よどんだ空気、死んだ空気だ。なるほどね、こいつら全員が選りすぐりの衰運
車から降ろされた直貴はある建物の中に通された。中には既に何人もの直貴と同じ境遇でここに集められた奴等がいた。俯いたままずっとぼぉっとしている奴。落ち着き無くあちこちをうろうろしている奴。
なるほどね。この建物の全体の空気が濁ったようによどんでやがる。これはこいつらの発するどうしようもないほどの負のオーラ。全く覇気が感じられない。これからどんなゲームをやるのかは知らないが戦うって気構えが全く無い。それどころか、「なんで俺がこんな目に」「早く終わらねぇかなぁ」とでも言いたげ。やる気が感じられねぇなんてもんじゃねぇ。今から始まることすらもどうでもいいといった感じ。自分の未来に関して全くまじめに向かい合おうとしていない。ここまで来て、ここまで落ちてまだ気付いていないのか?自分達の置かれた状況に。
勝てる。こんな奴らに負ける気がしない。悪いが俺はお前らよりほんの少しだけ早く目が覚めた。
直貴は近くの壁に寄りかかると静かに待った。まもなく部屋の奥から何人かのスーツを来た男達が現れた。その中に一年前直貴と麻雀をした男の姿もあった。
あ、あの野郎・・・今に見てろよ。
「大変長らくお待たせいたしました。今回のゲームへの参加者四〇名全員が到着いたしました。それでは早速はじめましょう。呼ばれた人から順にこちらへ御越しください。まずは遠藤様。」
遠藤と呼ばれた男が前へ出て行った。
スーツを着た男達は遠藤と呼ばれた男に言った。
「遠藤様、こちらに現金三〇〇〇万円と銃火器を用意いたしました。あなたはどちらをお望みでしょうか?」
???なんだ?その質問は?
「どういう意味ですか?」
遠藤と呼ばれた男も困惑して聞いた。
「その質問にはお答えできません。ご自分の意志でどちらか一方をお選びください。」
な、なんだ?いったい?遠藤と呼ばれた男は少し考えた挙句、金を選択した。
「かしこまりました。それでは遠藤様、貴方に三〇〇〇万円差し上げます。」
スーツの男は現金三〇〇〇万円を遠藤に手渡した。
「お、おい、これはいったいどうなってんだ?」
「申し訳ありませんが、その質問にもお答えできません。受け取りが済んだのならお下がりください。次、堀川様・・・」
おいおい?どうなってんだいったい?何もしないうちにいきなり三〇〇〇万だと?借金を返済どころか二〇〇〇万の浮きじゃねぇか?いったいなんなんだ?
スーツの男達が持ってきたものは正真正銘本物の現金だった。実際近くで見てみると間違いない。金を選ぶだけで金がもらえる?そんなはずは無い。そんな訳無いだろ?しかし、目の前に置かれた大金が人々に冷静さを失わせる。呼ばれた人達は順番に金をもらって帰ってくる。
そんな時、後ろから声が聞こえた。
「へっ、馬鹿どもが・・・。」
振り返るとそこにも男がいた。別段変わったところは無い。俺達と同じ負債者の一人だろう。
「次、及川様」
スーツの男の声でその男は前へ進んでいった。そして言った。
「銃をくれ。」