?」

「いや……俺は従者で、護衛ですらねえし。」

「お前は特別だって。分かってんだろ?」

 そう言って、わざわざ俺のこめかみにキスしてくる。それを見た宮藤が目を丸くする。

「──そういうわけだから、ゴメンな?」

 そう言って、ニヤリと笑うと、アスタロト王子はまた王族たちの会話に戻って行った。


「お前!自分が好かれてるからって、アタシのこと舐めてんだろ!」

「いててて!叩くな!違げえって!

 王族の前だぞ、静かにしろよ!」

 ようするに、宮藤の声が聞こえてて、案にお断りをしにきたのだ。俺をダシにして。

 あんのヤロー……。そこに、


「楽しんでくれているだろうか?」

 と、ハスキーな声がして、俺は後ろを振り返った。見ると金髪ロングヘアの、騎士の制服のような格好をした、でも大きな胸が隠しきれていない美女がクールに微笑んでいる。

「あ、はい……。それなりには……。」


「ばっか、ソコソコ!この人、この国の王女さまだよ!第1王女のクレオディーテさま!

 ほら!頭下げなって!」

 さっきまで他の王族の前で自由に振る舞っていた宮藤が、ナルガラ王国の王族を前にして、突然俺に礼節を示せと言ってきた。


 世話になってる国の王族には、さすがに違うのかな?周囲の態度もそれに応じたものだろうし、その空気を感じてりゃあ、普通は王族の前ではしゃいだり出来ねえもんな。

「はじめまして、ニナンガ王国の国王の従者を務めさせていただいております。」

「ああ、かしこまらなくていい。今日は無礼講だからな。王もそのつもりだ。」


 女性にしては大分背が高くて、ひょっとしたらマリィさんよりも高いかも知れないな。

 これが恭司の言っていた、セクシーな男装の麗人こと、第1王女さまか。確かに男装の姿なのに、くびれるところはくびれてるし、胸もボンッと出ていて、寧ろ女性らしさが隠しきれていなくて、すっげえセクシーというか、露出がないのにずいぶんと色っぽいな。

 セクシーな年上のオネーサマ好きの恭司がハマるわけだ。むしろドレス姿よりいい。


「壇上にいらっしゃらなかったですけど、王太子しか上がれない決まりなんですか?」

 アプリティオじゃ、江野沢に瓜二つのヤクリディア王女が、召喚した3組を壇上で出迎えたと言うから、国によって違うのかな?って思って聞いてみた。他の2人の王女さまの姿も、壇上になかったしな。


「ああ、今日はな。普段は上がるが、立太子選定の儀は、国王と王妃と王太子しか上がらない決まりなんだ。だから私は警備を兼ねている。今は交代の時間なんだ。国を上げてのお祝いだからな、護衛も交代でパーティーに参加できるんだ。ほら、あんな風にな。」


 と指し示された先には、会場の料理や酒を楽しむ兵士たちの姿が見えた。みんなクレオディーテさまと同じデザインの、クレオディーテさまよりも飾りが少ない制服を身に着けていた。クレオディーテさまは王女だし役職が彼らよりも上なんかな?一応槍を持って鉄製の胸当てをつけた兵士たちも会場のそこここに立っているから、彼らが鎧を脱いだ姿なんだろう。下に見える制服は同じものだし。


 料理が並べられた部屋の、隣の部屋の扉を従者たちが開けている。扉が完全に開かれた時、俺は中に置かれた物を見て驚いた。

「うわ!ピアノがあんの?初めて見た!」

 広間にはグランドピアノが置いてあった。

 この世界で元の世界と同じ楽器を初めて見た気がする。宮廷楽団らしき人たちが、王族のいる壇上の脇に集まって演奏を開始したけど、ピアノに触れる人はいなかった。つか、ヴァイオリンもビオラもフツーにあんのな。


