第118話 深夜の襲撃
回復魔法を使ったものの、血を失ったユニフェイは具合が悪そうだった。俺はユニフェイを抱きかかえたまま歩いていたが、
「……大丈夫か?」
キュウ……と俺を見上げて鳴いたけど、大丈夫そうにはちょっと見えなかった。
「……近くの街を探して立ち寄りますか?医師のスキル持ちがいるかも知れません。」
アダムさんがそう言ってくれるけど、追手から身を隠す為にわざわざバラけて行動しているのだ。人里に姿を表すことが得策だとは思えない。けど、このまま具合の悪いユニフェイを連れて歩くのも正直不安だ。
「うーん……。」
俺は森を抜けるか決めかねて悩んだ。
アイテムボックスにでも入れようかな?
それなら人目についても大丈夫な場所まで安全に運べるし、何よりアイテムボックスの中は時間がかなり緩やかに流れてる。
時間が止まってるってわけじゃないけど、以前もユニフェイが毒におかされたときに、それで治療が間に合ったしな。
そう思った時に、ふと、再生を手に入れていたことを思い出す。この間英佑が言ってたよな、魔物や魔族みたく、核がある生き物は再生がきくって。ならユニフェイも再生出来るんじゃないか?魔物だし。
俺はそう思って再生を使ってみた。
「──再生。」
回復魔法で治療していたから、見た目はまるで変わらないけど、さっきまでぐったりしていたユニフェイは、不思議そうな表情をして急に元気になったようだった。
「再生がきいたか?
怪我する前に戻せたんだな、よかった。」
俺はユニフェイを軽く抱きしめて頬を擦り寄せたあと、地面におろしてやった。
「良かったですね。
あ、そう言えば俺、さっきのでかなりレベルが上がりましたよ。」
アダムさんが歩きながら俺に告げてくる。
「そうなんですか?」
まあレベル70を倒したんだもんな。
倒したのはユニフェイだから、トドメ優先の分配からして少し吸えただけだと思うけど、それでも結構入ったんだな。
「アドゥムブラリでも上がる寸前のところまで来てたっていうのもあるんですが、レベル34になりました。」
「えっ、ホントですか!?」
みんなレベル31になるのにあんなに苦労してたのに、レベル70ヤバいな……。
てか、俺がたいして経験値吸えてないのはなんでなんだ?
「俺、全然上がってないです……。」
「そうなんですか?おかしいですね。」
確かにおかしい。知能上昇が使える分、アダムさんと比べたら俺の方がダメージ比率は高い筈なのだ。
思えばニナンガにいた時はそれなりにレベルが上がっていたのに、チムチで石化を操る魔物たちを倒した時ですら、俺だけレベルアップしなかったのだ。
「ちなみに匡宏さんは、今従魔を含めて、何体の魔物を使役されてるんですか?」
「──え?」
「ネクロマンサーのスキルをお持ちなんですよね?あとテイマーのスキルも。」
「あ、はい、ネクロマンサーで一度に出せるのは50体だけど、それ以上いますね。それと従魔はユニフェイと恭司がそうです。」
「ああ。でしたらそれですね。」
「──ドユコトデスカ?」
「テイマーもネクロマンサーも、使役している魔物を出さなくても、公平に使役している魔物にも経験値が分配されるんです。もちろん魔物がトドメをさせば、さした魔物にたくさん入るという点は変わりませんが。」
「え。」
てことは何か。最初はユニフェイしか使役していなかったからガンガンレベルアップしたけど、今はこの場にいない恭司にすら俺の経験値が吸われてるってことか!
