秘策の全貌 よく考えろ・・・この作戦の穴
「作戦の内容は簡単だった。よく理解した。しかし、戦う相手について疑問がある。なぜ及川を狙っているんだ?現状をよく見てみると、あらゆる情報で武装した上に六〇〇〇万しか持っていない及川を狙うより、何も知らずに五億七〇〇〇万持っている松下を狙う方がいいんじゃないか?」
直貴は冷静に考えて質問した。
「なるほど、少しは頭を使うようになったわね。えらいえらい!」
綾はちゃかしてきた。
「ってめぇ、俺はまじめに話してんのに・・!」
「まぁまぁ怒んないの!理由は簡単よ。おそらく及川の狙いもあんたと同じ、向こうから見ればあたし達を狙う価値は危険なだけでほぼ無いと言っていいわね。だから、もう少し時間が経ったら及川はきっと動き出す。あの部屋を出て松下を倒しに行くはずよ。そして、及川がおそらく勝つでしょうね。あたし達はその隙にスタート地点、まぁその時はゴール地点になってるわけだけど、そこへ先回りして隠れる。及川、松下のどちらが勝ったとしてもそこには必ず来なければならない。何故ならゲームの中にあるのは金券であって現金ではない。換金するにあたって必ず奴らのところへ戻らなきゃならない。あたし達が狙うのはその瞬間になるわね。及川もその段階ではもう情報の武装は解除されているわけで、こっちの隠れている場所がばれることは無い。しかし、こっちは相手の居場所を携帯からリアルタイムで知ることができる。どう?完璧でしょ?あたしが、及川を倒すって言ったのはそういうこと。」
綾は自信満々に説明した。
「いや、その考えは甘い。及川は松下を倒した後、再び隠れる。そして制限時間を過ぎてゲーム終了後にゴールへ帰ってくる。そうしたら俺たちは負けじゃないか?」
直貴の返事を聞いて、綾は呆れかえっていた。
「あのね、制限時間が過ぎたら殺しちゃいけないって誰が言ったの?お金の取り合いっていうのはねぇ、この二日間だけで行われるわけじゃないの。これから先の人生ずっと取り合い続けるのよ。あなたがもし六億を得てここを出たとする。誰にも殺されないと思う?制限時間なんてあってないようなもの。あなたみたいな甘党をうまく丸め込むには便利な道具ね」
「・・・なるほどね。納得した。じゃぁ次の質問だ。現在、生き残っている奴等のリストを見ると、及川、松下と俺達の他にもう一人、堀川大輔という男がいる。しかし、どういうわけかこいつが何処の監視カメラにも映っていない。これはどういうことだ?」
「そんなの、監視カメラにだって当然死角って物があるわ、そいつはうまいこと監視カメラの死角を見つけて隠れているんでしょ?まぁ大丈夫よ、そいつは銃も持ってないしスタートした時からずっと隠れ続けてるだけのただの臆病者でしょ?」
綾はこいつの存在を全く気にしていない風に見えた。
「隠れ続けてると臆病者って言うならお前だって、及川だってゲーム開始からずっと隠れてた臆病者だろ?」
「まぁまぁ大丈夫だって、あたし達を攻撃しに来たとしたらその時は流石に監視カメラに映るでしょ?そしたら、携帯で教えればいいんだから。」
やっぱり綾はこいつのことを全く気にしていない。本当にそれでいいのだろうか?綾の作戦は一見完璧に見える。だが、一〇〇%成功する作戦など無い。この堀川と言う男、偶然カメラの死角に隠れているのか?それともカメラの位置を考慮して意図的に避けて隠れているのか?完璧に見えた作戦を一瞬にして破綻させるイレギュラー、堀川大輔がそれにならないとは限らない。いったい何処に隠れているんだ?もしかしたらこの部屋のドアの前にいて開けた瞬間に襲い掛かってくるかもしれない。この男の存在のせいで、最強と思われた監視カメラの映像と言う情報が急に陳腐なものに見えてきた。堀川大輔は直貴の心に一抹の不安を植え付けた。
「そして、最後の質問だが・・・これが一番重要なことだ。」
直貴は堀川の存在だけは必ず記憶に留めておこうと決めて、次の質問に移った。
「わかってるわよ。この作戦に当たっての最も重要な点。そこをまだ話してないものね。」