「誰か弾けるんですか?」

「妹が少し……。あとは宮廷楽団だな。」

「今日は弾かないんですね?」

「お客さまに演奏してもらうつもりなんじゃないだろうか。ヘイオス王国の第2王子は、ピアノの名手だと聞くし、アプリティオ国王もかなり弾けると聞いている。あらかじめお祝いの為の演奏を、どちらかにお願いしていて華を持たせるつもりなのだろう。」


 ならヘイオス王国の第2王子だろうな。

 王太子が親しげにしてたしな。その為に第2王子のほうを呼んだのかも知んねえな。

「久しぶりに何か弾いてよ。」

 とアシルさんがエンリツィオに言った。

「ピアノ習ってたのか?」

 それが耳に入った俺は、エンリツィオを振り返って思わず声をかける。


「いや?弾ける女と付き合ってただけだ。」

「なんでそれで弾けるんだよ。」

「指の動き覚えるだけだろうが。

 楽譜は読めねえがな。」

「普通それだけじゃ覚えらんねえよ。」

 相変わらず無茶苦茶だな、コイツのスペック。見ただけで一輪車も乗ってたしな。


「おお!それは素晴らしい。ニナンガ国王、ぜひ弟の為に演奏を披露していただけないだろうか?祝いの席に華を添えて欲しい。」

 クレオディーテさまが笑顔でそう言った。

「美しい方の頼みとあらば。」

 エンリツィオはそう言って、恭しくお辞儀をした。いちいち様になるなあコイツ。


「ニナンガ国王が演奏するようですよ。」

「初めて耳にしますな。」

「楽しみですわ……!

 どのような演奏をなさるのかしら。」

 会場にいた、レグリオ王国の貴族らしい人たちがザワザワとしだす中、エンリツィオはジャズアレンジされたピアノソロを弾いた。


 お喋りに興じていた人たちがみんな静かになって、エンリツィオの演奏に耳を傾けているようだった。マリィさんがそっと近寄る。

 諦めたとは言え好きだった男のこんなカッコいい姿なんて、そりゃあ近くで見たいよなあ、と思って眺めてたんだけど実は違った。

 その理由はすぐにわかることとなった。


「──“Happy Xmas”なんてやっても、この世界の人たちに、その曲に込められた意味なんて、通じないと思うけどね。」

 と、皮肉っぽくアシルさんが言う。

 サブタイトルは“War Is Over”。

【戦争は終わる、君たちがそう望むなら。】

 と歌ったこの曲の作者は、ミサイルの発射ボタンを押す人間と同じくらい、自分たちにも戦争への責任があるという考えだと、インタビューで答えたという。


 誰かがやってくれるとか、自分にはどうすることもできないとか思っている限りは、いつになっても自分で物事を動かせるようにはならないんだ、とも。

 この世界の人々は、王族に責任を押し付けて、勇者召喚の現実を見ようとはしない。

 異世界の人々を、まるで奴隷のようにさらって死なせている事実を見ようとはしない。この世界の人たちに伝わらない美しい皮肉。


 だけど元勇者の俺たちにだけは、それはしっかりと伝わって、胸に刺さった。

 続けてひとつながりのように編曲の一部をいじって、別の曲を弾き始める。

「──これ、あれだろ、未来で待ってる!のやつ。アニキが知ってるとはな。」

 と恭司が言う。日本の古いアニメ映画の曲だけど、エンリツィオがアニメ見てたとは思えないから、曲だけ知ってたのかな。


「──マリィ。」

「はい。」

 エンリツィオが演奏の手を止めずにマリィさんを呼ぶ。マリィさんはそれだけで、エンリツィオの横に、従者に予備の椅子を運ばせて、椅子に腰掛けて連弾を始めた。

 悲しくないけど切なくて。どこか胸を締め付けられる。泣きたくないのに泣きそうになる。そんな曲だ。マリィさんもこの曲を、どこかで聞いて知ってたんだろうか。


「“someone to watch over me”?

 まーた随分と……。

 それマリィに弾かす?

 なーんにも考えてないんだろうけど……。」

 アシルさんが片方の眉をひそめる。

 この曲の歌詞が何か、マリィさんをイメージさせる意味のある内容ってことか?