マジか。だからレベルが上がらないのか。
「俺……いつになったらレベル31になれるんだろ……。」
「使役している魔物のレベルアップを優先するのが、テイマーでありネクロマンサーですから、ご自身のレベルはそこまで気にされなくてもよろしいのでは?」
「けど、レベルが上がらないと、使役出来る魔物の上限数増えないんですよ〜。」
だってノアは100体を同時に使役出来るのだ。俺だって早くそんくらい出せるようになりたいのに!てか、1000体くらいの軍勢を作りたいのだ。
「はあ〜……。ショック……。」
「匡宏さんならソロ狩りも余裕でしょうから、すぐに上がりますよ。」
アダムさんがそう慰めてくれたけど、俺のショックは消えないのであった。
「──そうだ、アラクネ・フォビアの落としたこれ、武器化の時点で固有スキルありが確定なんだよな。どんな固有スキルがついてんのかな?せっかくだし見てみるか。」
俺は錫杖をアイテムボックスから取り出して、固有スキルを見てみることにした。
逆さまに円錐が付いた下の方に、8つの輪っかのついた錫杖。銀色で宝石みたいのがついてて、凄くキレイだ。円錐部分で殴ったら痛そうだし、鈍器でもあるし、魔法使いの杖みたいでもある。
「武器のスキルは、武器鑑定のスキルがないと見られませんよ?」
アダムさんがそう教えてくれた。
「あ、だいじょうぶです。以前にそのスキル、手に入れてたんで。」
「あ、そうだったのですね。」
まあ、俺自身武器使うことなんてなかったし、欲しがる人もいないから、放置してたんだけどな。
〈アラクネ・フォビアの錫杖〉
レベル1
HP +10000
MP +3000
攻撃力 +10000
防御力 +3000
俊敏性 +3000
知力 +3000
武器タイプ 聖棍(不死者と悪魔に攻撃力倍化)
固有スキル 捕縛の鎖 時空間操作 鼓舞する軍勢
うーん、なかなかのステータス上昇値なんじゃね?単純に体力と攻撃力上がるから、持ってるだけでも生き残れるチャンスが増えるし、武器としては俺は使えないけど便利かも知れん。
棍ってあれか?スタントなしでコメディっぽく映画撮る、香港のアクション大物俳優が使ってたことのあるやつだよな?
「なんか固有スキル3つあるや。」
「3つですか!?
それはかなりレアですよ?そもそも固有スキルのない武器がほとんどですし、あっても1つ、ないし2つが通常です。……まあ、固有スキルがたくさんあっても、数値次第では使い物になるとは限りませんが。」
「というと?」
「攻撃力の上がる数値も初期レベルも、魔物が落とすものはランダムで決まりますので、スキルがよくても他がゴミだと使えない武器、ということになります。」
「HPと攻撃力が+10000でした。
武器レベル1の状態で。」
「+10000!?それは……。すべての冒険者たちが欲しがると思いますよ?」
「でも、棍なんですよね……。棍って棒術ですよね。誰か使う人、組織にいますっけ?」
「うちにはいないですね。」
「じゃあ宝の持ち腐れかあ……。」
HPもそうだけど、攻撃力+10000はだいぶチートなんだけどなあ。
俺は仕方なしにまたアイテムボックスにアラクネ・フォビアの錫杖をしまった。
まあ、なんかの役には立つだろ。
「はあ……それにしても腹減ったなあ。」
俺の腹がクウクウと鳴り続ける。
「だいぶ歩きましたからね。どこか開けたところがあったら、そこで食事にしましょうか。木から離れて、少しでも安全な寝床になるようなところだといいのですが。」
アダムさんがそう声をかけてくれる。
木の間だと、上からもなんかくる可能性があるもんな。アラクネみたいに。
アドゥムブラリと戦って、アラクネ・フォビアを倒して。進むのがその分遅れたけど結構歩いたし、時間はかなり経っているのだ。もともと木が密集してる箇所が多くて、あまり日の差し込まない森ではあるけど、それでもだいぶ暗くなってきているのが分かる。
「──ユニフェイ?」
ユニフェイが急にふんふんと鼻を動かしながら匂いを嗅ぎつつ移動しだす。
「何か見つけたのかも知れませんね。
行ってみましょうか。
警戒をしている風ではありませんし。」
「あ、はい。」
