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ー綾ー  作者: 城塚崇はだいぶいい
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三〇〇〇万やるから、人殺してくれ って言われたら、あんたできるかい?

 直貴は先の尖ったモップを振りかぶった。あとはこいつを佐藤の喉にぶち込むだけ!

 振り下ろそうとした瞬間、佐藤と目が合った。涙、鼻水を垂らし恐怖で歪んだ顔、いや、違う。悔しさ、恨みをさらけ出した人間の本性の顔。おぞましい顔。その恨みのこもった目は俺だけに向けられている。佐藤の目の光は一瞬にして俺を嫌な気分にさせた。とてつもない不快感が襲ってきた。

 俺は今から金のために人を殺す。

 それは直貴が今まで住んで来た世界には存在しないこと。犯罪者、どこか遠くの悪い奴がやることであり、まさか自分がやることになるとは思ってもみなかった。


 しかし、そんなことは無いのだ。例えばあなたは受験をしたことがあるだろうか?就職活動をしたことがあるだろうか?あなたはあの時、誰かを蹴落としたからそこに立っている。そして、あなたが蹴落とした誰かは、将来的に職に就けなかったかもしれない。そして、金を得られなかったがため、つらい人生を強いられ、最終的には死んでしまったかもしれない。死んでしまった原因を作ったのはめぐりめぐっていくとあなたが蹴落としたから、あなたが上に行くために蹴落としたから。あなたが金を手にするために殺したのだ。

 多くの人々は直接手を下さない。だから気付いていないかもしれない。あなたがそこに立っているのは、あなたが誰かを殺したからということに。

 このゲームはそう言った人生の長いやり取りを省いて人間同士の金の取り合い、殺し合いを直接目の当たりにすることが出来る。人は皆、金のために人を殺しているのだということを無理やり認識させられる。


 直貴の手は止まっていた。それはおそらく一瞬の出来事だっただろう。余計なことを考えてしまったがため動きが止まってしまったのだ。佐藤の眼球から溢れ出した感情というものが直貴の頭の中に流れ込んだため、余計なことを考えてしまった。

 その隙を突いたのか、それともただの死に物狂いだったのか?佐藤は折れていないほうの手で直貴の胸を渾身の力を込めて殴ってきた。

 直貴は突き飛ばされて、しりもちをついた。肺の中の空気が押し出されて一瞬呼吸が止まった。

 なんだ?この重いパンチは? どう考えても何かのスポーツ、あるいは格闘技で鍛えた人間の攻撃だ。あの女、騙しやがった。佐藤は中肉中背のただのおっさんじゃない。『肉弾戦ならまず負けない』と言っておけば俺がこの作戦に乗ると思ったんだ。また、騙されたのか・・・畜生!!!

 しかし、次の瞬間、佐藤がアスリート級の筋肉を持っているかどうかなどどうでも良くなった。

 佐藤がポケットからもう一丁の銃を取り出したのだ。

 佐藤は遠藤を殺してからここまで追って来たと聞いている。つまり、遠藤の銃を拾っている可能性が高い。佐藤は銃を二丁持っている。

 佐藤は直貴に向かって銃を構えた。

 佐藤は既に人を殺している。直貴のようにここで躊躇ったりすることは無いだろう。

 パ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ン!!!!!!!!!!!!

 銃声は廊下全体にこだまして大きく鳴り響いた。

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