『助けて』 なんて自分勝手な言葉だ 『許せ』 自分勝手な言葉を返し、見捨てる
直貴は顔面がぼこぼこになってむせかえっている堀川を見た。
目、鼻、口からぼたぼたと垂れる血液、腫れ上がった瞼や頬。
「ゲホッ!!!ゲェェッッッ!!!」
突然咳き込むと口からは唾液交じりのどろっとした血液と共に白いものが二、三個転がり落ち、床の上を カツカツ と少し跳ねた。 歯だ。殴られて抜け落ちたのだろう。
堀川が少しだけこちらを見た。表情などもはや見受けられないほどぼこぼこの顔からうつろに浮かび上がるその目、目が合った!
目が合ったのはほんの一瞬だったが、背筋が凍った。
そんな眼で見るんじゃねぇ!
俺が悪いんじゃない!
俺が悪いんじゃない!
俺が悪いんじゃない!
目をそらして何度もそう繰り返した。金を奪わなかったら俺がああなってたんだ。
これは仕方ないことなんだ。許せ・・・。
直貴はもう堀川のことは考えないことにした。
そんなことより
「なぁ、俺より先にこのゲームをクリアした奴がいるはずなんだ!そいつに会わせてくれ!!!」
直貴は五十嵐に向かっていった。
「いえいえ、ですから先ほども申しましたとおり、勝者は貴方一人でございます」
五十嵐は依然そう返した。
「そんなはずないだろ?そこの門の前でたぶん二人が戦ったはずだ。爆弾みたいなものが弾けた様な後が残ってた。堀川って奴か綾って女がここに来たはずなんだ!!!」
「はて、そう申されましても・・・」
「とぼけんじゃねぇよ!どっちか来てるはずなんだ!どっちだ? 教えろ!」
直貴は五十嵐につかみかかろうとしたが近くにいた部下達に取り押さえられた。
「川畑直貴様、貴方以外の勝者は一人もおりません。申し訳ありませんが、我々がお答えできるのはそれだけです。他の参加者の生死、および行方に関しても一切お答えすることはできません。ゲームは終了いたしました。現金を受け取ったら速やかにお帰りください」
五十嵐が言うと部下達は直貴を無理やり連れて行こうとした。
その時、後ろからかすかな声が皆の足を止めた。
「・・・・待ってくれ・・・。た、すけてくれ・・・」
堀川だった。全身から振り絞った小さな声は『助けて』そう言っていた。
「馬鹿ですか貴方は!自業自得でこうなったというのに、ここに来てまたわがままを言うとは、自分勝手にも程がある!貴方を助ける人なんて誰もいませんよ。」
五十嵐はそう言いながら堀川に近づくと堀川のわき腹をもう一発殴った。
ぶはぁぁっっっ・・・! びしょびしょ・・・ゲロまみれの血液が床に滴った。
かわいそうな気もするが、俺はもう「やめろ!」とは言えなかった。
結局俺は口ではやめろといっても、行動には移さないのだから。力ずくでやめさせるか、あるいは今俺が手にした金を使えば助けることはできるかもしれない。しかし、危険を冒したり、割をくってまで助けることは絶対にしない。
心にわきあがる罪悪感に向かって「許せ」と自分勝手な一言を吐き捨て目を背ける。
表面や口先だけで同情するのはただの偽善、『俺は一応止めたからな。』と俺の心に言い聞かせたいんだ。そうやって何とかして罪悪感から逃げようとする。ずるくて汚い心理。
堀川がこんな目にあったのが俺のせいだと言うのなら、せめてその罪悪感は全て受けよう。
そんなことを考えているところへ堀川は最後の力を振り絞って一言、言った。
「門の・・前で ゴブッ!! 何が起きたのか・・・ 知って・・・る。」