いろんな顔をする。詐欺師としては向いているんだろう。
「じゃぁ、及川を倒す秘策を言うわよ。心して聞いて」
綾は得意そうに言った。
「作戦は単純、二人の内、片方がこの部屋を出て戦いに行く。もう一人はこの部屋に残ってパソコンの情報を攻め役に送り続ける。こうすれば、部屋の外でもパソコンの情報を知ることができるって訳よ」
得意そうな顔に無邪気な笑みが混じる。
「情報を送る?いったいどうやって?」
直貴は返した。
「そんなの簡単じゃない。携帯電話よ。持ってるでしょ?あなたも」
「携帯?まさか?使えるのか?ここで」
驚いて直貴が返すと、綾は当たり前だと言う顔をして言った。
「誰が使えないなんて言ったの?」
「だってよ!それじゃ携帯使って警察とかに連絡した方が・・・」
そう言った直貴を見て、綾はため息をついて言った。
「馬鹿ねほんと・・・。よくそんな甘い考えで今まで生きてこれたわね。いい?まず、こんな殺人ゲームが行われているなんて話しても誰も信じてくれない。そして万が一信じてくれてもこの場所の正確な位置がわからないでしょ?車で連れてこられたわけだから日本のどこかではあると思うけど。日本の警察がいくら優秀でもここに辿り着くまでにはいくらか時間がかかかるでしょうね。その前にあなたは殺されて証拠も隠滅されている。つまり警察に電話するのは無駄ってこと。それに、おそらく生き残ってる人間で警察に電話しようなんて考えるのはあなただけでしょうね」
「な、なんでだ?」
直貴は訊いた。
「わからないの?このゲームに勝てば六億よ!こんなビッグチャンスをみすみす棒にふる奴なんていないって言ってるの!」
・・・馬鹿げてる。生き残ってる奴は皆自分が勝つつもりだってことか。それとも馬鹿は俺なのか?ここまで来てまだ勝つつもりになれていない。勝負事ってのはそもそも勝つつもりで臨むもの、勝算があるから行うものだ。・・・悔しいが今の俺にはそれが全く無い。
「わかった?わかったなら、携帯番号教えてくんない?」
携帯番号教えてくんない? っか まさかこんな地獄の底で女に携帯番号聞かれるとはね。
「無事に外に出られたら、デートぐらい付き合ってあげるよっ。まぁその甘い考えで外に出られたらの話だけどねっ」
「冗談じゃねぇ!あんたみてぇな危険な女・・・外に出たらもう二度と会いたくないね」
直貴はまんざらでもないと思った。全く、今から人を殺そうって話をしている時になんでこんな顔ができるんだこの女?
「それとまだ、いくつか質問がある」
「なにかしら?」
綾はさっとまじめな顔に戻った。