他人を基本的に信じる。基本的に合わす。結局学習しちゃいなかった。何も・・・
俺は自力で松下を倒しに行くことを頭の中でイメージしてみた。俺は、松下の隠れている場所を知っている。松下のいる建物にうまく潜入し不意打ちで一撃、運がよければ倒せるかもしれない。その後、金を奪いゴール地点まで逃げる。その間に俺を狙ってくるのは及川、綾、堀川?・・・だめだ。まるで想像がつかない。全くと言っていいほどに策略が無く運任せだ。相手は素人離れした化物達だ。これじゃ、勝負は見えている。
次に俺は綾とこの作戦を遂行した時のことをイメージしてみる。監視カメラのデータを見ながら綾に指示を出す。ゴール地点で待ち伏せする綾に的確な指示を送る。・・・作戦は無事成功。しかし、綾は俺を無視してゴール。・・・だめだ。綾が俺を助けるイメージは全く浮かんでこない。ここのところの騙され続きでそんなイメージが湧くはずが無い。
俺は、どちらを選択するにしても、どんな結果が想像できるかをあらゆる方向でイメージしてみた。
・・・だめだ。どうやっても確実に俺が助かる目はもう無い。このゲーム、俺にとってもう手詰まりだ。この状況を打破するには何か想像もできないイレギュラーの発生が不可欠。俺自信が頑張るだけではもうどうにもならない。そんな気がした。
そして、それからさらにいろいろなことを考えた後、直貴は言った。
「なぁ、あんた、借金はいくらなんだ?」
俺は綾に問い掛けた。
「・・・・」
綾は答えなかった。
「まぁいい、そんなことはそのパソコンの参加者個人データを見ればわかること」
俺は黙ったままの綾に向かって話を始めた。
「仮にあんたの借金は三〇〇〇万としよう。もしそうだとしたら、お前は危険さえ冒さなければもうこのゲームクリアしたも同然だ。何せ、俺と遠藤が隠していた金を今はあんたが持ってるんだろ?あんたの命はほぼ確保されている。あんたにとってここから先は儲けがいくらになるかの話になる。すると問題が発生するんだ。あんたの作戦に俺が乗ったとする。しかし、及川が予定とは大きく違う状況で現れたら、たとえば、マシンガンのような銃火器を持って防弾チョッキなどで完全武装して表れた場合、おとなしく隠れていればいい。わざわざ殺されに行くようなことをしなくても今持っている三〇〇〇万でとりあえず命だけは助かる。しかし、それじゃ困るんだ。俺はお前に命というチップを張るわけだ。たとえ及川が戦車に乗って現れようと戦って倒してもらわなきゃならない。お前が、及川にビビって戦うのをやめておとなしく命だけ確保してゴール、それだけは避けなきゃならない」
直貴は冷静に話を続ける。
「お前にとってのこのゲームの負けは『及川に殺される。』それだけだ。しかし、俺にとっての負けは『お前が及川に殺される』、『及川を倒すことはできてもお前が俺を切ってゴールしてしまう』、『お前がビビって及川との戦いを直前で止めてしまう』。三つもある。そして、その内前者二つは今の俺にはどうすることもできない。しかし、後者の件に関しては対策が打てる」
直貴は一息ついてから続ける。
「俺が今から言う条件を呑むなら、お前に協力する。そして、こんな言葉を使いたくは無いが、お前を 信じる」