俺たちはユニフェイを先頭に、後ろについてユニフェイの進む道を歩いた。
「──お、めっちゃ開けてる!ここで休憩出来るぞ!でかしたユニフェイ!」
ユニフェイについて茂みを抜けた奥は、かなり開けた場所になっていた。
「本当ですね、ここで食事をとったら、そのまま今日はここで休みましょうか。
あまり暗くなると、森の中を移動するのは危険ですので。」
「はー!足痛てー!」
俺がそう言って足を投げ出して地面に座ると、ユニフェイが聖魔法をかけてくれる。
「あんがとな。あ、アダムさんも。」
「ありがとうございます。」
アダムさんには俺が回復魔法をかけた。
「──ん?」
俺は水の音に振り返った。全裸の男がこちらに背を向けて泉で水浴びをしていた。俺に気付くと、濡れた髪をかきあげながら、下から睨むような目付きで振り返った。
──エンリツィオだった。普段の髪型は天パか癖毛なんだな、髪がペタッと寝てると、一瞬誰だか分からなかった。
最近ようやく、これは基本の目付きが悪いだけで睨んでるわけじゃないって時と、睨んでる時の区別がつくようになった。
ちなみにこれはただ見てるだけだ。相手に対して警戒はしてるけど。
「なんだ、オマエか。」
エンリツィオが俺の方を見て笑う。
「ボス!同じところを歩いてしまっていたんですね、申し訳ありません。」
わざわざバラバラに行動してたのに、合流してしまったことをアダムさんが謝罪する。エンリツィオは気にする風もなく、
「いや、しょうがねえ。俺たちも適当に歩いてたわけだからな。」
と言った。
「なんで水浴びしてたんだ?」
「まあ、ちょっとな。オマエも浴びるか?
そんなに冷たかねえぞ。」
「んー、そうだなあ。メシ食ったら入ろっかなー。つか、言ってくれりゃ、水あっためられるキャンプ用品とかあったのによ。」
「ああ、そうだな。なら次の時の為に、今度組織の分用意して貰おうか。」
「ん、わかった。」
「俺は食事の支度をしますね。」
「あ、はい。」
アダムさんがそう言って、枝を集めてきますと森に入ろうとした瞬間、森の中で枝を探していたらしいローマンさんが、大量の枝を抱えて戻って来て、ばったりとアダムさんと出くわした。
そのままアダムさんとローマンさんの2人で、火起こしと食事の支度をしている中、俺は水浴びしているエンリツィオを見ていた。
「お前やっぱ体すげーなー。
どうやったらそうなれるんだ?」
俺は草むらに腹ばいになって、膝を曲げて足の先を交差して遊ばせながら聞いた。
「身長が伸びるうちはまずは背を伸ばすこったな。お前はまだ子どもの骨だから身長が伸びる。今は過度に鍛えねえほうがいい。
栄養を身長に使ったほうがいいからな。
あとはタップリ昼寝しな。寝てる時間にしか身長は伸びねえからな。」
そう言いながら泉から上がってくる。
駆け寄って来たローマンさんから、バスタオルを手渡されてそれで頭を拭きながら、
「手を見せてみな。」
と俺に言った。
「こうなってる奴はまだ成長線が閉じてねえんだ。まだまだ伸びるぜ?オマエ。」
とエンリツィオが笑った。
「どこ見て判断したんだ?」
「爪だ。まあ医学的に証明されたやり方ってわけじゃあねえが、指の付け根にある半月状になった白い部分があんだろ。20歳前後の男でこれが小指にタップリあるやつは身長が伸びるって言われてんのさ。」
「へーえ。」
俺は自分の小指の爪を見ながら言った。
「まあ、やり過ぎない程度なら、今も鍛えても大丈夫だがな。いい方法を教えてやる。
昔マリィに教わったやり方だ。仰向けに横になったまま息を吸ってみろ。」
「──こうか?」
服を着ながら言うエンリツィオに、俺は地面に仰向けになって顔を向けた。
「そのまま息を吐くときに、下腹を引っ込めて、ケツの穴でペ●スを絞り上げるイメージで、ケツの穴を上に引っぱり上げろ。
意識するようになると、横にならなくても歩いてる時でも、普段から同じことが出来るようになる。そのうち腹筋も割れるぜ?」
「──!????」
マ、ママママ、マリィさんに教わっただとお!?てことはマリィさんは、普段からケツの穴でチン●絞り上げるイメージで歩いていらっしゃるの?あんな、そういうことに興味ありませんって顔で!?
