ここには最初から『勝負』など無かった・・・
「きっさまぁ~!!!最初っからそのつもりだったんだな!勝っても負けても金なんて払う気はねぇ。ここでやった殺人ゲームも全部そうなんだな!貧乏人を集めておもちゃにして、そんで笑って見てる。最初から俺達は馬鹿にされるためにここに連れて来られたんだ!ちきしょう!!!みんな命がけだったんだぞ!舐めやがって!ふざけやがって!!!」
直貴の我慢はもう限界を超えていた。
「いえいえ、そんなことはありません。貴方には勝ち分の残り金額およそ一〇〇〇万円を差し上げますとも、ただし、それは悪魔でも『現在はそのつもり』という意味です。我々の気が変わらないように貴方はこれ以上騒がない方がいい。金を受け取るまでは・・・」
五十嵐はニヤニヤと笑いながら言った。
ちきしょう・・・ちきしょう・・・
直貴は五十嵐を睨みつけながらそう思ったが・・・もう何も言えなかった。
その時、奥の部屋から誰かの声が聞こえた。
「何をやっておるんじゃ?」
見てみると、奥の方から小太りな爺さんが杖をつきながらこつこつと歩いてきた。
五十嵐は爺さんを見ると突然、かしこまりだした。
「鈴木様、いったいこんなところで何をしていらっしゃるのですか?ゲームは終了いたしました。用がお済みでしたら、今日のところはお引取りを願います。おい、お前達、鈴木様を御送りしろ!」
五十嵐の態度からするとどうやらこいつは五十嵐の客、つまり俺達のやったゲームに金を賭けていた連中の一人のようだ。
「まぁ待て五十嵐、わしは今、賭博に負けて悔しいんじゃ、何かで鬱憤を晴らしたくて仕方ないんじゃよ。そんなところにお前達がなにやら楽しそうなことをしておるではないか。まぁ、話だけでも聞かせて見てもよかろう」
鈴木と呼ばれた老人に押され、五十嵐は今ここで起きたことを説明し始めた。
たった今、俺は五十嵐のごり押しで勝負を反故されていた。その五十嵐がこんな老人一人のごり押しでなすすべも無いとは・・・金を持っているってことがそんなにえらいのか?
「なるほどなるほど、この敗北者堀川君の命を賭けてコイントスをしていたという訳か。面白い。実に面白いのぉ。しかし、堀川君、こんな奴らとギャンブルをしては駄目だ。こんなイカサマ師とギャンブルをやってたんじゃ金も命もいくらあっても足りないというものだ」
爺さんは貼り付けにされていた堀川に向かって話し始めた。ギャンブルをやってたのは俺だぞじじい。
「君は助かりたいそうじゃな。助けてほしいか? ・・・だめじゃ。わしはお前を助けたりはせん。残念ながらな。 しかし、しかしだ堀川君。わしとギャンブルしたまえ、わしに勝てたら君の命を助けてやろう」
じじいは堀川にしゃべり続けた。鬱憤を晴らす場所を見つけたとでも言わんばかりに生き生きと笑いながら。