 なんか悲しい恋の歌っぽい曲だよな。


「──ようやく、見つけた。」

「……?」

 エンリツィオの独り言は、マリィさんにだけ聞こえて、マリィさんは目線だけで不思議そうにエンリツィオを見ている。

 エンリツィオが続けて別の曲を弾き始めると、マリィさんがそれについていく。なんかCMか何かで聞いたことあんな、これ。


「“My One And Only Love”?

 はあ、もう……。」

 曲のタイトルだから、翻訳の言葉の意味が複数あるからなのかな?

 さっきから日本語じゃなくて英語に翻訳されて、なんて言ってんのかわからん。あと、アシルさんが呆れてる意味も、わからん。

 一転して明るい曲調になる。

「“The Entertainer”だっけ?」


 誰かの声がした。これもなんか聞いたことあるな。めちゃくちゃ早い!

 もとはゆっくりした曲の筈だけど、超絶技巧的アレンジで弾いている。

 ウワアアア!というみんなの歓声がしたかと思うと、さっきまで連弾していたマリィさんが立ち上がっている。

 それなのに演奏は変わらない。エンリツィオ一人で連弾してるみたいに弾いてる。


 マリィさんが移動してエンリツィオの後ろに立つと、エンリツィオが演奏したまま中腰で立ち上がり、先程までマリィさんが座っていた椅子に腰掛け、マリィさんがエンリツィオの座っていた椅子に座ったかと思うと、そのまま何事もなかったかのように演奏を開始する。息ぴったりで流石に凄い。


 拍手が鳴りやまない。俺は思わず演奏を終えて戻って来たマリィさんに駆け寄った。

「凄い!マリィさんも習ってたんですか?」

「いえ、彼が連弾したがるので、独学で覚えました。アプリティオにも、ピアノのあるお店があるので。身体強化スキルのおかげで、彼の動きに合わせて、指を早く動かすのは苦ではありませんでしたし。」

 独学って、スゲエな、この人も。


「素晴らしい演奏だった、ニナンガ国王。

 名乗るのが遅れて失礼した。私はナルガラ王国第1王女、クレオディーテだ。

 こんな格好だが、ぜひ私とダンスを踊っていただけないだろうか?」

「いえ、俺は平民上がりですので、ダンスには無作法なもので。

 ご遠慮させていただきます。」


「それは残念だ。」

 丁寧に辞退するエンリツィオに、残念そうに見えない笑顔で、クレオディーテさまは微笑んだ。クレオディーテさまのダンス、見たかったな。背の高いエンリツィオとなら、きっとかなり絵になっただろうに。


「……アルゼンチンタンゴは踊れる癖に。」

 アシルさんがボソッと呟いた。

「あれについてこれんのはマリィだけだろ。

 大体それにあう曲が弾ける宮廷楽団もいねえだろうが。俺が自分で弾きつつ踊れってのか?どんな曲芸だ、そりゃ。」

 とエンリツィオが言った。


 アルゼンチンタンゴって、女の人がティーバック履いてて、スリットスカートがめくれてオシリ見えまくっても、そのまま高スピードで踊るやつだよな?それをマリィさんが踊るの?うわ、見ってええええ!

 てか、なんでそれだけは踊れるんだよ。どうせそれも、踊れる女性と付き合ってたな?


 見せ場を奪われたのが面白くないのか、ヘイオス王国の第2王子が、明らかにそれとわかる表情で、露骨にエンリツィオを睨んだ。

 どれだけ自分がピアノを弾けたとしても、あの演奏の後で披露する気にはならんよな。

 エンターテイメントとして、魅せ方の格が違い過ぎるもん。おまけに2人とも美男美女で、見た目的にもかなり絵になってたしな。

月イチ自己ノルマ更新です。

ついに登場、最強ヲタクラス2年2組笑

キャラ濃いめ、かつ主人公と関わりの多かった人材の集まりです。


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