奥の手は隠し持て、使う直前まで誰にも見せてはいけない
直貴は爆発でできた瓦礫の中へ迅速に潜り込み、息を潜めた。直貴は事前に考えていた。最悪な事態が起きてしまった場合、自分は一体どうすればいいのか。それを考えていたからこそ、全速力でここまで走ってきたのだ。
パソコンの画面が消えてから俺がここまでたどり着くまで、それほど時間は経っていないはず、間に合っていてくれ!俺の、奥の手。
直貴の考え、それは奥の手なんて大層な物じゃない。ある一つの可能性に着目してみただけ。ただし、今まで騙されて終わりだった直貴にとってこれは大きな進歩といえる。作戦が失敗した場合どうするかを事前に考え、それを仲間にも黙っておく。直貴は学習したのだ。いい加減自分の未来を他人に任せきってしまってはいけないということを。窮地から抜け出せるのは自分の力に依ってのみだということを。
ガサ・・・ガササ・・・
それは直貴が隠れてから間もなくの事だった。小さな足音がもう一つこの場所へ近づいていた。堀川大輔だ。
直貴は監視カメラの映像で及川と松下の戦いを監視している最中も、綾と及川の距離を測っている最中もずっと他のあらゆる場所のカメラに気を配り、探していたのだ。堀川大輔がどこかに映りはしないだろうかと。
結果、パソコンがブラックアウトするまでの間一度として堀川はカメラの前に姿を現さなかった。居場所を突き止めることはできなかったが、ゴール地点のカメラにも移らなかったのだから、ゴールしていないことは確認できたことになる。パソコンのブラックアウトからまだたいして時間は経っていない。堀川はまだゴールしていない可能性が十分に考慮できる。もし堀川がゴールしてしまっていたら直貴にとって完全な敗北が確定していた。しかし、直貴の読みは的中、堀川はまだゴールしていなかった。そして、たった今、ゴールを目指してここへやってきたのだ。
がさ・・・がさ・・・
あたりをきょろきょろと警戒しながらゆっくりとした足取りで堀川は現れた。直貴の存在には気付いていないようだ。
やはり来たな、堀川大輔。直貴は瓦礫の下で静かに思った。
堀川はこのゲーム中に残された最後の金、三〇〇〇万を持っているはずだ。このゲームに勝つためにはそいつをいただくしかない。もう他に方法は無い。悪く思うなよ。
直貴は銃を握り締めた。