あの麻雀から・・・一年経った。
あの後、直貴は外にいたヤクザな人達にボコられ、聞いたことも無い金融会社と契約を結ばされ、負け分を支払った。
ここから、直貴の人生は狂いだした。博打は何を打っても駄目、神に見捨てられたかのような引き弱、衰運。博打がうまくいかないことで気分が悪くなり、イライライライラとした感情から大学もバイトもサボってフテ酒、フテ寝の悪循環。当然バイトはクビになり、大学も留年。後はもう落ちるだけ、親の脛をかじっては馬鹿な仲間と夜まで遊び、それでも金が無くなれば、適当な金融会社に走り、安い酒を呑んだくれる。典型的ダメ人間。
しかし、それももう長くは続かない。いよいよもって金がない。ある日の暑い夏の昼過ぎ、直貴は部屋で一人で寝ていた。腹は減ったが金が無い。動くと暑いのでもうただだらだらと寝ていた。
そんな時、玄関のチャイムが鳴った。
ん?誰だ?ぼろアパートに一人暮らし、玄関の鍵はいつも開けっ放し。盗まれる物など無い。仲のいい奴ならそれを知っているためチャイムなど鳴らさずに勝手に入ってくる。この部屋のチャイムが鳴るのは本当に久しぶりな出来事だったのだ。
ふらふらとした足取りで玄関へ向かうと突然、蹴破るような乱暴な音を立てドアが開き、二、三人の悪そうな連中が入ってきた。
「な、なんだあんたら」
直貴は連中に羽交い絞めにされたまま外へ連れ出され、停まっていた車の後部座席に放り込まれた。両隣をがっちりとした体格の二人にガードされ、車は動き出した。
「おい、なんなんだあんたら?俺に何の用だ!?」
暴れながら叫んだ俺に運転手の男は静かに答えた。
「五十嵐ファイナンスの者ですが、一年ほど前にお貸しした三五〇万の返済が滞っておりましたので、お迎えにあがった次第でございます。」
五十嵐ファイナンス? ・・・・!!!
思い出した。ちょうど一年前、イカサマ麻雀で巻き上げられた時のあの金融会社!!!
忘れていた!!!完全に忘れいてた。なぜならこの会社、今まで一度も返済の要求をしてこなかったのだ。
「何言ってんだ!!!一年も何も言ってこなかったくせに今ごろになって来やがって!残念ながら三五〇万なんて金、俺を逆さに振ったって出てきやしないぜ!!!」
本当は怖くてたまらない。しかし、精一杯虚勢を張って言った。それに金が無いことも事実、さらわれようとどうしようと無い金は払えない。
「ご冗談を・・・あなたは月利一割で三五〇万もの金を一年も転がしたんですよ。元金、利息ともに一円も払っていないと言うことはあなたは約一〇〇〇万の借金を背負ったことになります。それに、我々は逆さに振る程度で済ますほど甘くありませんよ。あなたのような人間のクズでも、突っつき方次第ではいくらでも金が出てくるものです。」
運転手はそう言い終えると静かにスピードをあげた。