どちらが攻め役をやるのか? そんなことは察している。最も重要なのはその先
「どちらが攻め役でどちらがこの部屋での情報通信役か?ってことでしょ?当然だけど、攻め役はあたしがやるわ」
綾は危険な方の役を進んで買って出てくれた。いや、そうではない。これは当然のことなのだ。
「あぁ、そこのところに異議は無い。射撃技術一つ取ってみてもあんたの方が何枚も上手、戦闘に関してはあんたには到底叶わない。あんたが攻め役で俺がサポート役、そこのところに文句は無い。問題はその先にある」
「な、なにかしら?」
気のせいか?綾は一瞬とぼけたように見えた。
「仮に、この作戦が全て順調に行ったとする。そしたら、お前は及川の死体から金を抜き取り、速やかにゴールしてしまうだろう。そうしたら俺はどうする?散々手助けしてみた挙句、終わってみたら結局無一文のまま放置だ。及川さえ倒してしまえば俺はもう用済み、俺との関係なんて切ってしまえば六億はあんたが総取りできる」
「だ、大丈夫よ、なんせ六億よ、それだけあるんだから、独り占めなんてしない。あんたにもちゃんと分けてあげるわよ」
「黙れよ!俺はもう誰にも騙されない。俺達の間に信頼関係は無いんだろ?それにあんたはこうも言った。『及川を殺したら、あたしにとってあなたは用済み、その時は遠慮なくあなたも殺す。』ってね」
「そ、それは、あの時は気が立ってて、言葉の綾ってやつよ」
綾には明らかに動揺が見て取れる。やはり、用が済んだら俺を切るつもりだったのだろうか?
「この作戦、あんたが俺を絶対助けるという『保証』それが無ければ成立しない」
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重苦しい空気が流れた。さっきまで「携帯番号教えてくんない?」とか友達のように会話していたことを思い出すと、なんだか気分が悪かった。しかし、もう騙されるわけにはいかない。俺達は別に友達になったわけじゃない。この女に嫌われようと、このゲームが終わるまでの付き合いだ。気にする必要は無い・・・はずだ。それなのにまたしても気分が悪い。他人を疑うことがそんなに悪いことか?いや、悪くない、むしろ疑って当たり前のはずだ。そんなことはここ数日で身にしみて学習したはずだ。
重苦しい空気を断ち切って最初に話し掛けてきたのは綾だった。
「わかったわ、確かに、あなたの言う通り、そして、この期に及んで『あたしのことを信じて!必ず助ける。約束する』なんて言うつもりも無い。そして、あなたを助けることの保証をする術もない。・・・・だから、あなたに決めてもらうことにするわ」
ん?どういう意味だ?
「あたしを信じてこの作戦にのるか?それとも自力で及川、松下を倒してこのゲームを突破するか?あなたが好きな方を選びなさいよ。このゲームも言ってみれば一つのギャンブル、チップはあなたの命、好きな方に張りなさいよ」