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スキルロバリー〜スキルなし判定されて異世界で放り出された俺が、ユニークスキル「スキル強奪」で闇社会の覇王となるまで〜  作者: 陰陽
第四部 妖精女王と運命の絆編

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第114話 とらえられた俺たち

「──じゃあ、俺たちはこっちから行くな!みんな気をつけて!」

「匡宏もな!」

「……一時の別れだけど、彼をよろしくね。

 早く、元の姿に戻れるといいね。」

 アシルさんが去り際に、目線の高さにかがみながら、ユニフェイに微笑んだ。


「──追手が来る前に行くぞ。」

 エンリツィオの言葉で俺たちは森の中でバラバラに散った。俺とアダムさん、ユニフェイが、並んで森の中を歩く。

「……すみません、俺の短絡的な行動のせいでこんなことに……。」

 俺は俺の護衛としてついて来てくれているアダムさんに、うつむきながら謝った。


「……俺も、奴らを許せませんでした。

 タダヒロさんの行動に、思わず目をつぶってしまった。護衛として、またボスの代わりの目として、あなたをなんとしても止めるべきでした。俺も同罪です。」

「アダムさん……。」


 アダムさんもうつむきながら俺にそう言ってくる。エンリツィオもアシルさんも、他の護衛の人たちも、口に出して言わないだけで俺と同じ気持ちなのだ。勇者召喚された人たちに限らず、いずれは全員を、虐げる王族の手から救ってやりたい。だけど元勇者を集めているエンリツィオ一家が、そもそも王族たちの目の敵にされているように、王族を面と向かって敵に回すのはリスクが高い。


 だから味方として引き入れるとかでもない限り、誰が殺されかけていようが苦しめられていようが、エンリツィオ一家は助けない。

 目先のことにとらわれて、あいつらを倒すための力を失ったら困るから。

 ルドマス一家の時のような、元々後ろ暗い連中を潰すのとは、わけが違うのだ。


「……俺、もっと大人になります。あいつらを全員ぶっ潰して、やり返されないだけの力をつけるまで、王族絡みで困ってる誰かを救うのは我慢します。

 それが今だけのことになっちまうくらいなら、助けないほうがいいだろうから。」


「──そうですね、……その方がいいと思いますよ。」

 アダムさんは微笑んでくれた。

 ──と、踏み込んだ足元が急にバランスを崩したかと思うと、俺の体が突然空中に浮かび上がる。

「──うわっ!?」


「タダヒロさん!?」

 浮かんだと思ったのは、俺の手足が出せるくらいの、デカい網目の投網みたいなものに全身が包まれて、体が持ち上げられたからだった。なんだ?獣用の罠か?

 くそっ!俺は風魔法で投網を切り裂こうとした。──なんでだ!?魔法が出せない!?


「タダヒロさん、それは魔法スキル封印のかけられた縄で編まれているようです!

 今切りますから待っていて下さい!」

 アダムさんが俺に近寄ってくる。

「うわっ!?」

「キャン!?」

「アダムさん!?ユニフェイ!」


 2人が俺と同じように投網のような罠にとらえられて空中に釣り上げられる。

 霧のような煙が、あたりに広まったかと思うと、それはゆっくりと濃さを増していきながら、俺たちの周囲を覆いだす。

 な……、なんだ……、急に……眠い……。

 駄目だ、寝たら駄目だ、寝たら……。

 だけど強烈な睡魔に勝てずに、俺は目を閉じてしまった。


 ──ハッとして目を覚ますと、そこは石造りの建物の中だった。俺は両手を木で出来た枷のようなもので拘束され、冷たい石の床にうつ伏せに寝かされていた。

「目が覚めたようだぞ。やれやれ、手こずらせてくれる。」


 俺の周囲を、鉄の鎧を着た兵士たちが取り囲んで見下ろしていた。

「なんだてめえら!!

 アダムさんとユニフェイをどうした!!」

「お前の連れの男と犬か?

 そいつらならとっくにあの世行き……というか、いずれそうなる運命さ。」


「──ウソつけ!