俺は清楚なマリィさんの顔と体を思い浮かべながら、思わず動揺してしまった。
「──何考えてんのか丸出しのツラしてっとこ悪リィが、ケツの穴うんぬんを言ったのはマリィから教わった俺のオンナで、そのイメージを伝えた奴らがうまく出来るようになったから、俺もそういう風に他人に伝えてるってだけの話で、マリィが日頃それをイメージしてるってワケじゃねえからな?」
期待させんなよぉおおぉ!!
「てか、この森はそんな凄えの出ねえんじゃなかったのかよ?俺レベル70にエンカウントしたんだけど!?」
俺はエンリツィオに文句を言う。
「ほう?そりゃ凄えな。俺も遭遇したかったぜ。こっちも遭遇はしたが、まあ、そこまでじゃなかったからな。」
「グリフォンでしたよ!じゅうぶん凄いですよ?俺まったく歯が立ちませんでしたよ!」
ローマンさんが声と拳を上げる。
「以前より魔王の力が強くなったことで、魔物が活性化してますし、森も前と同じ状況とは思わない方がいいかも知れませんね。」
とアダムさんが言う。
そういやナルガラで言われたなあ。
それでセイレーンがエッチしまくって、大量に卵産んだんだし。
「オマエ、なんかそういうの引き寄せるスキルでも手に入れたんじゃねえのか?
それにしたってだろ。」
とエンリツィオがニヤリと笑う。
そんな殺人事件にやたらと遭遇する、名探偵みたいなスキル持ってねえわ。
そう思いつつも一応、なかったよな?とスキルをもう一度見返してしまう俺だった。
「そんなスキルねえわ!
つか、アラクネってのが進化して、アラクネ・フォビアってのになりやがって。倒せたのマジ偶然だったし、死ぬかと思ったわ!」
「アラクネ・フォビア?
このあたりにそんなん出ねえ筈だがな。」
とエンリツィオが訝しげに言う。
「またハグレだったってことか?」
俺の問いかけには答えず、エンリツィオは腕組みしながら虚空を睨んでいる。
「──ああ。これだな。アラクネはまれに進化のスキルを持つ個体がいるらしい。それに当たったんだろ。ツイてたな。」
とニヤリと笑った。
「ツイてなかったなの間違いだろ!
てか、アラクネの項目にそんなこと書いてねえぞ?適当言うな!」
「そっちじゃねえよ。アラクネ・フォビアをステータス画面で検索してみろ。」
さっき無言で空中睨んでたのは、ステータス画面を検索してたのか。
俺は言われた通りにアラクネ・フォビアをステータス画面で検索してみた。
〈アラクネ・フォビア〉
アラクネの上位種。アラクネの派生。まれに進化のスキルを持つ個体より誕生する。糸を操り糸に毒をはわせることが出来る。
とあった。
……。
チックショー!
俺がツイてなかったってだけかよぉお!
