一〇〇円玉の上の命
「さて、じゃぁ今から堀川君には命をかけたコイントスを行ってもらうわけじゃが、それにあたって君にはあるものを口に含んでもらいたい」
鈴木はそういうと部下達に あるもの を持ってこさせた。
「爆弾じゃ、この大きさじゃとたいした威力は無いが、口の中で爆発したら文句無くあの世行きじゃ。爆発は喉を通って内臓に達し、内側から弾け飛ぶ。両目、両耳、両鼻から噴火のように血肉を噴出し、一瞬にして触覚を除く全ての感覚を失うんじゃ。無味無臭、静寂と暗黒の世界、苦痛に耐えながらおよそ二分ほどその世界を彷徨った後、君はゆっくりと死に行くんじゃ。どうじゃ?恐ろしいじゃろ。ふっふっふ・・・」
さっきまでの男の人生だとか真剣勝負を高らかに語っていたじじいの言葉とは思えない。こいつ、もしかすると五十嵐なんかよりずっと質が悪いかもしれない。
鈴木の部下が堀川の口の中へ爆弾を押し込もうとした。
俺は鈴木の部下を押しのけて堀川の正面に立ち言った。
「おい、堀川!まだ間に合う!やめるって言え!こんなの男の勝負でもなんでもねぇ!」
堀川は小さな声で返してきた。
「いや・・・この勝負・・・受ける。 俺は・・・もう逃げない」
「お、おい!馬鹿か!感化させられてんじゃねぇ!それは勘違いなんだよ!男だとか人生だとかそういった言葉に惑わされるな!爆弾食えって言われてんだぞ!こんなの男も糞も無い!誰だって逃げるに決まってんだろ!」
俺は堀川を説得しようとしたが、鈴木の部下に無理やり引き剥がされた。
「全く、川畑君もしょうがないのぅ。堀川君がやっと覚悟を決めたって言うのに、その覚悟に水を差すようなことをしたらいけんよ。さぁ、堀川君の気が変わらないうちに一思いにやってしまおうじゃないか」
堀川の口に、小型の爆弾が押し込まれ、上からガムテープで何十にも塞がれた。
直貴の一〇〇円玉には黒いマジックで『表』『裏』と記入された。
「表が出たら堀川君の勝ち、裏が出たらわしの勝ち、良いな」
鈴木がそう言うと、堀川は頷き、紙に『表:堀川 裏:鈴木』と記入された。
「さぁ、川畑君よ。思い切って放っておくれ。堀川君の人生をな」
鈴木は楽しそうに言った。
「馬鹿野郎!俺は投げない!こんなの認めねぇ!」
俺が叫ぶと鈴木はめんどくさいなぁといった表情で返してきた。
「わかったわかった。何が欲しいんじゃ?金か?」
金がほしいんじゃねぇ。お前らみたいなのがただムカつくだけだ。
と思っていたその時、ふと思いついた。
鈴木は俺達のやったゲームを見ていたはずだ。それなら、綾や及川の居場所も知っているんじゃないか?
「なぁ、爺さん、ゲームの終了間際に、ゴール地点でいったい何が起こったのか教えてくれ」
鈴木は何だそんなことかとぶつぶつ言いながら話してきた。