 あの2人がそう簡単にやられるもんか!」

 俺は下卑た薄笑いを浮かべた兵士を精一杯の威嚇を込めて睨んだ。

「お前ももうすぐそうなるんだ。

 さあ生きたまま食い殺される苦しみに怯えろ、お前はこれからあいつらと同じように、腹に蟲の卵を産み付けられるんだからな。」


「蟲の卵……?」

「──出せ。」

 俺の右側の石の壁がゆっくりと上に開き、奥から巨大な昆虫が姿を現した。黒くて丸くて、まるでコガネムシにクワガタみたいな巨大な角をつけたかのような、気味の悪い姿。


「──こいつは生きた動物の体内に卵を産み付ける蟲でな。卵が体内でかえったら、内臓を栄養にして、腹を食い破って幼虫たちが生まれてくるのさ。腹を食い破られるその瞬間まで、卵を産み付けられた生き物はずっと生きているのさ。体内で蠢く幼虫に、内臓を食われる痛みを感じながらもな。」


「なん……だと……?」

「──こいつの服を脱がせ。」

「あっ!やめろ!」

 抵抗虚しく、俺の下履きごと下着を脱がされ、上着をまくりあげられる。

「おっと、そのままじゃ、卵を産み付けられるところがお前に見えないな、ひっくり返そう。さあ、じっくりと見るがいい。腹に卵を産み付けられるその瞬間をな。」


 ころんとひっくり返され、体をおさえつけられながら、手枷を一度外されて、向きを変えて付け直される。そこに片足ずつ足枷も加わって、両端から引っ張られて、両足を閉じられないように、恥ずかしい格好にされた。

 兵士たちは反対側の扉の奥に逃げていき、扉につけられた覗き窓から、ニヤニヤとこちらを眺めていた。


「く…くるな。」

 ゆっくりと巨大な蟲が俺に近付き、体の上にのしかかる。蟲の腹の足の付根が見えるのが気持ちが悪くて恐ろしかった。

 蟲の尻から黒光りする太くて尖ったものが飛び出し、俺の腹にブスリと刺さって、焼けるような鈍い痛みを感じる。


 だけどそれはほんの一瞬で、同時に腹に刺さっている太い針から、麻酔液でも流しているのか、針の痛みはすぐに感じなくなった。

「ああっ!?」

 な、中に入ってくる……。なにか、細長い楕円形の、冷たくてかたい異物が、無理やり体内に侵入する感覚。それが次々に腹の中に吐き出されていく。


 で……出てる……。

 俺の腹の中に、こいつの卵が……!!

「うわあああぁああああぁ!」

 これをされたってのか!?ユニフェイもアダムさんも!?それじゃ今頃2人は……。

 今が無事でも、卵がかえったら……!!

 腹が押されて吐きそうで苦しい……!!

 も、もう入れんな!入らね……え……。

 俺はいつしか気絶していた。


 ──視界が真っ暗だと思っていたのは、自分が目を閉じていたからだった。エンリツィオがゆっくりと目をあけると、自らは後ろ手に縛られていて、そこは処刑場の前だった。

 両脇に立った槍を持った兵士たちが、行く手を阻むようにエンリツィオの前で槍を交差させている。


「……石壁を殴った気分はどうだ?

 お前は所詮仲間を救えなかった。こうして奴らは死んでいく。お前たちが王族にさからったからだ。大人しく国の為に死んでいればよかったものを。」

 下卑た笑い声が響く中、エンリツィオは微動だにせずに兵士たちを見据えていた。


 後ろ手に縛られている拳がひどく痛む。こいつらの言う通り、石壁を殴って破壊し、脱出を試みたのだろう。

 だが、今まさにカール、ローマン、フランツが処刑されようとしている。そしてエンリツィオはそれを見せられているのだった。


 エンリツィオの横にいた、一人少しだけ質のいい鎧を身に着けた男が、磔にされ、吊り下げられた部下たちのところに歩いていく。

 恐らくこの場で一番えらいのだろう、兵士長かなにかだろうか。兵士たちは男が近付いてくると、サッと敬礼をした。兵士長は兵士の一人の持っていた槍を受け取った。


「──人間は皮膚をはいでいくと、最高でも半分の段階で死ぬんだ。こいつらはいつまで持つだろうな?」

 笑いながら吊り下げられたカール、ローマン、フランツの足に槍で切れ目を入れる。

「──さあ、皮をはげ。」


 兵士たちが、まるで精肉の解体業者かのように、手際よく3人の皮をはいでいく。

「うわああああぁ!!」

「やめて……!もうやめてくれ……!」

「殺せ……、殺して……。」

 足元に血がたまってゆき、筋肉と脂肪がエンリツィオの位置からも見えた。


 エンリツィオは瞬きもせずに、それをじっと睨んでいた。

「お前が一言、王族に従うと言えば、こいつらは助けてやろう。どうだ?

