俺が本当に銃を向けたいのは、そいつではない。
「動くな!!!」
直貴は堀川の後ろを取って銃を突きつけていた。
「な、なんだよ・・・おい、もう制限時間は過ぎたはずだぜ。ゲームは終わったんだ。銃をおろせよ・・・」
堀川は突然背中に突きつけられた銃口に驚いて言った。
「馬鹿か!そんなルール誰が守るってんだ!こんな殺し合いゲームにルールなんて最初から無かったんだよ!『金を持ってゴールする』しいて言うならルールはそれだけだ!わかったらさっさと金を出せ!!!」
堀川は今ゴールしようとしてここへ来た。つまり、金は必ず手元にあるはず。そう、今まで散々使われてきた『金を隠す』って手、これは今回に限り使用不能。いざとなったら殺してしまっても死体からきっと金は出てくる。そういった意味では背後を取った時点で躊躇なく殺すのが最も確実だったろう。
しかし、直貴は殺さなかった。結果として、堀川から金を奪えば堀川は生きていたとしてもこのゲームの敗北者となる。それによって堀川は殺されるかもしれない。いや、死んだ方がましと思えるような処遇にあうかもしれない。それはわかっている。それでも直貴はできれば殺したくなかった。なぜなら直貴も堀川も同じ被害者なのだ。直貴が真に銃口を向けたいのは堀川ではなく、俺達をこんな目に合わせた張本人、五十嵐とかいうあの詐欺師なのだから。
堀川は悪くない。悪くない。しかし、同情などできない。同情というのは金持ちが優越感を得るために貧乏人に行う行為なのだ。貧乏人が同情という感情を持つのは贅沢なことなのだ。
直貴は銃を握りなおし、強く突きつけた。
「ちきしょう!!!見てろよ!!!制限時間は過ぎたんだ!この金は俺の物なんだ!不正があったってことを奴らに報告するからな!!!」
堀川は三〇〇〇万を地面に叩きつけると全速力でゴールへ向けて走っていった。
まぁ関係ないだろう。不正だ何だとわめかれようとこの映像もおそらく奴らには筒抜けなんだから。
そんなことより、ついに手に入れた。三〇〇〇万。
さて、門の向こうで会えるのは 及川か? 綾か?
仮に、綾と再開できたとしたら、それは綾が俺を裏切ったことになる。
綾が裏切っていないのなら・・・及川がそこにいるのだろう。
やれやれ、やっと勝利を手にしたというのに、なんて気分が悪いんだ。
直貴は金を拾うとゆっくりと歩いてゴールの門をくぐった。