俺はやり場のない怒りを、アダムさんたちが作ってくれた食事をバクバクと平らげることで無理やり解消した。うまかったけど。
食事を終えると、俺は異界の門でカセットボンベで温水に出来る携帯用シャワーを購入して、泉の水をあたためて汗を流す。
ユニフェイも洗ってやって、電池式のドライヤーも購入したので、ユニフェイを乾かしてやったあとで自分の髪の毛を乾かした。
いいモン出したな、貸せ。とエンリツィオに言われてドライヤーを渡す。バスタオルじゃ乾ききらなかったらしく、エンリツィオはドライヤーで髪を乾かしていた。
「俺たちが交代で見張りますので、ゆっくり休んでくださいね。」
ローマンさんと交代で、カセットボンベの携帯用シャワーで汗を流し、ドライヤーで髪の毛を乾かしたあとで、アダムさんが俺にそう声をかけてくる。
「大丈夫ですよ?別に夜通し見張ってなくても、ユニフェイがいますから。」
「え?」
「ユニフェイと2人で行動してた時は、ユニフェイに丸投げして、俺ガッツリ寝てましたもん。テイマーの仕事はそれでしょ?」
と、首をかしげるアダムさんに言った。
「ああ、そうでしたね、テイムしてらっしゃるんでしたよね。ボス、お言葉に甘えさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「ああ。問題ねえ。」
「ありがとうございます。それじゃあ俺たちも休ませていただきますね。」
アダムさんの言葉にエンリツィオが了承を示し、ローマンさんが嬉しそうに答えた。
焚き木をぐるりと囲んで地面に皮のシートを敷いて、その上に寝袋に入って横になり、更に毛布をかけて貰うと、みんなそうやって横になったが、エンリツィオだけが寝袋に入らずに、そのまま毛布をかけて横になった。
「寝袋に入らねえのか?」
「俺のデカさに合う寝袋がねえんだよ。」
あーね。
ユニフェイが俺の横に腹ばいになって休みながら、耳だけはピクピクと動かしている。魔物は寝てても敵が来るとサッと目が覚めるらしい。テイムされていれば絶対に主人を守ってくれるから、戦える従魔を従えたテイマーのいるパーティでは、夜の交代の見張りはいらないのだそうだ。
虫の音が聞こえるいい夜だった。しばらくして全員が眠りについた時だった。急にユニフェイの鋭い唸り声が響く。……なんだ?
しばらくして、ドルルルル……という大きな音がどこかから聞こえて来たかと思うと、俺は急にフワッと何かに持ち上げられて体が宙に浮いて、温かい何かが顔に当たった。
「な、なんら……?」
半分寝ぼけた状態で何が起こったのか分からない。このまま寝ていたいくらいの強烈な眠気に目が閉じそうになる。
閉じよう閉じようとするまぶたを、無理やりこじ開けて周囲を確認すると、エンリツィオが俺とユニフェイを両脇にお米様抱っこで抱え上げて前方を睨んでいた。
温かい何かはエンリツィオの胸だった。男の胸は硬いものだし、エンリツィオくらい胸筋があれば、それはもうガッチガチだろうと勝手に想像してたのだけど、逆に意外とそうでもないな……などとノンビリしたことを考えていた。
「オイ、ボケッとしてんな。敵だぜ。」
エンリツィオの言葉にハッとする。暗闇の向こうで、強い光を放つ何かが月明かりに照らされている。ポッ、ポッ、とその周囲に赤い光が広がっていき、それが一輪車に乗った10人以上の集団で、強い光を放つ何かはデュアルヘッドレンズの明かりらしく、その上にバイクにまたがった、セイウチかサーベルタイガー並の長い牙が逆さについた、オークのような男がいることが分かった。
アダムさんとローマンさんは既に起き上がって寝袋から出て、いつでも攻撃出来るように、エンリツィオの前に構えていた。
「な、なんだ?あれ。
一輪車?それにバイク?
なんだってそんなものがここにあんだ?」
「いや、ありゃあバイクじゃねえよ。どうも生きてるみてえだからな。」
エンリツィオがニヤリとしながらそう言った。確かによくよく見ると、デュアルヘッドレンズのヘッドライトが、まるで瞬きするみたいに時々チカチカしている。
てことは、バイクに見えるけど、あれも魔物ってことか!一輪車も魔物なのかな?
いや、一輪車は特に生き物らしき点は感じられないから、あれは単なる乗り物かも知れない。けど、なんで一輪車なんだ?
俺は回らない頭で考える。
俺の体は何より眠気に弱い。一番危惧していた、寝ている時に強い敵に襲われるという最悪な状態にも関わらず、まだ俺の体は寝ようとしているのだった。