 このままでは、お前の可愛い部下たちは死んでしまうぞ?」


「──断る。どうせ従ったところで、てめえらは俺の心を折りたいだけだ。どっちにしろあいつらは死ぬ。ならさっさと殺してやったほうが、あいつらの為だからな。」

 耳に流し込まれる部下たちの悲鳴を聞きながら、涼しい表情でエンリツィオは答えた。


「まったく可愛げのない男だ。お前を可愛がりたい王族はたくさんいてな、お前だけは生きたまま連れてこいと言われているんだ。

 お前の皮をはいでやれなくて残念だよ。」

 兵士長はこの処刑方法が趣味なのだろう、下卑た笑いをエンリツィオに向けた。


 悲鳴が断続的に続いていたが、ついに死者が出た。そして次々と、耐えきれずに死んでいくエンリツィオの部下たち。

「やれやれ、最後までなんの反応も示さんとはな、面白みのない。王族に引き渡すまでに、少しこいつを苦しめてやれ。」


 兵士長は部下のような男にそう告げる。

「はっ。どのように?」

「灼熱部屋に送り込め。水もやるな。

 しばらくすれば、こいつももう少し大人しくなるだろうさ。」

「はっ!」

 部下の兵士はそう言って、無理やりエンリツィオを立たせて歩かせた。


「──やつはどうしてる。」

 兵士長はグラスにつがれた酒を飲みながら、優雅に部下の兵士に尋ねた。

 エンリツィオを灼熱の牢獄に送り込んでもう7日経つ。その間、水も食料も与えていない。そろそろ音を上げてもいい頃だった。

 なんだったら死んでいるかも知れないな。

 男はそう思って笑った。


「──灼熱の牢獄の中で、日々体を鍛えております。」

「なんだと?気でも触れたか。」

 エンリツィオは灼熱の牢獄の中で逆立ちしながら指立てふせをしていた。一定時間体を動かすと、汗を拭いた服を絞って、窓の鉄格子に塗りつけ、残りをすすって飲んだ。エンリツィオはじっと鉄格子を睨んでいた。


 兵士長はエンリツィオの様子を見る為に、灼熱の牢獄のある特別塔にやってきた。塔の中は空洞になっていて、この部屋の為だけに下から火をたいている。石壁には熱が伝わらないようにしてあるので、手をついても火傷したりはしないが、上に近付くにつれてだんだんと汗がふきでてきた。


「ここは立っているだけで汗が出るな。

 ……まったく、気分が悪い。」

「はっ。さようで。」

「やつを見に来た。様子はどうだ。」

「大人しくしております。」

「どれどれ。」


 兵士長が鉄格子のはめられた窓から中を覗き込むと、エンリツィオがまるで心が折れていない目で、ギラリとこちらを睨んできた。

「──あの目つきが気に入らぬ。」

「は……。ですが、やつは痛めつけても反応がありませんで……。」


「──やつの手足の腱を切ってしまえ。どうせ王族に引き渡せば、毎晩可愛がられるだけの毎日だ。動く手足なんぞいらんだろう。」

「かしこまりました。」

 兵士は言われるがままに、エンリツィオの手足の腱を切る為の武器を取りに、兵士長と共に灼熱の牢獄から引き上げていった。


「……そろそろだな。」

 元々錆びていた窓の鉄格子は、エンリツィオの腕力で折れるまでに至った。強く手前に力を入れると、下側がボッキリと折れる。

 上は折りきれなかったが、殆ど折れたので下の部分をひん曲げて上に向けた。


 窓枠に指を引っ掛けて体を持ち上げると、頭を入れて左肩の関節を外し、上半身を外に出して、右腕で左肩の関節を入れ直した。下の部分の折れた鉄格子の先端が、皮膚を切って血が吹き出たが、エンリツィオは気にしなかった。窓枠に足を引っ掛けてぶら下がりながら、体の向きを変えて外に出た。


 格子窓から全身が出ると、壁の傷に指を引っ掛けて、そのまま壁を伝い降りていく。

 古い石壁は傷だらけで、指を引っ掛ける場所に事欠かなかった。

 エンリツィオは難なく地面に降り立つと、そのまま人里を探して牢獄を離れた。


「──逃げた!!やつが逃げたぞ!」

「まだ遠くには行っていない筈だ!

 探せ!草の根を分けても探すんだ!」

「くそっ!せっかくとらえたというのに逃げられたとあっては、やつで遊んでいた俺の身も危ない……!エンリツィオめ……!」


 ──コンコン。

「はい?」

 牢獄の近くの村を、兵士たちが尋ねて回っていた。扉を叩かれた家の中から、若い女性が出てくる。

「この近くの牢獄のものなのですが、とらえていた若い男が逃げ出しまして……。

 この村にもやってくるかも知れません。

 怪しい男を見ませんでしたか?」


「さあ……。このあたりは知り合いばかりですから、知らない人がくればすぐに分かりますけど、そんな人は見なかったですね。」

「そうですか、凶悪犯です、見かけたらすぐに我々に知らせて下さい。」

「分かりました。」


 扉をしめた若い女性は、ふう、と胸に手を当てて大きく深呼吸をした。

「──行ったわ。疑ってもないみたい。」

「ハッ。間抜けなヤロウだ。俺はすぐ近くにいるってのにな。」

 ベッドの上に裸で横たわっているエンリツィオは、頭の下に自分の前腕を入れ、腕枕をしながら若い女性を見てニヤリと笑った。


「ねえ……。上手に追い返したでしょう?

 だから……ね?」

「──俺はまだ休んでいたいんだ。

 お前が勝手に上に乗るなら構わねえぜ?」

「もう……、いじわるね。

 ……いいわ。」

 若い女性は服を脱ぎながらエンリツィオに近付いていった。エンリツィオは腕枕をしながら、自分の上で揺れる裸の若い女性を眺めていた。


「──ここは……。」

 アシルさんが目を覚ますと、両手両足を縛られて、床に転がされていることに気が付いた。周囲は酒盛りしている兵士たちに囲まれている。

『僕は捕まったのか……?

 他のみんなはどうしたんだ……。』


 周囲を見渡すも、どうにもそれらしい姿が見えない。目の前の兵士たちはなぜか鎧の下は下半身丸出しの状態だった。ガハハハと笑いながら、何やら動かしている。

『なんだ……?何をしてるんだ……?』

「おっと、ようやくお目覚めのようだぜ。」


「随分長いこと寝てたもんだ。

 おかげで肝心なところを見せられなかったじゃねえか。

 まあいい、これからタップリとお前にも見せつけてやるからな。」

「ああ、そうだ、これはお前に返すぜ。」

 兵士が何やら手に握っていたものを、アシルさんの顔に放り投げた。


 顔にぶつけられたそれに、思わず目をつぶる。大して痛みを感じず、アシルさんが目を開けると、目の前に散らばっていたのは、小さな子どもの歯だった。

「──お前の子どものものだ。

 小さすぎて入らなかったが、歯を抜いたらなかなか具合の良い穴になったぜ。」


 アシルさんの全身から血の気が引いた。

 下卑た笑いを浮かべながら男たちが動かしていたのは、気絶したアリスちゃんだった。

「──アリス!アリス!!!!!」

「おっと、大人しく見ていろ、俺たちの番が全員済んだら、お前にも回してやるからな。

 自分の愛する娘とやれるんだ。

 お前も嬉しいだろう?」


 アシルさんは上から体重をかけておさえつけられて、口に猿轡をかまされた。そのまま兵士に上に座られて身動きが取れないまま、壊れた人形のように兵士たちの間を移動していくアリスちゃんを見ているしかなかった。

「〜〜〜〜〜!!!!!

 ムゴゴ、モアッ!!」


「はははは、何言ってるか、分からねえよ。ちゃんとしゃべれ。」

 男たちが笑っている。アシルさんはボロボロと悔しそうに涙を流した。

『なぜ……!どうして……!

 こいつらどうやってここにアリスを……!

 エリス……、エリスはどうしたんだ!?』


 ──次の瞬間、アシルさんは息を飲んだ。

 台の上にあおむけに大の字に貼り付けにされたエリスさんが、裸のまま、だらりとその四肢を投げ出している。

 逆さまにこちらに垂れ下がった頭。その目はカッと見開かれ、アシルさんのほうを向いていたが、その目には何もうつしてはいなかった。

 アシルさんは声にならない悲鳴を上げた。


「──ん?」

 恭司はザワザワとした音に目を覚ました。

『なんだここ……。森じゃねえ……。

 どこだここは……。』

 あたりをキョロキョロと見回す。

『ここ、ナルガラじゃねえか!!』

 先程まで獣人の国の近くの森にいた筈なのに、恭司はなぜか懐かしいナルガラ王国の城下町にいた。


『俺は匡宏やアニキたちと、妖精国に向かってた筈だ……、なのになんで突然、こんなとこに……?』

「どいたどいた!勇者様たちが、魔王討伐に出発されるぞ!」

「勇者様ー!!お願いします!!」

「必ず魔王を倒して下さい!」


 歓声に振り返ると、2組のクラスメートたちが、大勢の国民に手を振られる中、誇らしげに装備を身に着けて、城を出発するところだった。

「──おい、お前ら!騙されるな!

 魔王は敵じゃねえんだ!王族に利用されてるだけなんだ!お前らこのまま魔族の国に行ったら、おっちんじまうだけだぞ!?」


 だが、周囲を羽ばたく恭司の声は、2組の誰にも届かなかった。

「──なんだ?このフクロウ。俺たちにまとわりついてくるぜ?」

「かわいい!

 昼間にフクロウなんて、珍しいわね!」

「おい、何言ってんだ、なんで俺の言葉がわからねーんだよ!?」


 恭司は神獣。人間の言葉を話す魔物。その言葉が通じない人間は存在しない。それなのに、2組のクラスメートたちだけでなく、ナルガラ王国の誰一人として、恭司の言葉が届かなかった。

「おい、待てよ、待てって!」

「──キョーちゃん?」


 振り返ると、サンディが驚いた表情でこちらを見ていた。

「やっぱりキョーちゃんだ!

 どこに行ってたの?ずっとずっと、探してたんだよ?かえってきてくれて嬉しい!」

 サンディが笑顔で恭司にその手をのばす。


「サンディ!!頼む、とめてくれ!俺のクラスメートたちが、むざむざ死ぬ為に魔族の国に送り込まれちまう!」

「死ぬ為に魔族の国に送り込まれる……?

 どういうこと?」

「俺の言葉が分かるのか!?サンディ!」


「──やはり魔物の言葉が分かるのだな、魔女よ。」

 突然大勢の城の兵士たちがスッと現れたかと思うと、サンディの周囲を取り囲んだ。

「そのフクロウは魔物。魔物の言葉が分かるのは、魔族だけだ。お前は人間のフリをしてこの国に潜り込んだ魔女だ。」


「何言ってんだ!?お前らふざけんな!

 サンディはこの国の上級役人の娘じゃねーか!生まれた時から人間だ!

 それにお前らだって今まで俺の言葉が分かった癖に、なんで突然サンディにしか分からなくなっちまってんだよ!?」


「殺せ!魔女を殺せ!」

「人間のふりをして、ずっと俺たちを騙していたんだな!」

「八つ裂きにしろ!」

「キョ、キョーちゃん……。」

 取り押さえられたサンディに、城の兵士たちの武器が向けられる。


「魔女は見つけ次第処刑する手筈になっている。お前に弁明の余地はない。

 ──最後に言い残す言葉はあるか。」

「キョーちゃん……。

 ……──大好き……!!」

 サンディが泣きながら、恭司にほほえみかける。

「サンディー〜〜〜!!!!!」

 恭司の目の前で、サンディの首は、無慈悲にも切り落とされた。

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